『ぼくたちの家族』
石井裕也監督が若いうちに撮っておきたかったという、家族のリアルな姿の映画。
公開:2014年 時間:117分
製作国:日本
スタッフ
監督: 石井裕也
原作: 早見和真
『ぼくたちの家族』
キャスト
若菜浩介: 妻夫木聡
若菜俊平: 池松壮亮
若菜玲子: 原田美枝子
若菜克明: 長塚京三
若菜深雪: 黒川芽以
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
ごく平凡な一家の母・玲子(原田美枝子)は物忘れがひどくなり、病院で検査を受けると、末期の脳腫瘍で余命1週間と宣告される。
玲子は家族がバラバラになることを恐れながらも認知症のようになり、家族にひた隠しにしてきた本音を吐露。
突然訪れた事態に父(長塚京三)は取り乱し、社会人の長男(妻夫木聡)は言葉をなくし、大学生の次男(池松壮亮)は平静を装おうとする。
残された男三人はさまざまな問題と向き合いながら、最後の「悪あがき」を決意する。
今更レビュー(ネタバレあり)
石井裕也監督は原作ものがいい
『川の底からこんにちは』をはじめ、オリジナル脚本の石井裕也監督作品は、どぎつい感じで笑いを取りに行く印象なのだが、原作ものだと大きく作風を変えてくる。
評価の高い前作『舟を編む』がまさにそうだったし、早見和真の同名原作の映画化である本作も、危機的状況に直面する家族を落ち着いたトーンでとらえた佳作といえる。
舞台となっているのは、山梨県上野原市にある広大な住宅街コモアしおつ(映画では三好駅とある)。同じようなデザインの家屋が見渡す限り広がる光景が圧巻だ。
都心からは遠いこの地方都市に戸建てを買って暮らす若菜家。息子が二人いるが、兄の浩介(妻夫木聡)はすでに結婚し家を離れ、弟の俊平(池松壮亮)は東京でひとり暮らしの大学生。
小さな会社を経営している夫・克明(長塚京三)と暮らす妻の玲子(原田美枝子)に突如、病魔が襲い掛かる。
「最近なんだか、物忘れがひどいのよ」
気になっている玲子は、カネの無心をしてきた俊平に「こんなこと、あなたにしか言えないわ」と相談するが、「自分で言ってるうちは大丈夫らしいよ」と相手にされない。

だが、すぐに病状は悪化する。浩介の嫁・深雪(黒川芽以)の懐妊祝いの宴席で、玲子は奇行を繰り広げてしまい、すぐに病院へ。
◇
この時点で、若菜家だけではなく、我々もアルツハイマーを疑っているはずだ。だが、医師は脳腫瘍だという、それも余命と言われれば一週間だと。
この急展開には驚く。『明日の記憶』系かと思っていたら『余命1週間の母上』だったわけか。
家族の配役が絶妙
ただ、この映画がユニークなのは、原田美枝子が演じる病気の玲子が、緊急入院している病床でも、まったく明朗さを失わないところだ。
たまに奇声をあげて取り乱すことはあっても、平時にはいつも陽気で楽しそうに家族と談笑する。難病もののジャンルで、患者がこんなに明るく病床にいる作品も珍しい。

妻夫木聡演じる長男の浩介には引きこもりだった過去があり、長男としての気負いと責任感からか、何ごとも深刻に受け止めて気難しい顔をする。全ての不幸を自分が背負いこんでいるかのように。
そして父・克明は長塚京三なのだから当然、頼りがいがあるのかと思いきや、実は会社も火の車で家のローンにも浩介を保証人にし、そのくせ新車買換を検討しているようなバブル感覚の抜けない無節操な人物。今回の入院費も息子頼りなのだ。

この父子だけだったら、何とも深刻な映画になってしまうところだが、一見いい加減な若造に見える俊平が、ただの楽天家ではなく、客観的に現実をとらえている、実は頼れるヤツだというのが分かってくる。
池松壮亮が演じる俊平は問題児であるはずだが、玲子の一番の相談相手になっていることからも、それが窺い知れる。
本作では、これまでと違い石井裕也監督が主体的に家族のキャスティングに携わったそうだが、確かにこの4名の配役は絶妙なバランスだ。

中でも、息子と腕を組んで歩いてもサマになる美しく陽気な母親を演じる原田美枝子は、余人をもって代えがたいハマリ役であり、沈滞ムードを一掃する重責を担う池松壮亮もまた、見事な演技をみせている。
一条の光がさすまで
家族の中で最もつらい思いをしているのは長男の浩介だろう。
実家のローン1200万円の連帯保証人にさせられたため、父は自己破産もできずにいる。金欠の父に代わり入院費も自分が工面しなければならない。
疲弊して家に戻れば、嫁からは「生まれてくるこの子の為の貯金だと理解したうえで、いくら必要なのか教えてください」と塩対応。おまけに母親からは「俊平、このひと誰?」と自分だけが顔も名前も忘れられてしまう。

兄のしんどさに比べれば弟は勝手なものだと思ってみていると、俊平も苦労のすえに大仕事をやってのける。
病院に見放されて退院を迫られる母に、希望を捨てずに治療を施してくれる転院先を必死に探し回った末、ついにその先生をみつけるのだ。それも、脳腫瘍ではない見立てもあり得るというではないか。
これを言い出す医者に鶴見辰吾、そして彼の紹介で手術を執刀してくれるのが板谷由夏。特に鶴見辰吾が演じるいい先生の登場にはほっとさせられる。

手術室に向かうストレッチャーの上でも、頭に装着した脳の固定器を指して「お父さん、似合ってる?」と聞く玲子の天然の明るさがいい。
俊平に向かって「浩介が引きこもりになったのも、家におカネを入れないお父さんが悪いのよ。でも別れたくないの。あの人のこと好きだから」と、若い頃の自分に戻った原田美枝子があのハスキーボイスで語る姿も可愛い。
玲子の病気は結局、脳腫瘍ではなく悪性リンパ腫だったと判明。「治療の余地がある」ということなので決して楽観視はできないが、「余命1週間の母上」が「余命5年」にまで、まずは条件良化する。
患者が生き長らえるのだから<難病もの>の映画とはいえないのかもしれないが、「母さんがダメになっちゃうのかと…」と病院の廊下で棒立ちしたまま涙ながらに喜び合う男三人の姿は胸を打つ。
「兄貴が引きこもりの頃から、この家族はもうバラバラだったよ」と俊平は言うが、母の病気という苦難を乗り越えたことで、再び家族の結束を強めることができた。
ここ最近の石井裕也監督の作品と比較すると、随分と素直な展開の作品だと感じる。
その意味ではインパクトに欠けるのかもしれないが、我が身に置き換えても共感する部分の多い、等身大の家族ドラマとして印象深い。
