『しあわせな選択』考察とネタバレ|ライバルは蹴落とせばいいんだよ

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『しあわせな選択』
 No Other Choice

パク・チャヌク監督が『JSA』以来のイ・ビョンホンの主演で贈るノワールコメディ

公開:2025年 時間:139分  
製作国:韓国

スタッフ 
監督:        パク・チャヌク
原作:  ドナルド・E・ウェストレイク
                『斧』
キャスト
ユ・マンス:     イ・ビョンホン
イ・ミリ:      ソン・イェジン
チェ・ソンチュル:   パク・ヒスン
ク・ボム:      モイ・ソンミン
イ・アラ:       ヨム・ヘラン
コ・シジョ:    チャ・スンウォン

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C)2025 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM ALL RIGHTS RESERVED.

あらすじ

製紙会社に勤めるマンス(イ・ビョンホン)は、妻ミリ(ソン・イェジン)と二人の子ども、二匹の飼い犬と暮らし、すべてに満ち足りていると思っていた。

しかしある時、25年勤めた会社から突然解雇されたことで事態は一変。就職活動は難航し、愛着ある自宅も手放さざるを得ない状況に。

追い詰められたマンスは成長著しい製紙会社に飛び込みで履歴書を持ち込むも、そこでも無下に断られてしまう。

自分こそがその会社に最もふさわしい人材だと確信するマンスは、ある決断を下す。それは、人員に空きがないなら自分で作るしかないというものだった。

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レビュー(まずはネタバレなし)

パク・チャヌク監督とイ・ビョンホンの組み合わせは、ともにブレイクするきっかけとなったあの『JSA』(2001)を当然に思い出してしまうところだが、作品のテイストもキャラも全く異なる。

郊外の庭の大きな一戸建ての立派な邸宅に、会社から贈られたウナギで家族とBBQを堪能する主人公のマンス(イ・ビョンホン)

美しい妻ミリ(ソン・イェジン)と一男一女のこどもたち、絵にかいたような幸福そうな家庭だが、それが永続しないのは当然のお約束。

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夫を持ち上げて褒め称える妻のソン・イェジン『私の頭の中の消しゴム』『四月の雪』以来久々に観たが、清楚な美しさは相変わらず。

一方で我らがイ・ビョンホンは相変わらずの二枚目で体型もスリムなままだが、口ひげをたくわえた風貌は、いつものアクション映画とはちょっと異なる雰囲気。

かつてのイケメン俳優が重ねる年齢と口ひげでイメチェンしていくパターンとしては、マット・ディロンに近いか。

さて、このマンスが25年勤続していた製紙会社の合併で米国から来た経営陣にレイオフされ、再就職目指して悪戦苦闘する。

とはいえ、この業界には愛着もプライドもあり、他の業界への転職など考えられない。生活資金も枯渇し始め、食費の切り詰めはクルマの処分は勿論、住み慣れた我が家の売却まで妻の提案で進みだす。

家長としては何とか打開策を見出さねば。有望な同業会社への就職が叶わなかったところで、マンスはひらめく。ライバルを蹴落とせばいいのではないか、と。

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ドナルド・E・ウェストレイクの原作『斧』を読んだ。こちらは米国人が主人公で、勤務する製紙会社がカナダに事業所を移すとかでリストラされる話で、ノワールな文体で結構楽しめる。

映画はその原作の舞台を韓国に移したわけだが、これが結構合っている。韓国における失業者事情や家庭のあり方、底辺に落ちたくない悲哀など、原作よりもウェットな感じが出ていて、むしろ味わい深くなった気さえする。

このマンスがひらめいたことというのは、公式サイトにも示されていないことではあるが、劇場予告や鉢植えをライバルの頭上で抱えて立っているショットなどから、容易に窺い知れる。

彼は、殺人者として覚醒していくのだ、それも希望の職を得るために。ポン・ジュノ『パラサイト 半地下の家族』が本作の引き合いに出されるのもよく分かる。

ノワールな犯罪行為とシニカルな笑いのブレンドは、言ってみればパク・チャヌク監督の得意技だ。ただ、これまでの監督作品と比較すると、そのドギツイ感じはいつもよりはだいぶマイルドかなあという感じがする。

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坂道の下で標的の男が立って携帯で話をしていて、その頭上に位置する民家の屋上に簡単にマンスが忍び込める場面は、よくぞこのロケ地を見つけ出したものだというほどお誂え向き。

長身のイ・ビョンホンが茫然と立ち尽くすカットが、『孤独のグルメ』のようでもある。

劇場予告ではまるで妻のミリが殺人をそそのかしたように見えたが、それは早合点だったようで、彼女は夫を手玉に取る悪妻ではなかったのが朗報。

  • 順風満帆な製紙会社の班長チェ・ソンチュル『イカゲーム』パク・ヒスン
  • 切実に再就職を望む製紙業界のベテラン、ク・ボムモ『ソウルの春』イ・ソンミン
  • その妻で売れない女優のイ・アラヨム・ヘラン
  • 製紙業界から靴屋の店頭セールスに転職したコ・シジョチャ・スンウォン

いずれも韓国映画界ではベテラン揃い。

父親が戦争で使ったという古い拳銃で、ひとりひとり冷酷無比に射殺していく原作の主人公に比べると、映画は標的ごとに多様性やマンスの葛藤も描かれており、なかなか芸が細かい。

レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

架空の製紙会社を作り上げて、そこの求人広告を業界紙に載せる。私書箱に集まってくる履歴書の中から、有望株と思われるものをいくつかピックアップし、ターゲットを三人に絞り込む。

大きな顔写真を並べて獲物を選ぶ様子が、懐かしい『スパイ大作戦』トム『ミッションインポッシブル』ではなくテレビ版ね)のオープニングのよう。

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庭の植木いじりが好きなマンスが、死体を針金でコンパクトにまとめて植木の下に隠蔽したり、飼い犬や娘のチェロ、息子の窃盗行為、妻のダンスなど、原作とはだいぶ異なる設定をいろいろと投入することで、映画はさらに悲哀感が深まった。

悪事は最後には発覚し、正当に裁かれるか憂き目に遭うものだと思っているかもしれないが、映画も原作も、主人公はのうのうと生き延びてチャンスをつかむ。

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AIで管理された広大な無人工場でパルプが作られる工程を一人で管理するマンスの、幸福そうな表情が何とも言えない。

パク・チャヌク監督も作風が丸くなったなあと思わせる、韓国ノワール風コメディの王道。