『北のカナリアたち』今更レビュー|吉永小百合版『二十四の瞳』にはなれず

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『北のカナリアたち』

湊かなえ原作を阪本順治監督が吉永小百合主演で映画化。北の三部作と言われる一本。

公開:2012年 時間:130分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:           阪本順治
脚本:          那須真知子
撮影:           木村大作
原案:           湊かなえ

           「二十年後の宿題」
キャスト
川島はる:        吉永小百合
川島行夫:         柴田恭兵
阿部英輔:        仲村トオル
鈴木信人:   森山未來/ 小笠原弘晃
戸田真奈美:  満島ひかり/ 渡辺真帆
生島直樹:     勝地涼/ 相良飛鷹
安藤結花:   宮﨑あおい/ 飯田汐音
藤本七重:   小池栄子/ 佐藤純美音
松田勇:     松田龍平/ 菊池銀河
堀田久:         里見浩太朗
信人の婚約者:      高橋かおり
真奈美の夫:        駿河太郎
中田社長:          菅田俊
奥村刑事:         石橋蓮司

勝手に評点:2.5
  (悪くはないけど)

(C)2012「北のカナリアたち」製作委員会

あらすじ

北海道の離島にある分校に赴任してきた小学校教師の川島はる(吉永小百合)。わずか6人しかいない生徒は、当初は彼女に警戒心を抱いたものの、合唱を通じてみな心を通い合わせ、一つの輪を作り上げていく。

ところが夏のある日、はると生徒たちが海辺でバーベキューを楽しんでいた最中、思わぬ悲劇が発生。溺れかけた生徒のひとりを救おうとし、はるの夫(柴田恭兵)が亡くなる。

それをきっかけに島を出てから20年後、教え子のひとり、信人(森山未來)を事件の重要参考人として追う刑事(石橋蓮司)の訪問がきっかけとなり、はるはかつての生徒たちに会う旅へ出る。

今更レビュー(ネタバレあり)

最新作『てっぺんの向こうにあなたがいる』の13年前に、阪本順治監督と吉永小百合が最初にタッグを組んだのが本作『北のカナリアたち』

同じ北海道を舞台にした『北の零年』(2005、行定勲監督)、『北の桜守』(2018、滝田洋二郎監督)とともに、吉永小百合<北の三部作>と称されているそうな。

吉永小百合の組み合わせには意外感もあったが、原作は湊かなえの短編集「往復書簡」に所収の「二十年後の宿題」。文字通り、往復書簡スタイルで書かれたミステリー仕立ての短篇だ。

小学校の教師が教え子たちと川に行き、夫を水難事故で亡くす。20年後に教え子たちに一人ずつ話を聞くことで、真相が明らかになっていく。

こういった骨格となる設定は踏襲しているが、それ以外の多くの部分は那須真知子によるオリジナル脚本で、原作とはまったくの別物と言ってもいいほど。

20年前に北海道の分校で教師をしていた主人公・川島はる(吉永小百合)は、東京で図書館司書として定年を迎えようとしていた。

そこに刑事(石橋蓮司)が現れ、殺人事件の重要参考人だという鈴木信人(森山未來)の消息を尋ねてくる。信人はかつての教え子だった。

なぜ、長年音信不通の信人はが自分の住所を知っているのか。気になったはるは、分校の他の教え子5人を、一人ずつ訪ねていく。

(C)2012「北のカナリアたち」製作委員会

映画は、20年前に北海道の離島の分校に赴任したはるが、子供たちの歌の才能に気づき、合唱を通して自信や生きる喜びを与えていく回想シーンと、成長した教え子たちに出会うことで、当時知らなかったことに気づかされる現代シーンとが交錯しながら進んでいく。

カギとなる出来事は、喧嘩していた男女の生徒を仲直りさせようと、教え子たちを招いて企画したバーベキュー大会で、はるの夫で大学教授の行夫(柴田恭兵)が、溺れた子供を救おうとして水死してしまったこと

更に、アクシデントが起きたその時点で、はるはその場を離れて、若い男(仲村トオル)と逢っていたことが村中の人々に知られてしまう。

(C)2012「北のカナリアたち」製作委員会

さて、映画自体の出来栄えは正直微妙な印象だった。吉永小百合はさすがに魅せるが、世代的にもサユリストという訳ではないので、彼女が主演だからといって盲目的に絶賛もできない。

でも、東映創立60周年記念作品というだけあって、映像はすばらしい。さすが、木村大作のカメラだけはある。いつものごとく海の上をカモメが舞わなくても、彼の仕事だとすぐにわかる。

(C)2012「北のカナリアたち」製作委員会

オープニングの海に差し込む陽光のカットから、ただものではない感が溢れ出ているが、冬景色に吉永小百合の組み合わせは、やはり絵になる。

崖っぷちに立つ吉永小百合仲村トオルのシーンも、背景の海と陽光との組み合わせが素晴らしすぎて、役者の演技に目がいかないほどだ(それでいいのか)。吉永小百合が分校の小学校教師役というのも、馴染んでいたと思う。

(C)2012「北のカナリアたち」製作委員会

ただ、残念だった点も多い。子供たちが合唱で歌の魅力に目覚めるという着想で、山下達郎や現代風の曲を歌わせたのは良かったが、ロシア民謡の「カリンカ」を持ってきたのはミスマッチでは? 

子供たちがクソ真面目にあれを歌い、更に大人になっても最後に「カリンカ」を合唱し始めるのは、感動というより歌声喫茶っぽくて違和感が。

また、石橋蓮司扮する刑事が、いきなり先生に写真を見せて、「殺人事件の重要参考人なんですが、最近会いに来ませんでしたか?」とは、言わんだろう、普通。

だって、そのせいで、先生から教え子たちに、「信人が殺人犯だなんて!」と話が拡散していくわけで、これは刑事の基本動作として考えにくい。

水難事故死する夫に柴田恭兵、はると密会している、心に傷を負っている刑事の仲村トオルという配役は、当然『あぶ刑事』の先輩後輩の間柄を思わせるが、本作では同じ場面での共演はワンシーンのみ。

しかも、すれ違うだけだから、恭兵の脇でトオルがまじめな芝居をしていても、思ったほどの違和感はない。

ただ、トオル吉永小百合抱擁からキスシーンの流れに、納得させるだけの演出はない。あれは不倫ではないのだろうが、単なるその場の勢いの行為というのでもないのだろう。映画オリジナルの展開だからか、謎が多かった。

溺れ死ぬ恭兵の演技、沈む間際に手を振って笑顔を見せるところは不自然すぎて、阪本監督『亡国のイージス』真田広之が見せる手旗信号を思い出した。

6人の子供たち。大人になってからのキャストが豪華だ。登場順に、森山未來、満島ひかり、勝地涼、宮崎あおい、小池栄子、松田龍平

いずれも、単独で映画やドラマの主役が張れる人材ばかりだ。これはやや豪華すぎる。

実際、殺人犯の森山未来と警察官になった松田龍平にはそれなりに出番があるからよいが、他のメンバーは出番が少なくて勿体ない。今思えば、演技派女優の満島ひかり宮崎あおいの起用法は、相当に物足りない。

北海道を舞台にしていて、仲間の一人のマイペース女子が小池栄子で、刑事役が仲村トオルっていう組み合わせが、森田芳光監督の『わたし出すわ』っぽい。プロデューサーが黒澤満だったから、あの作品も東映っぽさがあったせいかもしれない。

森山未來の演じる信人が真犯人ではないのだと信じていたら、本当に彼が犯人だった。

もっとも、暴力的な社長(菅田俊)から、元妻で信人が婚約した女性(高橋かおり)を殺されたことや、そもそも正当防衛が認められそうな事案であり、情状酌量の余地は多い。

そんな信人を送り出すために、仲間たちが分校に集まる場面は一応感動的ではあったが、前述の「カリンカ」が台無しにしてしまった感はある。

先生にかわり別の人物が教え子たちの調査を任される原作にはミステリーらしい結末があったが、先生自身が調査に乗り出す方が映画的な展開ではある。

ただ、そこに映画オリジナルの若い男(仲村トオル)を登場させたことで、話はよく分からないものになった気がするなあ。吉永小百合版の『二十四の瞳』にはなれなかった。