『かくかくしかじか』考察とネタバレ|明日のためにその① 描くべしっ、描くべしっ

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『かくかくしかじか』

東村アキコの自伝的原作を映画化。漫画家を目指す女子高生に永野芽衣、絵画塾のスパルタ教師に大泉洋。

公開:2025年 時間:126分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        関和亮
原作:      東村アキコ

『かくかくしかじか』
キャスト
林明子:      永野芽郁
日高健三:      大泉洋
北見:        見上愛
佐藤:        畑芽育
今ちゃん:      鈴木仁
西村くん:     神尾楓珠
よし子(姉) :    永吉夏音
たかし(弟) :     平野央
岡さん:     津田健次郎
中田先生:     有田哲平
明子の母親:     MEGUMI
明子の父親:    大森南朋

勝手に評点:3.0
   (一見の価値はあり)

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

あらすじ

宮崎県に暮らす、お調子者でぐうたらな女子高生の林明子(永野芽衣)は、幼い頃から漫画が大好きで、将来は漫画家になりたいという夢を抱いている。

その夢をかなえるべく美大進学を志す明子は、受験に備えて地元の絵画教室に通うことになった。そこで出会ったのが、竹刀片手に怒号を飛ばすスパルタ絵画教師の日高先生(大泉洋)だった。

何があっても、どんな状況でも、生徒たちに描くことをやめさせない日高。一方の明子は、次第に地元の宮崎では漫画家になる夢をかなえることはできないと思うようになっていき、日高とすれ違っていく。

レビュー(若干ネタバレあり)

「海月姫」「東京タラレバ娘」などヒット作を生み出してきた漫画家・東村アキコの自伝的作品で、漫画家を目指す女子高生と恩師であるスパルタ絵画教師との9年間にわたる軌跡を描いた作品。

原作コミックは読んでいないので、映画のみのレビューとなる。

公開の直前に永野芽郁田中圭とのスキャンダルを起こしたおかげで、公開こそされたものの、プロモーションには相当苦労していたようだった。

大泉洋東村アキコが主演女優不在の穴をカバーしていた記憶がある。

作品の出来不出来とは違うところでケチが付くのは、関係者にとってやり場のない不満が高まるところだろう。もはや伝説化した沢尻エリカ『クローズド・ノート』騒動を思い出す。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

映画は冒頭、もはや人気漫画家となっている主人公の林明子(永野芽郁)の漫画賞の授賞式。和服姿の永野芽衣が、結構東村アキコ本人のルックスに寄せに行っているように見え、このキャスティングはうまいなあと思った。

そこから先は、本編である高校生時代の回想のドラマになる。自分の才能に何の疑いも持たず、美大を出て漫画家となる人生設計に一点の不安もなく突き進む明子。

宮崎県の県民性らしいが、そんな彼女に苦言を呈する者は少なく、両親(MEGIUMI大森南朋)も学校の美術部の先生(有田哲平)も、ひたすら明子を持ち上げる。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

MEGUMIの母親役は『おいハンサム!!』っぽい。大森南朋『そして、バトンは渡された』でも永野芽衣と父娘役。

くりぃむしちゅー有田が案外演技派だったのに感心した。相方の上田は演技下手を自認するほどなのに。

さて、そんな我が道を行く明子が、辛口の級友で美大志望の北見『国宝』見上愛!)に感化され、月謝5千円と破格に安い紹介制の絵画塾に入り、ジャージ姿に竹刀片手の鬼講師・日高健三(大泉洋)の洗礼を受ける。

自分の作品、技量はこてんぱんにダメ出しされ、はじめは拒絶反応を示す明子が、次第に日高の愛弟子として成長していく。そんな流れになる。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

美大を目指す若者と指導者の物語と聞くと、何となくシリアスな青春ものに思える。例えば『ブルーピリオド』のように、そもそも美大合格を目指すものたちの世界は相当熾烈なのだ。

だが、この映画は基本的にゆるいコメディとして作られているのが興味深い。

関和亮監督は『地獄の花園』永野芽衣のコメディエンヌとしての才能を引き出しているし、大泉洋に至っては、ただそこに佇んでいるだけで笑いが取れる才人だ。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

やがて日高の熱血指導が奏功し、お調子者の明子は首尾よく金沢の美大に合格する。このあたりから、ただの能天気なコメディに、やや哀愁が漂い始める。

日高は美大こそ出ていないが、九州では知られた実力派の画家であり、生徒たちを立派な画家に育てることが生き甲斐の熱血漢だ。

だが、ご存知のように明子は絵に興味はあるものの、それは漫画家になるためのステップに過ぎない。それをまだ、明子は日高に告げることができずにいる。この時代の師弟の距離感が何とも切ない。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

結局明子は美大に入ってからは絵画への情熱を失い、父の紹介でコールセンターに就職するものの(似合わねえ~!)、そこから逃げ出すために初志貫徹して漫画を創作し、集英社の3席入賞を果たす。

そこからはプロデビューへと続いて現在に至るわけだが、不思議な事に、肝心の漫画家としての努力や葛藤などは、この物語ではほとんど描かれていない。あっという間にプロデビューといったようなサクセスストーリーに見える。

女性漫画家版「まんが道」というには、あまりに道が平坦ではないかと思ったが、原作にはきちんと描かれているのかもしれない。

大学時代に恋人(神尾楓珠)ができて、そこから恋愛要素が加わるのかと思いきや、こちらは随分淡泊な扱いで、むしろ絵画塾のイケメン後輩、今ちゃん(鈴木仁)の方が役としてはおいしい。

終盤、日高が末期の肺がんだと分かり、ついには死別することになってしまうが、最後まで弱音を吐かず生徒に「描け、描け」と指導を続ける日高のキャラにも助けられ、過度に湿っぽくならずに物語は幕を閉じる。

こんな竹刀片手に怒鳴り散らすわ、女子大生の下宿部屋に泊めてくれと押しかけるような変わり者の教師は、当世のコンプライアンス的には完全アウトなのだが、亡くなった時には、人一倍喪失感が大きい。

(C)東村アキコ/集英社 (C)2025 映画「かくかくしかじか」製作委員会

芸術一途の真っすぐな人物ゆえに、こういう人こそ恩師と言いたくなってしまうもの。東村アキコによれば、大泉洋の演じる日高先生は実に本物のイメージに近いそうだ。

そうなると、「林っ、描け。いいから描け」というお決まりの台詞も事実に基づくのだろうが、映画的にはやや単調に感じてしまったので、もう少しバリエーションがあってもよかった。

絵画塾の教え子で、今では売れっ子となった明子のアシスタントとして活躍している佐藤(畑芽育)が、その後のはるな檸檬だというのは今回初めて知った。ああ、だからどこか絵のタッチが似ているのか。

とりま、今更ながら「かくかくしかじか」の原作コミックを読んでみようと思う。