『亡国のイージス』今更レビュー|よく見ろ日本人、これが戦争だ

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『亡国のイージス』

映像化困難と思われた福井晴敏のベストセラーを阪本順治監督が豪華キャストで映画化。

公開:2005年 時間:126分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:         阪本順治
原作:         福井晴敏

         『亡国のイージス』
キャスト
《いそかぜ》
先任伍長・仙石恒史:  真田広之
1等海士・如月行:    勝地涼
副長・宮津弘隆2佐:   寺尾聰
船務長・竹中勇3佐:  吉田栄作
水雷士・風間雄大3尉: 谷原章介
砲雷長・杉浦丈司3佐: 豊原功補
掌帆長・若狭祥司:    光石研
DAIS本部長・渥美:   佐藤浩市
飛行隊・宗像良昭1尉: 真木蔵人
ヨンファ:       中井貴一
ドンチョル:      安藤政信
ジョンヒ:     チェ・ミンソ
警察庁長官・明石智司:  平泉成
内閣情報官・瀬戸和馬: 岸部一徳
総理大臣・梶本幸一郎: 原田芳雄

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

(C) 2005「亡国のイージス」associates

あらすじ

海上訓練中だった海自護衛艦“いそかぜ”が、海自隊員に偽装したアジア某国のテロリスト一味と祖国を裏切った副長・宮津(寺尾聡)に乗っ取られる。

乗員たちは離艦させられるが、たたき上げの伍長・仙石(真田広之)と一等海士・如月(勝地涼)は艦内に潜んで反撃の機会をうかがう。

一味は米軍が極秘に開発した新化学兵器“GUSOH”を奪取し、存在を公表しなければその兵器で東京を攻撃すると宣言。タイムリミットは刻一刻と近づく。

今更レビュー(ネタバレあり)

福井晴敏の原作は、2005年だけで『ローレライ』『戦国自衛隊1549』、そしてこの『亡国のイージス』と相次いで映画化されている。

その中でも一番のスペクタクルと言えるのが福井晴敏の代表作でありベストセラーの『亡国のイージス』だろう。

それを阪本順治監督のメガホンで、豪華キャストで映画化、それも主演の先任伍長真田広之を起用するのだから、公開当時に期待が膨らんだのを覚えている。

防大生の息子を国家に殺された私怨から、宮津副長(寺尾聰)がテロリストのホ・ヨンファ(中井貴一)と結託し、海上訓練中だった海自護衛艦“いそかぜ”を乗っ取る。

そして辺野古基地から奪取した化学兵器“GUSOH”を弾頭に装着したミサイルの照準を首都圏に合わせ、日本政府を脅迫する。

防衛庁情報局(DAIS)本部長の渥美(佐藤浩市)が仕向けた工作員・如月行(勝地涼)は船員として”“いそかぜ”に潜入していたが、ヨンファたちにみつかり、伍長である仙石(真田広之)と二人で艦内を逃げ回り、次第に反撃を仕掛けていく。

言ってみれば、戦場ならぬ船上の『ダイ・ハード』のようなアクション映画だが、冷静に考えて見れば、これは相当に難易度の高い企画といえる。

今回久々に読み直してみたが、福井晴敏の原作は上下巻の長編のはじめから最終頁まで、映画にしたくなるような名場面がぎっしりと詰まっている。

海自護衛艦“いそかぜ”が何者かに乗っ取られる前の、超強力な化学兵器“GUSOH”を敵が奪って逃走するまでの壮大な序盤戦から、“いそかぜ”の中に隠れるたった二人が反撃を繰り広げていく様子など、これでもかというくらいクライマックスが手を変え品を変え畳み掛けてくる。

(C) 2005「亡国のイージス」associates

これを2時間枠で映画にするのは、さすがにつらい。二部作にしてもいいくらいだ。

そこを頑張って削ぎ落し、何とか既定の尺に収めた結果、どうにか物語の辻褄は合わせられてはいるが、内容は実に味気ない。

例えば、“GUSOH”がいかに恐ろしい破壊力を持った化学兵器かも、殆ど伝わらない。

それに、如月行がゲーム機に隠して通信機を持ち込むという設定の細かさや、艦内に謎の女工作員ジョンヒ(チェ・ミンソ)がいることの理由付けなど、時間の制約で省略されたものが、この物語に深みと説得力を与えているのに

防衛庁の撮影協力により、いくつもの貴重な映像が撮れているようだ。おそらく、詳しい人が観れば粗さがしのネタには事欠かないのだろうが、私は特に気にならない。

はじめは物語の内容から難色を示した防衛庁が、当時長官だった石破茂の口添えで軟化したという裏話は知らなかった。

でも、宮津は艦長から副長に格下げされたそうだ。艦長が謀反を起こす話など駄目だという防衛庁の頭の固さはともかく、副長ならいいものなのか。

(C) 2005「亡国のイージス」associates

寺尾聡の渋さに加え、真田広之・中井貴一・佐藤浩市という、日本映画を代表する同世代の大物俳優三人を揃えているのは魅力的だ。

  • 今や日本ではなくハリウッドに拠点を移して活躍する真田広之にとっては、現時点で最後の邦画出演作。
  • 阪本順治監督作には欠かせない佐藤浩市は”いそかぜ”ではなく、地上から戦況を見守る役だ。
  • 中井貴一がテロリスト役なのは意外だったが、結構ハマっていた。原作と違い、北朝鮮の工作員設定ではなくなっていたが。

「よく見ろ、日本人。これが戦争だ」そう言って”うらかぜ”に先制攻撃をしかけ、撃沈させる。
「撃たれる前に撃てなければ、国家を名乗る資格なし」と手厳しい。

ちなみに、2025年公開のかわぐちかいじの戦艦もの『空母いぶき』では佐藤浩市が総理大臣、中井貴一はコンビニ店長役と出世に差があったのには笑ってしまった。

(C) 2005「亡国のイージス」associates

他のメンバーとして、船務長に吉田栄作、水雷士に谷原章介とは、見栄えはするがちょっと爽やか系を揃え過ぎではないのか。何か、艦内の空気にコロンの香りが漂いそう。

突然巻き起こった”いそかぜ“の謀反と日本政府への脅迫にたじろぐ政府要職の面々。それぞれが責任を押し付け合ったり、政治的な駆け引きを始めたりする中で、総理大臣役の原田芳雄が落ち着いた言動をみせ、なかなか頼もしい。

『シン・ゴジラ』でも、この手の政府内の閣議決定が重要な役割を占めていたが、平泉成はどちらの作品でも、責任逃れの文句たれキャラだったことは興味深い。

政府がもたつくのはよいが、その間ゴジラが襲うわけでもなく、見えない“GUSOH”を巡る空騒ぎにみえてしまうのが勿体ない。

(C) 2005「亡国のイージス」associates

都民を犠牲にできぬと、政府は解毒剤といわれるテルミット・プラスなる特殊焼夷弾で”いそかぜ”を焼き尽くそうとする。仙石たちの奪還作戦。撃つか、待つか。時間との闘いのスリルが、どこまで映画で再現できたか。

原作未読のひとには、ヨンファの妹が殺し損じた如月を追って海中に飛びこみ、とどめを刺す代わりにキスしてスクリューに飲まれて死ぬのは謎だろう。

仙石と如月を取り持つ絵筆の小道具は重要だが、これだけが強調されたせいでメロドラマっぽく見えた。

極めつけが、攻撃機パイロット(真木蔵人)に攻撃されないよう、ヨンファを倒し、瀕死で立ち上がれない仙石が、甲板に寝転んで手旗信号を送る場面。

これ確かに原作にもあったけど、映像になるとおそろしく間抜けだ。これまでの映画の緊張感を台無しにする破壊力は“GUSOH”に比肩する。真田広之はこのシーンに落胆して、ハリウッドに行ってしまったのではないか。

阪本順治監督にその気があれば、ぜひ今度は前後編の超長編でセルフリメイクしてほしい映画ではある。手旗信号は抜きで。