『ボーン・レガシー』
The Bourne Legacy
マット・デイモンからジェレミー・レナーになってシリーズ初のスピンオフ。
公開:2012年 時間:135分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: トニー・ギルロイ
キャスト
アーロン・クロス: ジェレミー・レナー
マルタ・シェアリング:レイチェル・ワイズ
リック・バイヤー: エドワード・ノートン
パメラ・ランディ: ジョアン・アレン
ノア・ヴォーゼン:
デヴィッド・ストラザーン
アルバート・ハーシュ:
アルバート・フィニー
エズラ・クレイマー: スコット・グレン
マーク・ターソ: ステイシー・キーチ
フォイト博士: ジェリコ・イヴァネク
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
暗殺者ジェイソン・ボーンの裏切りによって極秘計画が明るみに出ることを恐れたCIAは、証拠隠滅および関係者の抹殺を命じる。
そのひとつ、“アウトカム計画”によって生み出された最強の暗殺者アーロン・クロス(ジェレミー・レナ―)は、訓練中のアラスカで身の危険を察知。
同じく命を狙われた計画の関係者マルタ・シェアリング博士(レイチェル・ワイズ)と共に逃亡を図る。やがて、マニラを舞台に暗殺者同士の究極の戦いが幕を開ける。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
スピンオフだったのか
もとは『ボーン・アルティメイタム』の続編が撮られるはずであったが、マット・デイモンもポール・グリーングラス監督も時機の折り合いがつかなかったようで、結局、シリーズの脚本に携わっていたトニー・ギルロイが本作のメガホンを取る。
◇
主演はジェレミー・レナー。『アベンジャーズ』でホークアイとして活躍し始めた頃と時期が重なる。
『ボーン・レガシー』はジェイソン・ボーンの過去作のリブートや前日譚ではなく、同一世界で新キャラクターが活躍するスピンオフのような作品になっている。

私がそれを理解するのは、観始めてから結構時間が経ってからだ。なぜなら、本作は冒頭、水中に沈んだ男が急に泳ぎ出すシーンから始まる。
これは『ボーン・アルティメイタム』のラストシーンと同じだ。そこで水中から顔を出すのがジェレミー・レナーなのだから、彼こそがジェイソン・ボーンなのだろうと思い込んだ。
このジャンルの本家ジェームズ・ボンドだって演者が交代するのだから、ボーンだって代替わりするのだと思うだろうに。
主人公ボーンじゃないんだよ
パメラ・ランディ(ジョアン・アレン)をはじめ、ノア・ヴォーゼン(デヴィッド・ストラザーン)、エズラ・クレイマー(スコット・グレン)、ハーシュ博士(アルバート・フィニー)、レイ・ウィルズ(コーリイ・ジョンソン)。
ご丁寧にもCIAの幹部連中が前作と同じ顔触れなので、尚更、主人公はボーンだと勘違いしてしまう。
これはマルチバースではなく、新キャラ登場のスピンオフだということに気づいたのは、ウォータールー駅で記者が射殺されたあたりからだ。あれ、前作と同じ話が違う目線から描かれているぞと。

ジェレミー・レナーが演じる主人公はアーロン・クロス。ボーンの<トレッドストーン計画>や<ブラック・ブライヤー計画>と同様に、<アウトカム計画>の被験者として殺人兵器に変貌した人物。
<アウトカム計画>の特徴は、定期的に服用させられている薬物によって、その能力が管理統制されていることである。
パメラの告発によって、CIAの秘密裡に展開されていた計画が全て明るみに出そうになっており、国家調査研究所の責任者リック・バイヤー(エドワード・ノートン)は、全ての証拠を隠蔽、当事者の抹殺を強行しようとする。

アウトカム計画で体調管理や製剤を請け負うステリシン・モルランタ社で、銃の乱射事件が発生し、バイヤーの思惑通り、関係者が皆殺しに遭う。
唯一の生存者マルタ・シェアリング博士(レイチェル・ワイズ)にCIAが襲い掛かるが、そこに薬を切らしたアーロンが登場し、彼女を助けて逃げる展開。
悲しいほど盛り上がらない
新キャラの顔ぶれをみると、ジェレミー・レナーがレイチェル・ワイズを救って、エドワード・ノートンに立ち向かう構図となり、どこか華やかでエキサイティングな映画を期待させる。

だがこれ、とんだ食わせ物だった。何を間違ったか、まったく盛り上がらない。
だって本シリーズの魅力は、記憶のない殺人兵器ジェイソン・ボーンが、反射的に相手を組み伏せたり、無意識な行動でCIAの裏をかいたりするのが魅力であって、自分の素性を知らずもがき苦しむところにミステリアスな面白味が感じられたわけだ。
だが、アーロンにはそれがない。ただ言いつけを守って薬を服用していたら、超人になってましたというような深みのないキャラ造形。
◇
戦闘能力は相応にあるものの、ボーンほど知恵者でもない。オオカミを使って敵の攻撃を誤誘導させる手法もありきたり。
そもそも、青だ緑だと各種錠剤をさも大事そうに語るけれど、映像的にはまったく盛り上がらない素材である。これは後年、『マトリックス レザレクションズ』も同じような失態をしでかしている。
大体、薬物で超人になるという設定がもはや古典的だ。その手の映画にうんざりして『インクレディブル・ハルク』のみでMCUの主役を降板したエドワード・ノートンが、同じような映画でヴィランを演じるなんて、随分皮肉が効いている。
アクションが凡庸なんだもの
マット・デイモンの顔写真がTVのニュースに登場し、ボーンと同じ時間軸の世界でアーロンが奮闘しているという設定自体は面白かったと思う。調理の仕方次第では、こちらもシリーズ化できた可能性もあるだろう。
だが、この手の映画でアクションがまったく盛り上がらないのも致命的だ。
敵役の工作員にオスカー・アイザックが登場したのは意外な発見だったが、それ以外の対戦相手がどれも小粒すぎて、まったく印象に残らない。最強最悪と言われる<ラークス作戦>の兵士も見掛け倒しだったし。
◇
クライマックスであるはずのバイクアクション等がダラダラと長く感じられてしまったのも、見せ方に工夫がないのだろう。

アクションで印象に残っているのは、マルタ(レイチェル・ワイズ)がCIAによって偽装自殺させられそうになる場面と、医療施設でフォイト博士(ジェリコ・イヴァネク!)が同僚たちを皆殺しにする場面。
◇
マット・デイモンは素手で戦うのが似合うけど、ジェレミー・レナーはやはり弓の射手のイメージが強すぎてどうもなあ。
レイチェル・ワイズとエドワード・ノートンまでいるのに、宝の持ち腐れ感が濃厚。このシリーズにスピンオフは不要だったのではないかい。
