『7s セブンス』
藤井道人監督が、自主映画の世界にありがちな絶望とそこからの立ち直りを描いた作品。
公開:2015年 時間:96分
製作国:日本
スタッフ
監督: 藤井道人
キャスト
サワダ監督: アベラヒデノブ
スナガワ: 淵上泰史
カブラギ: 深水元基
イムラ: 須賀貴匡
ナズナ: 永夏子
スズシロ: 佐々木卓馬
ゴギョウ: パークマンサー
ベラさん: 竹井洋介
セリザワ: 網川凛
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
売れない映画監督のサワダ(アベラヒデノブ)は、自主映画でインディーズ映画祭のグランプリを受賞し、その賞金をもとにさらに大きな映画を撮ろうと決意。
居酒屋で意気投合した小劇団のメンバーとともに、7人の天才詐欺師集団が主人公の映画「7s」の制作を開始する。
ところが、俳優の遅刻やスタッフ同士のケンカ、制作部の失踪、突然のキャスト降板など、次々と問題に直面。ついには制作資金が底をつき、「7s」は未完のまま撮影が中断してしまう。
それから3年、バラバラになったスタッフ、キャストは誰も「7s」の話をすることはなくなっていた。
今更レビュー(ネタバレあり)
自主映画の世界を描く
藤井道人監督は、『オー!ファーザー』や『幻肢』ですでにメジャーな商業映画の世界に足を踏み入れていたのに、自主映画の世界を描くとは、随分また青臭い世界に舞い戻ってきたものだ。
などと軽い気持ちで観始めたのだが、藤井監督の初期の短編作品にありそうな、ドキュメンタリー風の映像に、序盤から引き込まれる。
◇
自主映画作品が何かのコンテストでグランプリを撮り、浮かれはしゃぐサワダ監督(アベラヒデノブ)。

だが、しょせん売れない自主映画の作り手であり、普段は居酒屋の店員として働き、製作費を稼ぐ(ちなみに、店の先輩には駿河太郎)。
◇
その店に客として訪れていた劇団員の一人が、サワダの顔をみて「グランプリの監督さんですよね?俺も会場にいたんです!」と大興奮。
そこからとんとん拍子に話が進み、サワダはその劇団員たちや友人の協力を得て、7人の天才詐欺師集団が主人公の映画「7s」を撮り始める。
天国から地獄
はじめの数日の撮影は極めて順調に進む。

普段は裏方仕事ばかりで目が出ない、役者の卵たちや、アクションスター、主題歌は作らせてよというミュージシャンに、一発ギャグで知名度だけはある短命なコメディアン。
そんな連中が、この作品で形勢逆転を夢みているのだ。だから気合が入っている。だが、いつしか空気が怪しくなる。
◇
一部のキャストは手を抜き始め、撮影にも穴が開く。監督は不機嫌になり、カメラや助監督らに当たり散らす。険悪なムードを変えられる力は誰にもなく、気が付けば、撮影は空中分解する。
ここに至るまでのプロセスが、実に生々しい。きっと、藤井道人監督も過去に辛酸をなめてきたのだろう。

自分も学生時代に自主映画をやっていた経験はあるが、なにかのきっかけで一度スタッフ・キャストの心が離れたり、製作費が底をついたりすれば、もはや原状復帰するのは至難の業だ。
だから、浮き足立っていたサワダ監督が奈落の底に落ちる姿は、たとえ自業自得に思えても、なかなか他人事のように観ていられない。
私のように学生時代の話ならともかく、この作品にでてくる連中は、すでにみな社会人だ。結婚して小さな子がいる者もいる。
そんな彼ら彼女らが、「7s」の頓挫で希望を失い、現実に戻っていく。
どっちにも進めない若者たち
そして3年が経過する。
- 小劇団に所属していても、オーディションに落ちまくり、自分はいつまで夢にしがみついていていいのかと、葛藤し続ける者
- 役者として仕事を得ても、せいぜいが死体役ばかりの者
- アクションの殺陣はつけられても、表舞台には立てない者
- モデル仕事は続けていても、将来が見えない者
誰も口には出さないが、みんながあの時に諦めた映画を、もう一度撮りたいと思っているなかで、サワダ監督は、偶然の仲間との再会から、もう一度みんなを集めようと動き出す。

言ってしまえば、ご都合主義の脚本だし、こんなに簡単にメンバー集結するのかとも、それなら3年も待たずにやれるだろうとか、いろんな意見が頭をよぎるが、でも撮影再開となると胸は熱くなる。
あれから映画を諦めきれずに、どっちにも進めない若者たちに、「7s」 は、もう一度人生の進むべき道を示してくれる。「7s」の詐欺師の物語自体は、さっぱり分からなかったが、まあ、それはどうでもよいのだろう。

本筋とは全く関係ないが、この7人の詐欺師は、春の七草にちなんだ役名になっている。セリザワ、ナズナ、ゴギョウ、ベラさん、イムラ、カブラギ、スズシロという具合に。
スズナは蕪だから鏑木というのは分かるが、ホトケノザが仏でイムというのは、ひねりが効いている。この役名を探すのに苦労したが、最後に「7s」のポスターが大写しになるところで、ようやく視認できた。
◇
若者たちの群像劇に恋愛を絡ませたのが、後の『青の帰り道』になるのだろうが、恋愛を抜きにした群像劇として、本作は掘り出し物的な良作だった。自主映画をやった人にはたまらない一本。
