『ロング・エンゲージメント』
Un long dimanche de fiançailles
ジャン=ピエール・ジュネ監督とオドレイ・トトゥの『アメリ』コンビで贈る戦争恋愛ドラマ。
公開:2004年 時間:133分
製作国:フランス
スタッフ
監督・脚本: ジャン=ピエール・ジュネ
脚本: ギョーム・ローラン
原作: セバスチアン・ジャプリゾ
『長い日曜日』
キャスト
マチルド: オドレイ・トトゥ
マネク: ギャスパー・ウリエル
シルヴァン: ドミニク・ピノン
ベネディクト: シャンタル・ヌーヴィル
ルービエール弁護士:アンドレ・デュソリエ
ピール探偵: ティッキー・オルガド
ティナ・ロンバルディ:
マリオン・コティヤール
セレスタン・プー:
アルベール・デュポンテル
エロディ・ゴルド: ジョディ・フォスター
バストーシュ: ジェローム・キルシャー
シ・スー: ドニ・ラヴァン
ノートルダム: クロヴィス・コルニアック
アンジュ: ドミニク・ベテンフェルド
ビスコット:ジャン=ピエール・ダルッサン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
第一次世界大戦下のフランス。軍法会議で死刑を宣告され、敵軍ドイツとの中間地帯に置き去りにされたフランス兵5人のうちのひとり、マネク(ギャスパー・ウリエル)には、故郷のブルターニュ地方にマチルド(オドレイ・トトゥ)という婚約者がいた。
数年後、マネクが亡くなったという知らせを受け取ったマチルドは、マネクの最期を見届けた者がいないことからその知らせを信じられず、探偵を雇ってマネクを捜させるとともに、自身も“愛の直感”を信じてマネクを捜し始める。
今更レビュー(ネタバレあり)
『アメリ』のジュネとオドレイ・トトゥ
手作り感溢れる映像と音楽で独自世界を構築する鬼才ジャン=ピエール・ジュネ監督が、オドレイ・トトゥ主演で戦時中の恋愛を描いた作品。
この二人の組み合わせなら、当然『アメリ』をイメージするが、あんなに軽妙で小粋なラブロマンスにできる題材ではない。恋愛映画とはいえ、本編では地獄のような塹壕戦での戦闘シーンが、迫力たっぷりに登場する。
そこにはジュネ監督おなじみの、シニカルにふざけた演出はない。ただ悲惨な戦争と、大切なひとと引き裂かれた者たちの悲哀が描かれている。

第一次世界大戦中、フランス軍の5人の兵士が軍務を逃れるために故意に自傷したとして、死刑を宣告される。5人はフランスとドイツの塹壕戦の中間地帯に追い出され、全員戦死したと見なされた。
だが、最若手の兵士マネク(ギャスパー・ウリエル)の婚約者マチルド(オドレイ・トトゥ)は希望を捨てず、恋人の生死を調査し始める。
5人の戦争死刑囚
冒頭に、この5人の兵士がそれぞれ紹介される。すぐに消化しきれないが、物語が進むなかで生前のエピソードがふんだんに出てくるので、あまり混乱はない。
- 死んだドイツ兵から軍靴を盗んで履いている家具職人のバストーシュ(ジェローム・キルシャー)は、銃の暴発で手を負傷
- 戦死する人々を見て戦うのが嫌になった溶接工シ・スー(ドニ・ラヴァンだ!)は、銃筒にわざと手をあて火傷
- 誰よりも勇敢な農民のノートルダム(クロヴィス・コルニアック)と、コルシカ人のアンジュ(ドミニク・ベテンフェルド)は互いの手を撃ち合って戦いを拒否
- そしてマチルドの恋人マネクは、塹壕で煙草を持った手をわざと上に挙げ、ドイツ兵に自分の手を撃たせた罪で捕まる
原作となったセバスチアン・ジャプリゾの『長い日曜日』も読んでみたのだが、正直、この5人のキャラクターがなかなか頭に入らず、あまり没頭できなかった。
これは私の読解力のなさなのだが、その点、映画は顔で見分けられるので、原作よりも随分理解がしやすく助かった。
MMMとはなんぞや
ビンゴ・クレプスキュールと名付けられた塹壕で、5人に何が起き、誰が死んだのか、マチルドは調査を続け、そんな彼女のもとに5人の遺品や手紙の入った小さな箱が託される。
この箱を開ける時のいたずらっ子のようなつぶらな瞳、そして、「次の○○までに○○が起きたら、マネクは生きている」と、何にでも願を賭けてしまうオドレイ・トトゥの不可思議な行動。これは原作にあったか覚えていないが、紛れもなく『アメリ』を感じさせる演出。
◇
映画はミステリー仕立てになっており、単純にマネクの生死の真偽をマチルドが追いかけていくだけではなく、そこにはいくつかの仕掛が用意されている。
これによって、聞き込んだ目撃情報が、必ずしも正しいとは限らないという、展開が生まれていく。
マネクは掃射を受ける直前まで、戦場の木に『MMM』というメッセージを彫っていたという。これは、恋人同士だけに通じる、『マネクはマチルドを愛している』というメッセージ。
フランス語で愛しているはジュ・テームだろうに。なぜ”M”なのかと思ったが、” Je t’aime”のエイムとMをひっかけているのだ。
マネクを演じた甘いマスクのギャスパー・ウリエルは、『ハンニバル・ライジング』の若き日のレクター教授が懐かしいが、2022年に37歳の若さでスキー場で衝突死してしまったのが惜しまれる。
他の女優陣も魅せる
キャスティングに関しては、まずジャン=ピエール・ジュネ作品の皆勤賞男、ドミニク・ピノンが、両親を子供の頃に亡くしたマチルドの親代わりの伯父役で出演。彼だけは、シリアスな映画でも相変わらずのおとぼけキャラ。
◇
その他、特筆すべきは、戦死した男たちを待つ女性たち。 ビスコット上等兵(ジャン=ピエール・ダルッサン)の妻エロディ・ゴルド役にはなんとジョディ・フォスター。ジュネ監督に心酔して出演を希望したとか。
戦線を離脱したいが、子種のないビスコットは、5人の中のバストーシュに妻エロディと寝て子供を作るよう懇願する。だが子供はできず、ビスコットは嫉妬心を膨らませ、エロディは傷つく。
出番の少なかったジョディ・フォスターに比べ、存在感があったのは、アンジュの恋人で娼婦のティナ・ロンバルディを演じたマリオン・コティヤール。
ティナはアンジュがなぜ殺されなければならなかったかを調べ上げ、上官たちに次々と復讐をしかけ、殺害していく。単に拳銃で射殺するだけではない、その手際の鮮やかさ。だが、彼女は最後にギロチン刑に処される。
最後にたどり着いた真実
マチルドとマネクは子供の頃からの付き合いで、小児麻痺で足の悪いマチルドに声をかけたマネクが、彼女の心の扉を開ける。
灯台守の子のマネクが、マチルドを背負って螺旋階段を上がり、灯台のてっぺんに。そこで二人が見たのは風に負けず飛ぶアホウドリ。美しい思い出だが、戦場でマネクを襲ったのもまた、ドイツ軍用機のアルバトロスだった。
弁護士(アンドレ・デュソリエ)や探偵(ティッキー・オルガド)、或いは軍では<調達の鬼>と呼ばれ、何でも手に入れたセレスタン・プー(アルベール・デュポンテル)。
マチルドのために協力をする男たちはいたが、マネクが死んだという結論は覆らない。だが、彼女はついに最後に手紙に書かれた謎を解き、真実に近づく。まあ、ここまで引っ張ったら、そう願いたいよね。
◇
ジャン=ピエール・ジュネ監督らしさは薄味であり、オドレイ・トトゥも天真爛漫ではないのは物足りないが、正統派の戦争恋愛映画となっている。