『サイレントナイト』
Silent Night
ジョン・ウー監督20年ぶりの米国映画はひたすら息子の仇討ちに燃える父の話
公開:2025年 時間:104分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ジョン・ウー
キャスト
ブライアン: ジョエル・キナマン
サヤ:カタリーナ・サンディノ・モレノ
デニス刑事: キッド・カディ
プラヤ: ハロルド・トーレス
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
家族とともに幸せな日々を過ごしていた男ブライアン(ジョエル・キナマン)は、クリスマスイブの日にギャング同士の銃撃戦に巻き込まれ、愛する息子の命を目の前で奪われてしまう。
自らも重傷を負った彼は、どうにか一命を取り留めたものの声帯を損傷。絶望を叫ぶ声さえも失った男の悲しみは、いつしか激しい憎しみへと変わっていく。
悪党たちへの復讐を決意した男は、次の12月24日をギャング壊滅の日に定め、過酷な戦いへと身を投じていく。
レビュー(ネタバレあり)
米国に戻ったジョン・ウー
ジョン・ウー監督の20年ぶりのアメリカ映画だというから、ベン・アフレックの『ペイチェック 消された記憶』(2003)以来なのだろう。
別にクリスマス映画という感じの作品ではないが、日本では4月公開と、はじめから興行的には本気ではない感じ。
公開時に都合がつかず、今回ようやくDVDで観賞したのだが、この時代錯誤なテイストは、どうなのよ、というのが正直な感想。
◇
ギャングの構想で巻き添えを食って死んだ子供の復讐劇に父親が闘志を燃やす話だ。今どき珍しいほどに単純明快なストーリー。
そこはジョン・ウーなのだから、アクションさえスカッと冴えていればいいのだという意見も、分からなくはない。でも、だからといって、さすがにこれでいいのか。
この映画に血沸き肉踊り、「待ってました、ジョン・ウーの原点回帰!」と素直に喜べるのが生粋のジョン・ウー推しの方々なのだろう。
その意味では、「フェイス/オフ」(1997)以降の作品しか観ていないような私などは、まだまだ若輩者に違いない。だから、この作品では酔えない。理性が邪魔をしてしまう。
凶弾のクリスマス
クリスマスならではのダサいセーターを着こなす主人公ブライアン(ジョエル・キナマン)が、空を舞う赤い風船を追いかけている。
そこには抗争中のギャング団がクルマを暴走させており、ブライアンはギャングのボス格のスキンヘッドに笹の葉のようなタトゥーの男、プラヤ(ハロルド・トーレス)の銃撃を受ける。
どうにか一命を取り留めるが、ブライアンは喉を撃たれ、発声ができなくなる。
◇
退院し、妻のサヤ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)と自宅に戻ると、男の子が待っていてブライアンに飛びつき、二人で楽しそうに庭で格闘する。
退院早々、そんな激しい動きしていいのか。そう心配していると、どうやらそれは回想だと分かる。ブライアンは庭で号泣。
我々はこの場面でようやく、家族がクリスマスに庭で楽しいひと時を過ごしている最中に、クルマで暴走するギャングの抗争の流れ弾で息子が死んだことを知る。
ブライアンは何の台詞をいうこともなく、喉を撃たれてしまったから、主人公なのに映画の中で一言も言葉を発しない。

復讐するは父にあり
彼は警察に出向き、ギャング犯担当のデニス刑事(キッド・カディ)のオフィスに貼られたギャング団の顔写真から、自分の復讐相手の名前を知る。
あとはただひたすら筋トレに励み、射撃の腕を磨き、銃を手に入れ、警察無線を傍受し、中古のマスタングを買ってドリフト走行の練習を繰り返す。
クリスマスの日を指折り数え、カレンダーに✕をつけていく。我が子へのプレゼントに、復讐を果たすのだ。

チャールズ・ブロンソンから始まりマッド・マックスやグラディエーター、家族を不条理に殺された男が復讐を果たす物語は数知れずあるが、ここまで他の一切を排除して、リベンジそのものに特化している作品も珍しい。
しかも、ご丁寧に主人公からは声を発することさえ奪ってしまっているのだ。もう、やることといえば、仇討ちしかない。これを潔いとみるか、薄っぺらいとみるかが、好き嫌いの分かれ目だろう。
西部劇や古代の話ならいざ知らず、現代劇であるならば、はたして復讐で相手を殺すことが許されるのかという葛藤は、何らかの形で描かれているものだろう、普通。
ギリギリで思いとどまる作品もあれば、つい一線をこえてしまう作品もある。どちらが正解ということはない。
だが、なんの躊躇もなく殺意丸出しで相手に向かっていってしまうのは、あまりに短絡的ではないのか。駆け出しの新人ならまだ分かるが、天下のジョン・ウーがそれをやるのか、という点で驚きを隠せない。

アクションの迫力はさすが
ブライアン役にはリメイク版『ロボコップ』の主演や『スーサイド・スクワッド』のリック・フラッグ大佐役で知られるジョエル・キナマン。
妻サヤ役には『そして、ひと粒のひかり』の少女役が懐かしいカタリーナ・サンディノ・モレノ。製作のエリカ・リーが『ジョン・ウィック』シリーズも手掛けている縁か、『バレリーナ:The World of John Wick』にも出演。
激しいカーバトルやバイクの激走、ガンファイトにナイフを持っての格闘など、ツボを心得た過激なアクションはさすがジョン・ウーの得意とするところ。
どんなにナイフさばきや射撃の腕を磨いても実戦ではうまくいかないことばかりで、鮮やかにギャングたちを次々と始末することができずブライアンが苦労するのも、ひねりがあって面白かった。
鳩ではないが小鳥も出てきたし、デニス刑事の二丁拳銃も見られたので、ジョン・ウー監督作品らしさも味わえた。

でも、この刑事とブライアンの共闘体制もいまひとつよく分からなかったし、オルゴールや鉄道模型という小道具で子供を思い出して悲しむ演出はあまりに古臭い。
最愛の我が子を失った悲しみが深いのは理解するが、奥さんと寄り添って、それを乗り越える話ではないのだ。
現状を変えたかったというブライアンは、妻を置き去りにして復讐に燃える。そしてついに、思いをやり遂げる。でもそれは、妻のサヤにとって望んでいたこと、嬉しいことなのだろうか。
「それって、あなたの復讐ですよね?」と、ひろゆき構文が頭に浮かんでしまう。