『スプリング・フィーバー』今更レビュー|春風に酔う夜は明け方まで歩き回ろう

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『スプリング・フィーバー』
 春風沉醉的晚上 Spring Fever

ロウ・イエ監督が中国当局のタブーを恐れず撮った同性愛の恋愛悲喜劇。

公開:2009年 時間:115分  
製作国:中国

スタッフ 
監督:       ロウ・イエ(婁燁)


キャスト
ジャン・チョン:  チン・ハオ(秦昊)
ルオ・ハイタオ:
     チェン・スーチェン(陳思成)
リー・ジン:   タン・チュオ(譚卓)
ワン・ピン:   ウー・ウェイ(呉偉)
リン・ジュエ:
     ジャン・ジャーチー(江佳奇)

勝手に評点:2.5
 (悪くはないけど)

あらすじ

中国の古都・南京。女性教師のリン(ジャン・ジャーチー)は、夫のワン(ウー・ウェイ)が浮気をしているのではないかと疑い、その調査を探偵のルオ(チェン・スーチェン)に依頼。

その結果、ワンの浮気相手はなんと、男性であることが判明する。

自分の浮気がまさか妻にバレているとは知らないワンは、そのジャン(チン・ハオ)を自分の同級生としてリンに紹介。やがてリンは怒りを爆発させ、ワンとの夫婦関係は破綻する。

一方、ルオは、次第にジャンに心惹かれるようになる。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

タブーとされた1989年の天安門事件を背景にラブストーリーを撮った『天安門、恋人たち』、それが原因で中国当局から5年間の映画製作禁止を言い渡されたロウ・イエ監督。

本作はその次作にあたり、同性愛が題材になっている。政府を刺激する製作姿勢は変わらない。

戦う監督ロウ・イエは香港やフランスの出資により本作を完成させ、カンヌでは脚本賞を獲得。だが、同性愛もタブー視する中国では、これも上映禁止となった。

前作が”Summer Palace”『天安門、恋人たち』の英題)なら、今回は”Spring Fever”か。

中国では教科書にも載っているという郁達夫『春風沈酔の夜』が本作でも朗読され、不勉強にして内容は知らないが、根底の思想として存在するのだろうか。春風から春の嵐(スプリング・フィーバー)へ。

ロウ・イエがこの作品を撮るまでの背景を考えると、もっと高い評点をあげたくなるのだが、このカテゴリーの映画は個人的には苦手なのでちょっと辛口となった。

同性愛自体には特に偏見も嫌悪感もないのだが、こと映画となると、必要以上に性的な描写がクローズアップされているような気がして(本作ではなく全般的な意)、あまり好きになれない。

舞台は南京。男性二人が何やらこそこそと山荘に向かって雨の中クルマを走らせる。ロウ・イエ監督作品なら、彼らは反政府の活動家かと思えば、男同士でベッドでもつれ合う。

精悍なマスクの若い男はジャン・チョン(チン・ハオ)。年上と思われる相手の男はワン・ピン(ウー・ウェイ)

だが、その妻で教師のリン・ジュエ(ジャン・ジャーチー)は夫の浮気を疑い、探偵ルオ・ハイタオ(チェン・スーチェン)に素行調査を依頼する。

想定外の調査結果にリンは驚くが、更に悪いことに、夫ワンはジャンを同級生と偽って彼女に会わせる。家族ぐるみで付き合えるようになれないかと、おめでたい発想の持ち主なのだ。

だが、うまくいくはずがない。夫婦は激しい喧嘩となり、傷を癒してほしいワンはジャンの肌の温もりを求めに向かう。

同性愛ものの映画において、結婚相手や恋人が実は同性愛者だったと分かることで衝撃を受ける場面は、アン・リー監督の西部劇『ブロークバック・マウンテン』をはじめ、多くの作品に登場するが、これは時代を越えて根強く残るものだろう。この映画でもリンはかなりのダメージを受ける。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います

リンが職場まで訪れて罵声を浴びせたジャンは、ワンとは距離を置くようになる。そんなジャンと次に惹かれ合うのは、あろうことか、彼を調査していた探偵ルオだ。彼もその気があったのか、すぐに二人は新たなパートナーとなっていく

ジャンが突き放したことで絶望したか、ワンは夜の公園でリストカットして自殺してしまう。それを知ったせいか、ジャンはひとりで女装をしたまま泣いている。

もっとも、ワンの妻リンの方がみじめだったのではないか。胸中を察するに余りある。

寂しさを紛らすためか、ジャンはルオと親しくなっていく。だが、ルオにはリー・ジン(タン・チュオ)という恋人がおり、ジャン・ルオ・リーの三人は奇妙な旅に出る。ワンの時にはうまくいかなかった男女三人の関係が、今度はうまくいくのだろうか。

旅行中に激しくキスするルオとジャンを盗み見て、リーは動揺する。カラオケで泣く彼女を、なぜかジャンがなぐさめて手を取り、「彼とも、こうして手を?」とリーに聞かれる場面がある。

ここから、三人は新たな関係を築くのかと思った。だが、途中で現れたルオは何もなかったように一人で悦に入ってカラオケを歌うばかり。

結局、旅の途中でリーは失踪し、彼女を追うことを選んだルオは「君についてくるんじゃなかった」とジャンを置いて去る。

春の嵐の中で、幸福な恋愛を手に入れた者はいたのだろうか。当初ジャンとワンが惹かれ合ったことで、多くの男女が傷ついていき、ワンは命まで落としてしまった。

映画の終盤で、ジャンは突然襲い掛かってきたワンの妻リンに頸を切られ、混濁した意識のまま病院に担ぎ込まれる。

同性愛が良い悪いという話ではない。妻帯者との不倫の結果、夫が自殺したとなれば、遺族が不倫相手に制裁を加えたくなるのも不思議ではない。

映画は家庭用デジタルカメラを使用しゲリラ的に撮影を敢行したという。ある程度の画質やブレは気になると言うよりも、かえって臨場感を醸し出した。何より、検閲という束縛がない事が、ロウ・イエにとっては大きいのだろう。

序盤から印象的に使われる水上の蓮の花が、最後にはジャンの胸のタトゥーとなって開花する

最後にジャンはまた、新たな若い男と関係を持っているようだが、同性愛の映画に出てくる男は、なぜいつも、とっかえひっかえパートナーを変えるのだろう。それって、異性愛でも同じかな。俺、バイアスかかってる?