映画『オーディション』今更レビュー|キリキリ舞い、させられるぞ

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『オーディション』

公開:2000年 時間:115分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:        三池崇史
脚本:        天願大介
原作:         村上龍

        『オーディション』
キャスト
青山重治:       石橋凌
山崎麻美:    しいなえいひ
青山重彦:       沢木哲
吉川泰久:       國村隼
島田老人:      石橋蓮司
青山良子:     松田美由紀
家政婦・リエ:    根岸季衣
芝田:         大杉漣
酒場のマスター:  斉木しげる
柳田美千代:    広岡由里子

勝手に評点:4.0
(オススメ!)

© BASARA PICTURES INC.

あらすじ

ビデオ制作会社を経営する青山重治(石橋凌)は7年前に妻を亡くし、ひとり息子の重彦(沢木哲)と暮らすが、息子から再婚をするよう勧められる。

青山の友人・吉川(國村隼)は映画の出演者のオーディションをし、応募してきた女性から再婚相手を探すよう提案。山崎麻美(しいなえいひ)という女性に興味を持った青山は本人と会って魅了され、彼女と肉体関係を持つ。

だが、謎めいた麻美は青山に対して尋常ではない感情を抱き、青山から身体の自由を奪って監禁。彼に拷問を始める……。

今更レビュー(ネタバレあり)

再婚相手を探すために友人に仕掛けてもらった架空の映画のオーディションに、やってきた女性のひとりにのぼせ上った中年男性の恐怖体験。原作は村上龍の同名小説。

もう四半世紀も前の映画になってしまったが、久々に観直してみても、その戦慄が走る恐怖感と生理的な不快感は、今なお邦画界ではトップクラスだと思う。

三池崇史監督のフィルモグラフィの中では亜流なのかど真ん中なのか分からないが、少なくとも監督の作品の中では、私の一番のお気に入り。

ただ、この手の拷問系ボディホラーは苦手という方には、とてもじゃないがお薦めできない。ホラー映画としての評価は海外でもお墨付きだが、映画祭の上映などでは、多数の途中退出者を出したといういわくつきの作品。

ホラー映画とは書いたものの、『リング』『呪怨』といった、いわゆるJ・ホラー全盛期の作品ながら、こちらには幽霊や怪奇現象のたぐいは登場しない。あくまで、現実の話という設定だ。だが、いや、だからこそ怖い。

© BASARA PICTURES INC.

病気で妻(松田美由紀)を亡くした主人公の青山(石橋凌)、7年が経過し、幼かった息子もイケメン高校生に成長し、「オヤジも最近しょぼくれているから、再婚でもしたらいいよ」と言われ、その気になる。

決意表明をした親友の吉川(國村隼)は映画業界におり、「それなら映画の主演女優のオーディションを仕立てて、理想の相手を選ぶといい」と言い出す。

詐欺ではないかと腰が引ける青山に、「実際、企画が成立すれば映画を撮るから嘘ではない。途中で頓挫する映画など山ほどある」と吉川は勝手に話を進める。

© BASARA PICTURES INC.

今では渋い重鎮俳優の國村隼が、いかにも業界人っぽいノリで、個別に面接する女性参加者たちに次々と思いつきの質問を投げかける場面が印象的。

一芸を披露したり、泣き出したり、脱ぎだしたり、様々な女性がいる中で、青山は書類選考で気になっていた山崎麻美(しいなえいひ)に惹かれ、調子に乗ってこっそりと誘い出しては親密になる。

はじめから危なっかしい花嫁探し作戦ではあったが、不吉な匂いが漂い始めるのは、麻美が面接の際、レコード会社のディレクター預かりという立場にあると語っていた人物が、調べると行方不明になっていたこと。

そして、唐突にインサートされる、昭和っぽい古いアパートの一室に座り込む女と黒電話の何とも不気味なショット。

不純な動機で始めたオーディション(不純ではない?)とはいえ、いつしか青山と麻美が相思相愛の関係になっているのであれば、そのまま愛欲やドラッグに溺れていくような、村上龍っぽい展開になってもおかしくはない。

だが、二人で旅行に行き、そこで青山がプロポーズをしたところから、彼女は失踪し、やがて本性を現して青山に恐ろしい反撃を仕掛けてくる。

この後半から一気にボディホラーに転じる展開は、いかにも三池崇史監督らしい過激さでもあるが、そもそもの村上龍原作がこのように途中から急遽変調するのだ。表現の過激さは、むしろ映画のほうが抑え目かもしれない。

今更レビュー(ここからネタバレ)

以下、ネタバレになりますので未見・未読の方はご留意願います

麻美は不遇な生い立ちで義父にひどい目に遭わされたせいか、過度な人間不信に陥り残虐な報復行為に覚醒してしまったようだ。

思春期に通っていたバレエ教室では、麻美に欲情して太ももに火箸を押し当てた島田(石橋蓮司)両足を失う羽目に会い、彼女が勤めていたという銀座のバー「石の魚」では、ママが惨殺されていた。

行方不明となったレコード会社のディレクターは、両足と指と舌を失い、麻美の部屋で大きな袋の中に入れて飼われていた。

廃屋と化した大久保のバレエ教室、昭和の場末感溢れる雑居ビルのバー(隣の店のマスター役の斉木しげるがいい)。

そして昭和初期の黒電話とラジオが不気味な部屋で、袋の中で獣人のように生きるレコード会社の男を演じるのが大杉漣だと、誰が気づくだろう。黒沢清にも負けない細部へのこだわりホラー。

「結局若い女ひっかけてセックスしたいだけなんでしょ」

信頼して愛した青山に裏切られた思いの麻美が、彼に毒を盛り、神経だけを鋭敏にして四肢は動けない状態にしたうえで、身体中の激痛ツボに鍼を刺しまくる

「苦しみや痛みだけは、嘘をつかないのよ」

前半に見せた薄幸そうなおとなしい女の時よりも、後半で本性をさらけ出した麻美の方が何倍も魅力的で溌剌としているのが実に面白い。

しかも、原作ではハットピンと呼んでいた、骨付きの肉でも簡単に裁断できる糸鋸のようなワイヤー状の刃物。これを手にした麻美が「キリキリキリキリ」と笑顔で唱えながら青山の足首を切断するシーン。

そのコミカルな動きと目を背けたくなる残虐な風景の融合は、この映画でしか味わえない代物だ。

いくら婚活だからって、架空のオーディションをぶち上げて女を騙してホテルに誘い込もうとすると、こういう痛い目に遭うんだよ。

説教くさいセクハラ研修のビデオを見せるくらいなら、この映画をみんなで観賞した方が、よほど効果があるのではないか。

原作と異なる、なんだ夢落ちだったのかというアレンジもあるのだが、それを幾重にも重ねることで、一応原作と同じ結末にたどり着くような構造になっている。

原作通りに撮るのは相当難しいし、強行したとしても、今度はただのグロいだけのホラーになってしまいそうなところだ。

それを、きちんと原作の風合いを生かしつつ麻美を魅力ある破壊的なキャラに仕立てているところが、職人・三池崇史監督の凄いところなのだと思う。