『魂萌え!』今更レビュー|萌えろ、いい女風吹ジュン

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『魂萌え!』

桐野夏生のベストセラー原作を阪本順治監督が映画化。萌える59歳主婦に風吹ジュンが可愛い

公開:2007年 時間:125分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:          阪本順治
原作:          桐野夏生
            『魂萌え!』
キャスト
関口敏子:       風吹ジュン
伊藤昭子:        三田佳子
<関口家>
関口隆之(夫):      寺尾聰
関口彰之(息子):    田中哲司
関口美保(娘):     常盤貴子
関口由佳里(息子嫁): 渡辺真起子
<そばの会>
今井:         左右田一平
塚本:           林隆三
小久保:        なぎら健壱
<敏子の同級生仲間>
山田栄子:         今陽子
江守和世:       由紀さおり
西崎美奈子:       藤田弓子
<カプセルホテル>
宮里しげ子:       加藤治子
野田支配人:       豊川悦司

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

(C)2007 「魂萌え!」パートナーズ

あらすじ

59歳の関口敏子(風吹ジュン)は、63歳の夫・隆之(寺尾聡)とふたりで平穏な生活を送っていたが、定年を迎えた夫が心臓麻痺で急死し、彼女の人生は一変する。8年ぶりに現れ強引に同居を迫る長男・彰之(田中哲司)

長女・美保(常盤貴子)を巻き込み持ちあがる相続問題。そして、亡くなった夫の携帯電話にかかってきた女性からの電話。矢継ぎ早に迫ってくる孤独や不安に、敏子は恐る恐るではあるけれど立ち向かって行く。

妻でもない母でもない一人の女として、新たな人生を切り開く決意を固める敏子。世間と格闘しながら、もうひとつの人生を見つけ、確かな変貌を遂げていく。

今更レビュー(ネタバレあり)

桐野夏生の新聞連載小説を阪本順治監督が映画化。『どついたるねん』から始まる阪本順治男臭いフィルモグラフィに、まさかこのような作品が並ぶとは。今ならば監督の守備範囲の広さは理解できるが、公開当時は驚いたものだ。

女性主人公の作品には藤山直美主演の『顔』があるものの、あれは殺人犯の逃亡映画。同じ桐野夏生原作でも、主婦たちのバラバラ殺人ものの『OUT』(平山秀幸監督)ならまだ分かるが、『魂萌え!』はごくありふれた主婦の家族ドラマだ。大丈夫なのだろうか。

などと半信半疑で今更ながらこの作品を観たのだが、まったくの杞憂だった。うまいなあ、阪本順治

新聞連載なので長編になる物語を、時には大胆にバッサリと削ぎ落し、一方で独自の設定を加えて映画的なアレンジを施しつつ、きちんと2時間枠に収めている。

映画は冒頭、長年勤めた会社を定年退職する夫・関口隆之(寺尾聰)。自宅でお祝いのディナーを終え、唐突に妻の敏子(風吹ジュン)に握手を求める。

そこまではごく普通の家族の日常シーンだが、次のカットで敏子は喪服を着ている。隆之が心臓麻痺で急死したのだ。

(C)2007 「魂萌え!」パートナーズ

ほぼ音信不通のまま8年、米国で古着屋をやっている長男の彰之(田中哲司)が、妻の由佳里(渡辺真起子)と二人の子供を連れて、父の葬儀のために帰国する。妻子とも、敏子とは初対面。おまけに子供の名は、ダイアンネイサンだ。

商売が不振で、帰国して実家に転がり込みたい彰之は、敏子の意見も聞かず、家や預金の相続についてあれこれと勝手を言う田中哲司がふてぶてしい。

それに比べれば長女の美保(常盤貴子)は母親想いだが、定職のない恋人と同棲しており、こちらも親の資産を当てにしている。墓を買ったり相続手続きを進めたりと、敏子は夫の突然死に悲しむ余裕もない。

そして、そこに思わぬ事実が発覚する。亡くなった当日、夫が通っていたはずの蕎麦打ち教室の主宰、今井(左右田一平)が線香をあげに来て、思わぬことを告げる。

「ここ何年も、ご主人は教室に来ていませんよ」 

(C)2007 「魂萌え!」パートナーズ

夫の携帯にかかってきた電話の相手・伊藤昭子(三田佳子)こそ、10年間も夫が付き合っていた愛人だった。

妻に隠れて10年も愛人と楽しくやっている夫・隆之役に寺尾聡というのが何とも面白い。だって、前作『亡国のイージス』で海自の艦長やってて、更に事件の首謀者だった人物だよ。魂じゃなくてギャップに萌えるわ。

愛人といっても、ただ愛欲に溺れているのとは違い、夫は昭子と蕎麦に打ち込み、昭子が娘夫婦と蒲田で開店した蕎麦屋に500万の資金を出し、自分もそこを手伝うつもりでいたのだ。

本妻との家庭生活よりも、余程充実しているし楽しそうではないか。これは悔しい。自宅にある夫の身の回り品一切をゴミ袋につっこみ、結婚指輪を投げ捨てる敏子。そりゃ、そうなるか。

風吹ジュンの起用は絶妙なキャスティングだった。59歳の設定なのに当時彼女は55歳だったというが、還暦女子の恋愛を描くのだから、役柄よりは多少若い女優でないと、映画的には盛り上がらない。

シーンによって、60歳近くに老けて見えたり、溌剌とした50歳前後にも見えたり、演出の効果が面白い。

それにしても本作公開から20年近く経つというのに、風吹ジュンが相変わらずあの若さと美貌を保っているのは、さすが化粧品CMに起用される女優はただ者ではない。娘役の常盤貴子とともに、今なお資生堂のミューズに起用されてるし。

今回、若干白髪で老けて見える時の彼女に、樹木希林の姿が重なって見えた。かつて彼女の女優デビューにあたりテレビ局に推薦してくれたのが樹木希林だったという縁は…、まあ、関係ないか。

先に原作を読んだとき、映画の主演が風吹ジュンなのは知っていたのだが、昭子役は誰だろうと気になっていた。三田佳子だったのか。ちょっと意外だったが、普段と雰囲気が違い、これはこれで面白い。

本妻と愛人の役をこの二人の女優がやるのなら、普通は逆ではないのかという気もするが。

公開当時はまだ、人生は100年時代とは言われておらず、80年位だったんじゃないか。それでも、敏子のセカンドライフはまだ長く、老け込むには早い。

人生を見つめ直すために、彼女は立川のカプセルホテルに行ってみて、不思議な婆さん(加藤治子)や支配人(豊川悦司)に出会う。大浴場のシーンの風吹ジュンが十分エロく見えるのはさすが大女優。

(C)2007 「魂萌え!」パートナーズ

結局、敏子は子供たちの言いなりになって相続するのをやめ、夫に依存していた生活に訣別する。

蕎麦の会のメンバーに誘われて、そこで口説かれたダンディな老紳士・塚本(林隆三)によろめき、ついホテルに行ってしまったり、新たな恋にときめいているのを、中学からの合唱部仲間(今陽子、由紀さおり、藤田弓子)にすぐに見透かされてしまったり。

原作をコンパクトにまとめるにあたり、仲良し女子がしじゅう喧嘩ばかりしているエピソードや、そばの会の集まりなどは大きく割愛。これはむしろ、ポイントが絞られ、スッキリした印象。

女友だちが突如「漕げよマイケル」をちゃんとハモってアカペラで合唱するのはさすが。由紀さおりピンキー(今陽子)がいるんだから、そりゃ歌わせるか。

ヤドランカのテーマ曲。 ずっと、KANの『愛は勝つ』だと思っていた。

スケコマシ老紳士の塚本(林隆三)が、めかしこんだ敏子と二回目のデートで、前回の汐留の高級ホテルからいきなり格下げで場末のラブホに直行しようとし、幻滅した敏子にフラれてしまう。

直後、ラブホの前から自宅に電話した塚本が、電話を取った孫に「婆さんに晩御飯は家で食べるって伝えといて」と例の渋い声で言うのには、笑いながら寒気がした。この台詞は原作になかったと思うが、うまいなあ。

その後、敏子がやけ酒飲んで、電車の中で新品のハンドバッグの中にゲロを吐くシーンがリアルで驚く。ここまでやるか、風吹ジュン

この作品のユニークなところは、死んだ夫を美化せず、ただのゲス野郎として終わらせているところだ。勿論、愛人の昭子にとっては、泣くほど愛した男なのだが、もはや敏子にはそんな感情はない。

「女房は家具みたいなもんだ。新婚で揃えたからもう古くなったけど、取り換えるの面倒だろ」

愛人の前でそんな風に言われていたと聞けば、夫への愛想も尽きるだろう。

原作での敏子は、塚本との一夜のよろめきが、夫への復讐なのか恋心なのか悩む。だが、映画ではそんなものには執着せず、もともと敏子が映画好きだったという設定を作り、成人映画館で師匠(麿赤兒)に弟子入りし、映写技師になるというラストに持っていく。

安易に新たな男にすがるのではなく、この年齢で新たに学び直して、自分の人生を歩もうというラストは、映画オリジナルだが前向きでとてもよいと思った。