『DISTANCE ディスタンス』今更レビュー|家族を止められなかった者たちの苦悩

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『DISTANCE ディスタンス』

是枝裕和監督の三作目。カルト教団の事件実行犯親族が複雑な思いで毎年顔を合わせる

公開:2001年 時間:132分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:      是枝裕和


キャスト
敦:           井浦新
勝:         伊勢谷友介
実:           寺島進
きよか:        夏川結衣
坂田:         浅野忠信
夕子:          りょう
きよかの夫:      遠藤憲一
勝の兄:        津田寛治
実の元妻:      山下容莉枝
宮村:        村杉蝉之介
菊間刑事:       中村梅雀
勝のガールフレンド:     梓

勝手に評点:2.5
 (悪くはないけど)

あらすじ

カルト教団、真理の箱舟による無差別殺人事件は、100人を超える死者を出し、殺人を行った実行犯たちも又、教団の手によって殺された。

それから3年、実行犯の遺族4人が、彼らの命日に殺害現場である湖へ向かう。ひっそりと静かに死者の霊を慰めるための旅が折り返し点に差しかかったときに、彼らの目の前にひとりの男が現れる。

彼は元信者で犯行直前まで実行犯たちと行動をともにしていたという。あるアクシデントから、彼ら5人はかつて信者たちが暮らしていたロッジで一夜を過ごすことになり、今まで目を背けてきた記憶と、自分自身と否応なく向き合うことになる。

今更レビュー(ネタバレあり)

是枝裕和監督の長編映画三作目は、前作『ワンダフルライフ』の流れを引き継ぎドキュメンタリータッチで撮られた作品だが、動きがある分、前作よりも引き込まれる部分が多い。

柳楽優弥がカンヌで史上最年少・日本人初の最優秀男優賞を獲得し、世界的に注目を浴びた『誰も知らない』は次作にあたるが、同作以降の是枝監督作品は、ドラマとしての完成度が一気に引き上がる。

その意味では、この映画は粗削りな部分が多く残った、アマチュアの匂いがする最後の作品だと思う。

© 2001-2006 『ディスタンス』製作委員会

冒頭には、群像ドラマのように何人かの登場人物が次々と脈絡なく現れる。学校教師のきよか(夏川結衣)、小さな娘を持つ会社員の(寺島進)、彼女とフラフラ渋谷をぶらつく若者・(伊勢谷友介)、そして花屋に勤める
(井浦新)

男性三人は『ワンダフルライフ』からの続投だ。年齢もタイプもバラバラで何の繋がりもなさそうなこのメンバーが、田舎町の駅で待ち合わせ、そこから湖に向かう。

一体連中はどんな関係で、何をするのだろうと不思議に思っていると、やがて答えが分かってくる。この四人は、無差別殺人を起こしたカルト集団の実行犯の家族なのだ。

実行犯たちは、教団によって殺され、その灰が湖に撒かれた。年に一度、四人は慰霊のためにその湖に訪れ、花を手向けているのだった。

役者から即興演技を引き出すために、是枝監督は役者に自分の台詞のみを与え、相手が何を言うのかは情報を与えないという手法をとった。役者の情報量に差をつけることで、ドキュメンタリーのような自然な会話が生まれる。

『誰も知らない』以降も子役などに採用した手法であるが、この映画でも、山の中を歩き湖でハイキングを楽しむような彼らの会話に、その効果が出ていたように感じた。

そしてアクシデントが起きる。湖から戻ると、彼らが乗ってきたクルマが盗まれてしまっているのだ。人や車通りがある場所には、とても歩いて戻れる距離ではない。携帯も圏外だ。

絶望で途方に暮れる四人。そこに、同じ場所にバイクを置いていて同様に盗まれてしまった、教団の信者の坂田(浅野忠信)が現れる。野宿よりましだと、五人は教団が昔使っていた山荘に忍び込む。

© 2001-2006 『ディスタンス』製作委員会

浅野忠信『幻の光』以来の是枝作品。五人の中では夏川結衣だけが初参加だが、以降、是枝作品に『歩いても 歩いても』等に出演。

寒い山荘で一夜を過ごす五人。坂田からの話を聞くことで、それぞれ失った実行犯との思い出を蘇らせてゆく。

きよか(夏川結衣)には同じく教師だった夫(遠藤憲一)、水泳コーチの(伊勢谷友介)には医学生の兄(津田寛治)(寺島進)には、宗教にのめり込んで出家した元妻(山下容莉枝)。花屋に勤める(井浦新)には姉の夕子(りょう)

例えば教団時代に坂田が夕子に「ここから逃げよう」と誘う場面などは、その指示を浅野忠信にしかしていないそうだ。

この是枝手法による即興演技の緊張感のせいか、役者たちの演技はみなリアルでよかった。伊勢谷友介も前作『ワンダフルライフ』から格段に上達しているように思う。

残念だったのは、クルマを盗まれたことによる緊迫感が、盗まれた直後のみであとは感じられなくなってしまうことだ。

例えば冷え込みだったり、飲料水だったり、食糧やトイレなど、一晩を廃屋のような山荘で過ごすのであれば、それなりに悩む場面があってもいいと思うが、男たちはただ気楽にタバコを吸うのみに見える。

© 2001-2006 『ディスタンス』製作委員会

さらに不思議なのは、山荘に一晩泊っただけで何の解決にもなっていない筈なのに、翌日いとも簡単に、清里のペンション街にたどり着き(元ネタがオウム真理教だからね)、立ち食いソバをすすって小海線で小淵沢経由、新宿に戻っていること。

とても歩けない距離だったはずが、簡単に踏破できたということなのか? 盗まれたクルマやバイクについても、警察に届けることもなく、そのまま放っておき話題にもしないのは、どういうことなのか。

ドキュメンタリーにこだわる是枝監督らしからぬ関心のなさではないか。

来年また会おうと言ってみんな解散して普段の生活に戻るわけだが、坂田(浅野忠信)(井浦新)に、「お姉さんから弟は自殺したと聞いていたけど」と疑いの目を向ける。

敦は身分を偽って、誰かの入院先にも通っていたが、ついに死んでしまったようだ。一体、敦は何者なのか。

家族写真を燃やし、湖に花を手向け「父さん」と呟く敦は、教祖の息子だったのかもしれない。入院していたのは事件被害者か。ならば身分を偽って見舞いに通うのも分かる。

入信していない弟を慮ったか見限ったかで、姉は弟が自殺したことにしたのではないか。

敦が家族写真を燃やすのと、桟橋が燃えるのと、どう関係があるのか分からない。ただ、ラストシーンの桟橋炎上は火が激しすぎる。あれではこの映画の余韻が台無しだ。