『サイドウェイ』
Sideways
アレクサンダー・ペイン監督が贈る、バカな男のワインと女遊びの二人旅。
公開:2004 年 時間:130分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督・脚本: アレクサンダー・ペイン
脚本: ジム・テイラー
原作: レックス・ピケット
キャスト
マイルス: ポール・ジアマッティ
ジャック: トーマス・ヘイデン・チャーチ
マヤ: ヴァージニア・マドセン
ステファニー: サンドラ・オー
ヴィクトリア: ジェシカ・ヘクト
キャミ―: ミッシー・ドウティー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
離婚の傷を引きずる作家志望の教師マイルス(ポール・ジアマッティ)は、結婚を1週間後に控えた親友ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)に独身最後の時間を楽しんでもらおうと、一緒にカリフォルニアのワイナリーを巡る旅に出る。
しかしプレイボーイのジャックは旅先で羽目を外すことしか考えておらず、ワイナリーで知り合ったステファニー(サンドラ・オー)と関係を持ってしまう。
一方、マイルスはステファニーの友人であるワイン通のマヤ(ヴァージニア・マドセン)に惹かれるが積極的になれずにいた。
今更レビュー(ネタバレあり)
ワイン・テイスティングの旅
アレクサンダー・ペイン監督の『サイドウェイ』、実に20年ぶりに観た。カリフォルニアのワイナリーを飲み回る男の二人旅の話。
合コンめいた男女2対2の飲み会の場面と、トラウマ級に衝撃的な、男性器が迫ってくるボカシなしのとあるシーンの映像だけが、20年間脳裏から離れずにいた。だが、改めて観てみると、なかなかユニークで面白い映画なのである。
◇
久々に本作を引っ張り出したきっかけは、アレクサンダー・ペイン監督の新作『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』を観たからだ。
学校に教師と生徒が居残ってクリスマスを迎える映画なのだが、主演が本作と同じポール・ジアマッティ。20年ぶりに監督とタッグを組んだ。気がつかなかったが、どちらも学校の教師の役だった。
来週に結婚式を控える、落ち目の俳優ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)に、独身最後の1週間を楽しませてやろうと、親友の作家志望の教師マイルス(ポール・ジアマッティ)が旅行をセッティングする。
マイルスは大のワイン通だけあって、カリフォルニアのワイナリーやレストランを飲み回り、ワインとゴルフ三昧で楽しもうとしている。
一方ジャックは行きずりの恋で女と寝ることしか頭になく、2年前に離婚したマイルスにも女を紹介してやろうと張り切っている。中年男二人は、おそろしく仲良しだ。そういう趣味かと思ったが、ねらいは女なのだから、どうやら違う。
◇
マイルスの愛車、『ドライブ・マイ・カー』でもすっかり有名になった赤のサーブで、西海岸を男二人で走り回る。
どうでもいいが、ワインを浴びるように飲みながら運転するのは、米国では違法ではないのか。男も女も酩酊してハンドルを握るシーンのなんと多い事。
男女2組の個性的なメンバー
マイルスはワインの店でウェイトレスをやっているマヤ(ヴァージニア・マドセン)、そしてジャックはワイナリーで働くステファニー(サンドラ・オー)とそれぞれ親しくなり、女性同士ももともと友人だったことから、四人で飲んで意気投合する。
手の早いジャックはあっという間にステファニーとベッドインするが、別れた妻ヴィクトリア(ジェシカ・ヘクト)を引きずるマイルスは、マヤとワインの話で盛り上がるより先には、なかなか進めずにいる。
映画に次々と登場するワイナリ―やワインの店が実在するものなのかはよく分からない。蘊蓄のひけらかしが多いマイルスにはうんざりだが、ろくにワイン通でもない者でも、ちょっと飲みたい気にさせてくれる。
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ポール・ジアマッティは以前から知っていたが、どこかシュワちゃん似のトーマス・ヘイデン・チャーチや、ヒロインのヴァージニア・マドセン、そして当時アレクサンダー・ペイン監督と結婚していたサンドラ・オー。
各メンバーは、みな本作で一躍有名になった印象。トーマス・ヘイデン・チャーチは『スパイダーマン3』、 ポール・ジアマッティは『アメイジング・スパイダーマン2』でそれぞれヴィランを演じているのも何かの縁か。
◇
ところで、『サイドウェイ』は日本でリメイクされ『サイドウェイズ』(2009)として公開された。役柄等に変更はあるが、出演者4人の顔ぶれは小日向文世、生瀬勝久、鈴木京香、菊地凛子。
ポール・ジアマッティに小日向文世は合っていると思うが、あとはどうもなあ。リメイクすると聞いたとき、サンドラ・オーの役は室井滋になると信じていたのだが。
高くついたバチュラー・ツアー
物語が大きく動くのは、マイルスがマヤとのデート中にうっかり、週末に結婚の前祝いがあると口を滑らせてしまったあたりから。
ここから、ジャックが週末までの婚前の女遊びをしているのだと知り、彼にのめり込んでいるステファニーを傷つけたとマヤが激怒する。
◇
一方、マイルスは出版社に売り込んでいた小説の原稿がボツになったと聞かされ、落ち込んでワイナリーで大暴れ。
それを宥めていたはずのジャックだが、彼に遊ばれていたと知ったステファニーが突如現れ、ヘルメットを振り回し、彼の鼻の骨を折る! いやはや、悪い遊びのツケは大きかった。
これでジャックは女遊びに懲りて、一方のマイルスはマヤとうまくいく展開なのかと思ったら、更にもうひとひねり。
怪我も治らないうちにジャックは、性懲りもなく太ったウェイトレスのキャミ―(ミッシー・ドウティー)
に手を出すのだ。いや、何という執念。
結局このキャミ―が人妻で、そうとは知らず彼女の家で事に及んでいたジャックは、帰宅した亭主に殺されそうになり、素っ裸でマイルスのいるモーテルに帰ってくる。
ここから先が、冒頭で述べたトラウマ級のシーン。これはさすがに、『サイドウェイズ』ではリメイクできまい。
終盤、マイルス自慢の赤のサーブがボコボコの事故車になってしまうのは何とも悲しいのだが、これはジャックが傷だらけの顔で結婚式に出るためには、必要な偽装なのである。
こうして一週間がどうにか経過し、ジャックは無事に結婚式を挙げ、一方、マイルスは披露宴で別れた妻ヴィクトリアに再会し、妊娠の話を聞き、ついにふっ切れる。
出版も復縁も絶望となり、大事に保管していたヴィンテージワインを、バーガーショップに持ち込んで紙コップで隠し飲み。ここは泣ける。
◇
そんな哀愁漂うマイルスだが、自分の原稿を読んでくれたマヤからの留守電が入り、彼女の部屋を訪ねるところで映画は終わる。かすかに希望を持たせるラストは、はっきりとハッピーエンドでないところがいい。
バカな男の二人旅の映画なのだけれど、どこか憎めない作品。