『愛と平成の色男』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『愛と平成の色男』今更レビュー|24時間戦える素足のプレイヤー、石田純一

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『愛と平成の色男』

森田芳光監督が石田純一と豪華女優陣で贈る、平成時代のプレイボーイ列伝。

公開:1989 年  時間:96分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:     森田芳光


キャスト
長島道行:      石田純一
長島ルリ子:    鈴木保奈美
倉田真理:      久保京子
藤木由加:      財前直見
野立百合:     武田久美子
坂木恵子:      鈴木京香
神山三夫:      桂三木助

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

あらすじ

35歳の長島(石田純一)は、昼間は歯科衛生士の妹ルリ子(鈴木保奈美)とともに開業する敏腕歯科医、夜はジャズクラブのサックス奏者という名うてのプレイボーイ。

恋愛は好きだが縛られたくない彼は、恋人が結婚を迫るとあの手この手で逃げ出していた。

あるとき、彼はディスコで知り合った由加(財前直見)とその友人の百合(武田久美子)と二股を掛けていたことがばれ、ピンチに陥ってしまう。

ほとぼりを冷まそうと一関に逃げた彼は、そこで古風な美女の恵子(鈴木京香)と知り合う。

今更レビュー(ネタバレあり)

石田純一の軽やかさが、これほどピッタリくる作品は他に思い当たらない。彼が演じるモテまくりの主人公・長島道行は、昼は若い女の患者しかとらない歯科医、夜はジャズサックスプレイヤーとして銀座のクラブで吹く。まるでエロ『コウノドリ』だ。

映画はこの鼻持ちならないプレイボーイのモテキをダラダラと見せるだけの作品であって、長島は痛い目に遭って遊び人稼業を卒業するわけでも、人間的な成長を遂げるわけでもない。言ってしまえば、ドラマとしては何も残らない、能天気な作品だ。

モテまくりのイケメンを美女たちが取り囲む映画は、竹野内豊『ニシノユキヒコの恋と冒険』岡田将生『伊藤くんAtoE』など、ジャンルとして決して珍しくはない。だが、ここまで内容が薄っぺらい作品というのは、稀少だろう。

しかしながら、この作品がただの駄作に思えないのは、さすが森田芳光監督の時代をとらえる嗅覚が研ぎ澄まされているからだ。タイトルからも分かるように、本作は平成の時代の軽薄さと高揚感を見事にとらえた作品といえる。

石田純一の中身のなさと清潔感は、わたせせいぞう『ハートカクテル』の実写版かのようだ。

公開は1989年だから、まさに平成元年。バブルがはじける前の狂騒。いきなり元号をタイトルにぶち込む拙速感にも時代を感じる。『愛と青春の旅だち』『愛と哀しみの果て』など、「愛と」のあとには4文字言葉の座りがいい。

だからここは昭和でも令和でもなく、「平成」がはまる。しかも、そこに続くのが「色男」ときた。このワードセンスが秀逸。

映画は冒頭、心地よいジャズフュージョンの曲が流れ、湘南の海沿いで赤いBMWから長島に電話する真理(久保京子)。留守電から男の気障なメッセージ。居留守の男はゴージャスな自室から白スーツでジャガーを駆って女の来る前に逃げ出す。

序盤戦からアクション抜きのジェームズ・ボンドのような伊達男ぶりだ。音楽は野力奏一。テーマ曲はアイズレ―・ブラザースの人気曲”For the love of you”を思わせる心地よいメロディ。

赤のBMWに白のジャガー、運転中に車内から電話でやりとり(今なら違法だ)。誰もが固定電話の留守電メッセージに凝っていた、携帯普及前の時代だ。車載電話は羨望の的だった。『私をスキーに連れてって』でも、アマチュア無線だ。

独身主義の長島は、歯科を手伝う妹のルリ子(鈴木保奈美)を使い、結婚を迫る真理を撃退する。

ルリ子の暮らすペントハウスのような部屋の非日常感。言い寄る女たちを払い落として、側には可愛い妹が世話を焼く恵まれた環境。石田純一鈴木保奈美だよ、平成トレンディドラマ感がハンパない。

女と別れる際にも夜の海辺で演奏を聴かせたり、ジャガーの後部座席でカー・サックス(セじゃないよ)を楽しんだり、銀座のクラブでバンド仲間とジャズセッションに興じたり。随所で気持ちよく演奏する長島。

石田純一の指使いと吹き込みは、結構本物っぽい。DIMENSION勝田一樹が指導したとある。長島のサックスは快楽主義を追究するような演奏で、この時代を反映している。

アニメ映画『BLUE GIANT』の主人公ダイが、苦悩しながらサックス・ソロを吹いているのとは真逆の演奏風景だ。

さて、ディスコで知り合った画廊勤務でホステス兼業の由加(財前直見)、そしてクラブの同僚ホステスで昼は婦人警官の百合(武田久美子)と、長島は次々と触手をのばしていく。

彼の同窓生で歯科医仲間の神山(桂三木助)が、銀座コリドー街で由加と百合を侍らせて、タクシーで向かったのがゴルフの打ちっ放し(当時あった東京タワーそばの芝公園の練習場か)。

銀座で彼女らを見かけて尾行する長島が、バーで酒をおごるように、「何番レーンのお客様にゴルフボールを」と差し入れするのは笑。あれはネタか。

はじめに結婚を迫った真理(久保京子)と、ディスコで知り合った由加(財前直見)は、いい女ではあるが長島からみると、うるさくて面倒くさい存在として描かれている。

その反動で、彼の不眠症を解消させる存在となる百合(武田久美子)は、かなり妖艶なキャラだ。

彼女の薄暗い部屋に招かれてコンビニで買ったビールで乾杯した翌日には、婦人警官の制服姿で鉢合わせし、夜には室内プール付きのラブホでハイレグ水着を披露(一世風靡した貝殻ビキニの写真集も映画と同年出版)。

緩急自在の攻撃でさすがの長島も手玉に取られそうになる。

だが、ついに診療所で由加と百合がバッティングする。といっても、ゴージャスな長島の歯科診療所は、全て豪華設備の個室なのだが、予約時間が重なり掛け持ちしたことで、二股恋愛が発覚してしまう。ここでキャットファイトがみられるとは。

石田純一の着るスタンドカラーの白衣がスタイリッシュすぎてかえってスケベな印象。一方、鈴木保奈美ナース服は色っぽい感じでよい。兄にズケズケ物申すキャラも自然で、本作で一番魅力的にみえオイシイ役だったのでは。

(c)1989 C.I.C/BANDAI/SHOCHIKU

そして真打ちで登場するのは、三陸のジャズフェスで出会った恵子(鈴木京香)。本作で映画デビューとは思えない鈴木京香の楚々とした雰囲気。

「東京に行きます。私を変えてください」

上京した恵子に、「じゃあ、今からディスコに行こうか。その前に服を買ってあげよう」と自然に出る台詞は金満スケベオヤジのそれだが、爽やかさを維持するところがさすが素足の堕天使、石田純一

でも、彼が選んであげる服は相当ぶっ飛んでいる。これもネタなのか、平成の常識なのか。

(c)1989 C.I.C/BANDAI/SHOCHIKU

結局、長島が扱いやすいだろうと舐めてかかっていたこの三陸出身の女性・恵子が、東京で世間にちやほやされ、一番怖いオンナに成長していく。彼女が言っていた通り、まさに『マイフェアレディ』のように、主客転倒してしまうのだ。

ラストではついに、バングラディッシュの地域医療のボランティアで5年は日本を離れることにした、と恵子に告げ、長島はヘリで飛び立つ。

それは別れるための大嘘で、行先は妹とグアムなのだが、そもそもなぜヘリなのかも含め、観客を煙に巻くエンディング。

これがバブルの時代の日常だったのだよ、とZ世代の子供たちに紹介するのには、手頃な作品かもしれない。