『ボルサリーノ』
Borsalino
ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロンのバディムービーだなんて、夢のようなフランス製ギャング映画。
公開:1970 年 時間:126分
製作国:フランス
スタッフ
監督: ジャック・ドレー
原作: ユージェーヌ・サコマノ
キャスト
ロッコ・シフレディ: アラン・ドロン
フランソワ・カペラ:
ジャン=ポール・ベルモンド
リナルディ: ミシェル・ブーケ
ポリ: アンドレ・ボレ
マレーロ: アーノルド・フォア
ダンサー:クリスチャン・ティリティレ
ジネット: ニコール・カルファン
ローラ: カトリーヌ・ルーヴェル
エスカルケル夫人:
フランソワーズ・クリストファ
リナルディ夫人:コリンヌ・マルシャン
ファンティ警部: ダニエル・バネル
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
1930年代のマルセイユ。4カ月の刑期を終えて出所したシフレディ(アラン・ドロン)は、自分の女であるローラ(カトリーヌ・ルーヴェル)をめぐってカペラという男(ジャン=ポール・ベルモンド)と殴り合いになる。
だが、そのケンカ沙汰をきっかけに二人の間には奇妙な友情が芽生える。ギャングとしての野望を達成するため、シフレディとカペラは街の大物ギャングたちを翻弄し、マルセイユを手中に収めていくが…。
今更レビュー(ネタバレあり)
ベルモンド+アラン・ドロン
榊原郁恵のヒット曲のような表題になってしまった(知らない世代は聞き流してください)。
2021年9月にジャン=ポール・ベルモンドが88歳で亡くなった時、「呆然としている。5時間のうちに後を追わないようにするのに必死だ」と終生のライバルの訃報にコメントしたアラン・ドロンは、3年後に同じく88歳でこの世を去った。
本作は、そのフランスが誇る二大スター俳優が脂の乗っていた30歳代に初共演したギャング映画だ。監督は、その後もアラン・ドロン主演作を多く撮っているジャック・ドレー。
◇
「ボルサリーノ」といえば、映画でも二人がかぶっている、あの高級ハットが思い浮かぶが、けして映画先行で生まれたブランドではなく、1857年創業というイタリア高級帽子店の方がはるかに老舗だ。
『カサブランカ』のボギーや『8 1/2』のマストロヤンニも作中で着用したこの帽子は、本作でも勿論キーアイテムとして登場。
アラン・ドロンのギャング映画というとシリアスで暗鬱な作品を想像するが、ジャン=ポール・ベルモンドの共演により、本作は意外なほど軽妙なバディムービーになっている。
◇
ギャング映画としては、正直完成度が高い作品とは言い難い。脚本にさしたる仕掛けがあるわけでもないし、キャラクターに深みがあるわけでもない。
だが、渋さとルックスが売りのアラン・ドロンと、軽妙さとタフネスが売りのジャン=ポール・ベルモンドが、不思議な友情で協力し、町の顔役たちを倒してのし上がっていく本作は、なぜか高揚感を与えてくれる。
山田康雄と野沢那智だよ
出会いの場面からして、陳腐だ。
アラン・ドロン扮するロッコ・シフレディが出所してボルサリーノといかしたスーツで身を固め、昔の女ローラ(カトリーヌ・ルーヴェル)を店に訪ねていくと、そこには新しい男(ジャン=ポール・ベルモンド)がいる。
さんざんに殴り合ったあとで、二人は同時に床に倒れて力尽きる。新しい男はフランソワ・カペラだと名を明かし、二人は女のことなど忘れて友情を芽生え支える。
まるでスポ根漫画のワンシーンのような単純さだが、そこが憎めない。本作を偏愛してしまう人が多くいるのも理解できる。
始めから殴られたように唇を尖らせたカペラと、どれだけ殴られても顔が涼やかなシフレディ。男二人に女一人の映画にはトラブルが付き物だが、はじめに喧嘩ありきというのが面白い。
ジャン=ポール・ベルモンドがルパン三世のモデルとなっているという話は有名だが、ギャング映画である本作には特にそれを感じる。登場するクラシックなクルマも、初期のルパンが乗っていたものとイメージが合う。
それに、ジャン=ポール・ベルモンドの吹替声優は山田康雄となれば、同一人物に思えても無理はない。本作を山田康雄と野沢那智という豪華吹替声優で見られたら、更に偏愛できてしまう気がするな。
心に残るバディムービー
始めの頃は、本命の競走馬を載せたトラックを強奪して翌日のレースで荒稼ぎしようとしたり、町で拾った男をボクサーに仕立てて賭けで儲けようとしたり、魚市場の独占を企む依頼主のためにライバル店に腐った魚を置いたり。
意気投合したシフレディとカペラは、ギャング映画にしては随分ショボいことをやっている。
だが、カペラが花屋で見初めた女性ジネット(ニコール・カルファン)を、町を牛耳っているマルセイユの食肉を扱うレストランのオーナー・ポリ(アンドレ・ボレ)から助け出そうとして、二人は大物ギャングを敵に回し始める。
自分たちの味方と思って裏切られたリナルディ弁護士(ミシェル・ブーケ)や、更にその上で糸を引く地下カジノのオーナー・マレーロ(アーノルド・フォア)など、次々とマルセイユの町の顔役を倒していくのだ。
可哀そうな若い娘を救出しようと、大きな敵に挑むカペラは、『カリオストロの城』のルパンの行動原理に近い。それ以外にも、本作は多くのギャング映画やバディムービーに影響を与えているように見えた。
例えば大事な場面にコイントスで決断するカペラが、実はコインを2枚隠し持ちシフレディの賭けた裏表と違う方のコインをポケットから出す手法は、そのまま『あぶない刑事』でタカが使っていた。
ドラマではビリヤード台を挟んでの乱闘シーンもあったが、もしかしたら本作に触発されたのかも。
シフレディとカペラが襲う食肉倉庫で敵に情報が洩れ待ち伏せされているシーン。大きな牛肉の塊が大量に吊り下がる冷凍倉庫でのバトルは、松田優作がマイケル・ダグラスを翻弄した『ブラックレイン』を思わせる。
悪玉のポリが回転ドアに閉じこめられて射殺されるシーンは『ゴッドファーザー』を彷彿とさせるが、公開年からすればこちらが2年早いのだ。
マルセイユを手にする二人
本作は1930年代のマルセイユを忠実に再現しているそうだが、いかにもマルセイユだと分かるロケーションが狭いくだり坂とカフェやキャバレー街くらいで、もう少し港町らしさが伝わる風景が見たかった気はする。
のさばっていたゴッドファーザーたちを一掃し、もはやマルセイユは君らの天下だと警察にもお墨付きをもらうほどの二人。
だが、このままだといつか喧嘩になると言って、カペラはシフレディに座を譲り、町を出ようとする。そして、路上には彼らを報復しようとする連中が待っており、カペラに銃弾を浴びせる。
「その死を看取ったシフレディのその後の消息を知るものはいない」
こうして映画は幕を閉じ、1974年に続編『ボルサリーノ2』が公開される。カペラが実は生きていた、なんてことはなく、シフレディのみの復讐劇だ。これでは本作の持ち味は出しようがない。
◇
二人が揃った活躍が楽しめるのは本作のみなのだ。そう思うと、俄然本作に愛着が湧く。