『LOGAN/ローガン』
Logan
公開:2017年 時間:137分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督: ジェームズ・マンゴールド
キャスト
ローガン/ ウルヴァリン:
ヒュー・ジャックマン
チャールズ/ プロフェッサーX:
パトリック・スチュワート
ローラ/ X-23: ダフネ・キーン
キャリバン:スティーヴン・マーチャント
ガブリエラ: エリザベス・ロドリゲス
ドナルド・ピアース:
ボイド・ホルブルック
ザンダー・ライス:リチャード・グラント
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
あらすじ
ミュータントの大半が死滅した2029年。長年の激闘で疲弊し、生きる目的も失ったローガンは、アメリカとメキシコの国境付近で雇われリムジン運転手として働き、老衰したチャールズ・エグゼビアを匿いながら、ひっそりと暮らしていた。
ある日、ローガンの前にガブリエラ(エリザベス・ロドリゲス)と名乗る女性が現れ、謎めいた少女ローラ(ダフネ・キーン)をノースダコタまで連れて行ってほしいと頼む。
組織に追われているローラを図らずも保護することになったローガンは、チャールズを伴い三人で逃避行を繰り広げることになる。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
ウルヴァリンでなくローガン
ウルヴァリンのスピンオフシリーズに、はじめてローガンという人間の名が与えられた本作。ポスタービジュアルを見ても分かるように、ミュータントである主人公が派手に戦うアクションが前面に出ている作品ではない。
設定こそX-MENだが、なんの回想シーンもなく、後半に進むに従いアクションシーンは増えていくものの、前半はハードボイルドなドラマ仕立てだ。
◇
時代背景は、ミュータントの大半が死滅した2029年。殆ど年を取らないはずのローガン(ヒュー・ジャックマン)も、なぜか随分と老け込んでいる。
自身の特殊能力の減退を痛感しつつ、ローガンはメキシコにある巨大なタンクの中にチャールズ(パトリック・スチュワート)を軟禁し、ミュータントの相棒キャリバン(スティーヴン・マーチャント)とともに老々介護。
チャールズとマグニートーが中心となり、あれほど大勢のミュータントたちが人類と戦いを繰り広げた新旧X-MENシリーズの最後を飾るのが、2029年を描いた本作だ。
時系列的には『X-MEN:フューチャー&パスト』でX-MENたちが歴史を変えた、ミュータントが滅びた2023年(改変前)か生き残った2023年(改変後)から6年後にあたる。
ミュータントは滅びちゃいないが25年間生まれていないというから、どっちの歴史の世界なのかは分からない。
監督は『ウルヴァリン:SAMURAI』に引き続きジェームズ・マンゴールドだが、前作の派手さに比べ、なかなか渋い作品に仕立てたものだ。
少女と老父を連れたロードムービー
ローガンは2024年型のクライスラーでリムジンの運転手をしている。日銭を稼いで生活している姿がまるで似合わない。
ある日、ガブリエラ(エリザベス・ロドリゲス)という女が彼に金を払い、無口な少女ローラ(ダフネ・キーン)をノースダコタまで運んでほしいと依頼する。
その翌日、ガブリエラはモーテルで殺された。アルカリ遺伝子研究所の片腕サイボーグ男・ドナルド・ピアース(ボイド・ホルブルック)が、ローラの行方を追っているのだ。
◇
「この少女こそ、我々が待っていた娘だ」と興奮するチャールズ。ローガンはローラとチャールズを連れて、ピアースたちの攻撃から逃げてクルマを走らせる。
車椅子の祖父と幼い少女を乗せたクルマのハンドルを握る初老の男。見た目は完全に、シングルファーザー家庭のロードムービーと化している。
◇
老いた祖父にみえる男は、世界最高の頭脳の持ち主プロフェッサーXだが、アルツハイマーを患っており、その能力は失われようとしている。
そして何と少女ローラは、ローガンと同じアダマンチウムの鉄爪と回復能力を備えている。彼女は、ローガンから採取したDNAにより研究所で生まれ人体実験で能力を鍛えられたクローンミュータントなのだ。
泣けるラストまでの展開
ローラを執拗に追うピアースと配下の連中。ミュータントキッズたちが集まっているはずの<エデン>と呼ばれる目的地を目指すローガン一行。
『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』でも、逃走劇の途中で出会いローガンに親切にしてくれた老夫婦が、敵の攻撃を受けて殺されてしまったが、本作でも牧場を営む黒人家族が非業の死を遂げる。
そしてついに、「恵まれし子らの学園」の創設者である、プロフェッサーXまでもが、殺されてしまう。刺客はウルヴァリンの完全クローンであるX-24(ヒュー・ジャックマン)。嗚呼、ローガンの愛する人たちは、みな殺されていく宿命か。
いつも感じるのだが、主人公と酷似したニセモノの敵と戦うシーンは、作り手が思うほど面白くない。偽ウルトラマンや偽仮面ライダーの登場は、製作費不足からの苦肉の策だろうが、予算潤沢のマーベル映画でこの愚を犯してほしくない。
『ヴェノム:レット ゼア ビー カーネイジ』も『インクレディブル・ハルク』も、敵が似ているからつまらないのだ。X-24は確かに強いけど、ヒュー・ジャックマンが演じる必要はなかった。
◇
とはいえ、本作の終盤は盛り上がる。ローガンにローラ、そしてエデンのミュータントキッズたちが総力戦で敵と戦い、勝利を収める。
だが、ついに我らがローガンも、致命傷を負う。プロフェッサーに加えて、不死身の男に息絶える日が来るとは! だが、ローガンの眼前には、悲しむ娘がいる。
「(愛する家族がいるって)こういう感じなのか…」
『ウルヴァリン:SAMURAI』の頃から、半永久的に死ねない自分に嫌気がさしていたローガンに、この死に方は案外幸福だったかもしれない。
「人を殺した者は、戻れない。正しくても、人殺しの烙印を押されるのだ」
そうローラが語る。X-MENシリーズの締めに『シェーン』の台詞がくるとは思わなかった(彼女は旅先のホテルでこの映画を観ている)。
だが、本作の根底には西部劇の魂が感じられるせいか、これは馴染んでいる。ヒュー・ジャックマンがクリント・イーストウッドに似ているからという理由ではない。
◇
ラストは、ローガンの亡骸を埋めた墓標の十字架を斜めに傾けて、Xの文字を作るローラ。泣かせるなあ。エンドロール後に、続編への繋ぎなど何も出てきてほしくないと願うマーベル作品もあるのだ。