『姉妹坂』
大林宣彦監督が紺野美沙子・浅野温子・沢口靖子・富田靖子の豪華キャストで撮る京都の四姉妹物語
公開:1985 年 時間:100分
製作国:日本
スタッフ 監督: 大林宣彦 原作: 大山和栄 『姉妹坂』 キャスト 喜多沢彩: 紺野美沙子 喜多沢茜: 浅野温子 喜多沢杏: 沢口靖子 喜多沢藍: 富田靖子 桜庭諒: 尾美としのり 柚木冬悟: 宮川一朗太 喜多沢千代: 藤田弓子 喜多沢守男: 佐藤允 綾小路良江: 入江若葉 園臣大(弾き語り): 早瀬亮 宝大寺毬子(婚約者): 横山美樹 岩城医師: 竹脇無我
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
京都、哲学の道近く、喜多沢家の四姉妹は両親亡き後、長女・彩(紺野美沙子)を中心に、雑誌社に勤めるカメラマン茜(浅野温子)、大学生の杏(沢口靖子)、高校生の藍(富田靖子)で茶房・小径を営んでいた。
ある日、杏は大学のフェンシング部の桜庭諒(尾美としのり)と柚木冬悟(宮川一朗太)に同時に愛を告白された。そして、学園祭のパーティで、冬悟からキスをされた杏は、彼の誕生日に京扇子の老舗、柚木家を訪ねた。
杏にプロポーズをする冬悟。それを知った彼の従妹で親が決めたフィアンセ宝大寺毬子(横山美樹)は、杏を呼び出して、喜多沢家の本当の子供は彩だけだと告げるのだった。
ショックを受けた杏は戸籍を調べる。そんな杏に、茜は自分たちがいた施設が経営不振のために閉鎖となり、保母をしていた喜多沢千代(藤田弓子)に三人共引き取られたのだと告げる。
今更レビュー(ネタバレあり)
京都を舞台にした若草物語
いつもの大林宣彦監督作品のような
「A Movie」ではなく、
「ひとつの 映画。」という字幕で始まる。
「それは、いつも愛の想いで過剰となり、ひとのこころを乱す。」と続く。
東宝映画の企画に監督として呼ばれた形の作品ゆえ、自主映画からのトレードマークはご遠慮願いたいといわれたからだとか。
◇
確かに、本作は見慣れた大林作品とは違い、主人公の四姉妹に、紺野美沙子・浅野温子・沢口靖子・富田靖子を持ってくるという豪華絢爛な布陣。
さすが東宝の企画。まだ原石のような若手女優を輝かせる普段の大林監督手法とは、少々勝手が違うようだ。併映の『雪の断章-情熱』が斉藤由貴ひとりでは、霞んでしまう。
◇
原作は大山和栄の同名コミック。20巻近い大作を大林監督がかなり思い切って一本の映画にまとめているようであるが、未読なので違いは分からない。
両親は他界しており、京都で茶房を営む四姉妹。長女の彩(紺野美沙子)を除いて、三人は施設から母が引き取ってきた養女であるが、下の二人はそれを知らずに育っている。
華やかな姉妹の恋物語という点では、海外なら『若草物語』、日本なら谷崎の『細雪』の現代版といったところか。古都が舞台なら、鎌倉の四姉妹もの『海街diary』にも繋がるのかも。
◇
実に何十年ぶりに見たが、観ている方が恥ずかしくなる演出が随所にあり、ある意味、大林映画の王道といえる作品。勿論、万人向けでないことは言うまでもない。
脱落するには早すぎる
映画は冒頭、京都の大学キャンパスでフェンシング部の桜庭諒(尾美としのり)と柚木冬悟(宮川一朗太)が、女子大生の杏(沢口靖子)に白昼堂々交際を申し込む。
「僕ら二人のうちどっちか、恋の相手に選んでくれ」
いやいや、杏に恋人がいないと思い込んで、二人から選べという高慢な姿勢が既にコンプラ不適切だが、それ以前に、この冴えない男子二人が大学の女子の人気を二分しているという無理な設定だけで、早くも配信停止したくなる。
いや、気持ちは分かるが、まだ脱落するには早い。
- 大学の体育館で繰り広げられるパーティで、諒と冬悟が杏を奪い合う学芸会のようなダンスシーン
- その後にセクハラ認定の冬悟の暗闇キス強奪
- 冬悟のフィアンセが杏に嫉妬し手首を切ろうとする無茶な場面(ティースプーンだもの)
- 自分が養女と知った藍がヤケ酒飲んでディスコでロボットダンスを始める噴飯もののシーン
- 冬悟が杏に婚約指輪をプレゼントする、ローカル局の結婚式場のCMもどきの場面
これ以外にも、悶絶しそうな謎の演出が目白押しだ。これを見逃がす手はない。
大林監督は本作で、イマジナリーラインを無視して出演者たちの視線をあえてずらしたり、歩きながら二人で話しているはずなのにカットを割ると背景の動きが逆だったりと、実験的な試みを採り入れている。
だが、それ以外のシーンにも遊び心ある取り組みが多いため、どこかが悪目立ちすることもなく、ごく自然に話が進んでいく。
◇
前半は杏の恋愛トラブルや養女と知った姉妹の動揺、そして後半は杏の争奪戦から身を引いた諒(尾美としのり)が茜(浅野温子)と恋仲になり、そして白血病を患う茜が身の危険を承知で出産をするという展開に繋がっていく。
もうこのあたりになると、不思議な演出に目が慣れてしまったのか、何が来ても悶絶しない。軟弱な学生にしか見えなかった冬悟と諒も、終盤は精悍な若者にみえてくるから不思議だ。
観るべきは女子大生の沢口靖子
本作はけして大林監督の作品の中でも評価が高いものではないのかもしれないが、彩(紺野美沙子)、茜(浅野温子)、杏(沢口靖子)、藍(富田靖子)の四姉妹の共演は観るべきものがある。
中でも沢口靖子。ポスタービジュアルでは平等に写っているが、作品は彼女が演じる杏が断然主役だ。
初代東宝シンデレラが、同社の企画で最も輝いて見えるのは当然だろうが、お姫様のような華がある。『科捜研の女』にも、こんな初心な時代があったのだよ。
沢口靖子の出演作を振り返ると、本作のような現代劇の恋愛ドラマというのは珍しいのではないか。演技云々の前に、この実質主演作は貴重なのだと思う。
そして後半で俄然存在感を見せるのが、浅野温子。前半も雑誌社のカメラマンなのにクラブでバイトもしている訳アリな感じだったが、まさかの白血病、難病ものかよと思っていると今度は命がけで出産と、後半はドラマを牽引する。
姉妹の中では自由奔放なアネゴ的存在ではあるが、『スローなブギにしてくれ』ほか角川映画での配役やその後のドラマで確立したキャラから見ると、極めてマジメで真っ当。こんな浅野温子もまた貴重かも。
トレードマークの髪かきあげも顔クシャクシャの表情も封印。
紺野美沙子は長女かつ両親の実子ということもあって、姉妹の面倒をみるしっかり者のお姉さん。マジメキャラの彼女にこの役はぴったり。
だが、母親代わりなので恋愛話にも積極関与できず(竹脇無我演じる医師とのロマンスはあるが)、映画的にはなかなか目立ちにくいポジション。思えば『海街diary』の綾瀬はるかも、同じような位置づけだった。
そして末っ子に富田靖子は、『さびしんぼう』の好演に続いての起用。フードを被って地べたに座り込んだり、雨の中を尾美としのりと抱擁したりと、同作を彷彿とさせる場面もあった。
だが、豪華なお姉さんたちに出しゃばって目立つこともできず、ファンとしてはやや物足りない。彼女には、恋愛相手さえ割り振られていないので、まだガキ扱いなのかもしれない。
四姉妹で一つの人格
本作には四姉妹に対して諒(尾美としのり)、冬悟(宮川一朗太)そして岩城医師(竹脇無我)の三人の男性が登場する。
杏(沢口靖子)は内心、諒に惹かれていたのだろうが、行動力のある冬悟と付き合う形になり、そこに身を任せてしまった。
弾き語りの園臣大(早瀬亮)と親しくなるが、恋愛感情とは違うようだ(彼の歌はウェットで甘く、布施明より本作のテイストと合っていたのでは)。
茜(浅野温子)はかつて岩城に憧れていた。そんな彼女に諒は幼く見えただろうが、それでも最後には深く愛し合う。彩(紺野美沙子)は相思相愛だった岩城と結ばれる(恋愛シーンはほぼないが)。藍(富田靖子)はこの恋愛サークルからは外に置かれている格好だ。
大林監督は、各個人の恋愛でなく、4人が一つの人格を分担するような演技をしてほしいと演者に伝えている。それが監督のいう弦楽四重奏らしい。
終盤、無事に男の子を生んだあと茜は病状を悪化させ、我が子に録音テープを残して諒と海に心中する。
ラストシーンで杏は、逞しくなってヤマから降りてきた(ダムの工事現場で働いていた)冬悟を亡くなった諒と見間違えて、一瞬嬉しそうな表情をする。
これは浮気心ではなく、複雑な乙女心なのだろうか。『さびしんぼう』のショパンの「別れの曲」ではなく、リストの「ため息」というのが、肯ける。