『007/ロシアより愛をこめて』
From Russia with Love
ショーン・コネリーがボンドを演じた007シリーズ第2作。ボンドガールにダニエラ・ビアンキ。
公開:1964 年 時間:115分
製作国:イギリス
公開時邦題『007危機一発』
スタッフ 監督: テレンス・ヤング 原作: イアン・フレミング 『007 ロシアから愛をこめて』 キャスト ジェームズ・ボンド:ショーン・コネリー タチアナ・ロマノバ:ダニエラ・ビアンキ ケリム・ベイ: ペドロ・アルメンダリス ローザ・クレッブ: ロッテ・レーニャ レッド・グラント: ロバート・ショウ クロンスティン: ウラデク・シェイバル クリレンコ: フレッド・ハガティ ベンツ: ピーター・ベイリス ブロフェルド: アンソニー・ドーソン M: バーナード・リー Q: デスモンド・リュウェリン マネーペニー: ロイス・マクスウェル シルビア・トレンチ ユーニス・ゲイソン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
英国情報部長Mのもとに、トルコ支局長のケリム(ペドロ・アルメンダリス)から電報が届く。
それによれば、イスタンブールでソ連情報部に勤めるタチアナ・ロマノヴァ(ダニエラ・ビアンキ)という女が、ソ連の暗号解読機「レクター」を引き渡すことを条件に、イギリスに亡命を望んでいるという。
しかし、その背後には世界的な犯罪組織「スペクター」の恐るべき陰謀があった。ボンドはこれが罠だと知りつつも、タチアナと接触するためイスタンブールへと向かう。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
二作目でほぼシリーズ原型は完成
ショーン・コネリーのボンド二作目は、歴代シリーズ最高傑作の呼び声が高い『ロシアより愛をこめて』。
公開時の邦題はユナイト映画時代の水野晴郎氏が考案した『007危機一発』であることは有名だが、やはり原題直訳の方が馴染む。60年経過してもなお『琵琶湖より愛をこめて』などと業界に愛用されているくらいだ。
冒頭の銃口シーケンスは前回からだが、アヴァンタイトルの挨拶代わりのアクションは本作から。いきなりボンドが追っ手に絞殺されるオープニングには手がこんでいる。『男はつらいよ』なら夢落ちになるところ。
そしてタイトルバックのデザインは妖艶。音楽にあわせて揺れる女体にクレジットの文字が映写され、そこにライオネル・バートによるテーマ曲。
モンティ・ノーマン作曲・ジョン・バリー編曲のジェームズ・ボンドのお馴染みテーマ曲は勿論別格に良いが、マット・モンローが“From Russia with love~”と歌う本作のテーマ曲は、個別作品の曲としては最も知られる名曲と思う。
スペクターの欲張り作戦
本作の本編はベニスのチェス大会決勝戦から始まる。優勝者クロンスティン(ウラデク・シェイバル)が勝利直前にスペクターに呼び出される。クロンスティンが今回の敵大将かと思われたが、こいつはただの戦略参謀。
スペクターのボス、ブロフェルド(クレジットなし、前作に小悪党で出演のアンソニー・ドーソン)が顔もみせずに愛猫を撫でながら、このクロンスティンと、ソビエト特殊諜報部隊スメルシュの女性大佐クレッブ(ロッテ・レーニャ)に作戦実行を指示する。
スメルシュでクレッブ大佐の配下にいるタチアナ(ダニエラ・ビアンキ)を使い、ソ連の暗号解読機持ち出しを条件にイギリス亡命を望んでいるという罠を仕掛け、その護衛としてボンドを引っ張りだす。
そこに刺客を送り込み、ボンドを辱めて殺すことで『ドクター・ノオ』で痛手を受けた報復をし、また英国とソ連の関係をこじらせて、更にはソ連の暗号解読機も強奪するという、大胆な計画だ。
失敗の可能性もすべて考慮した万全なプランだとチェスのチャンピオンは胸を張る。水槽の中で戦う凶暴なランブルフィッシュを見て、二者を戦わせて疲弊したところをねらうのだと、タコの指輪をしたブロフェルドが語る。
ようやくボンド登場
そしてようやくジェームズ・ボンドが登場。
美しい女性とお楽しみの最中に呼び出されてMのオフィスに行き、ミッションを与えられ、熱い眼差しのマネーペニーと軽口を叩きふざけあい、そしてボンドが現地入り(飛んでイスタンブール)するパターンはすでに確立。
Q(デスモンド・リュウェリン)に開発したばかりの新兵器の説明を受けて手渡され、それが後半でうまい具合に使われるという愛すべきご都合主義は、本作で生まれ、長年引き継がれていく。
今回は、催涙ガスやらナイフやら、スパイ道具があれこれ仕込まれたアタッシェケースが登場。
◇
ちなみに、呼び出し前にボンドが小舟の上で乳繰り合ってた水着の女性は、前作のカジノで知り合ったシルビア・トレンチ(ユーニス・ゲイソン)だ。
今なら女性蔑視の槍玉にあがりそうな軽薄お色気キャラなのだが、ボンドガールとしてはシリーズ1作目でウルスラ・アンドレスより先に登場し、しかも本作で二作連続出演も初という、実は記録に残る女優なのだ。
◇
前作のウルスラ・アンドレスはボンドとともに敵に追われる女、本作でダニエラ・ビアンキが演じるタチアナは敵のスパイとしてボンドに近づいてくる女。
知性と肉感的な魅力は当然兼備している前提だが、この二人の女優がボンドガールなるもののデファクトスタンダードを確立したといえるように思う。
ツッコミどころはあるものの
タチアナによるハニートラップだと分かっていて嬉しそうに身を投じるボンド。仕事中に愛人とベッドにいたために爆弾から命拾いした相棒のケリム・ベイ(ペドロ・アルメンダリス)。
この時代の映画だから、みんないい女には警戒が緩む男性優位キャラに描かれている感は否めないが、それでもイアン・フレミングの原作よりは、まだまともな設定に仕立てられている。
原作どおりに映画化されていたら、ボンドはもっと仕事は隙だらけで女に甘いキャラになっているところだが、いい具合に脚色されている。
◇
原作ではソ連のスメルシュが、名のある諜報部員を辱めて殺し、汚名返上してやろうという話だったかと思うが、政治的な配慮とはいえ、そこにスペクターを絡めたのは映画的にも正解。
それにより、タチアナにも、クレッブ大佐に騙されて祖国のためと疑わず体を張った女スパイという、悲劇のヒロイン的な要素が加わったし。
まだこの時代の007シリーズには、アクロバティックなアクションも、派手なガジェットも特注のボンドカーもない。前作のように荒唐無稽な化学工場もでてこない。
あるのはコネリーのマッチョで毛むくじゃらな肉体美と、仕立ての良いスーツ、愛用のワルサーと洒脱な会話くらいだ。
◇
スペクターの計画としてはやや小粒だし、タチアナとボンドのベッドシーンが敵に盗撮されて、それがボンド凌辱死のネタになるという、ホントに007映画かと突っ込みたくなる展開もある。
でも、地に足の着いたスパイアクション作品になっているとはいえる。それが高い評価を得ている理由なのかもしれない。
オリエント急行で殺人事件
本作の絵になるカットとしては、ボンドの肩に銃身をおいてねらいを定め、ケリムが宿敵クリレンコ(フレッド・ハガティ)を狙撃する場面がある。
その前に爆弾を仕掛けられたり、ジプシーたちの集落で命をねらわれたことで反撃に出るのだが、ボンドが撃つのではなく、肩を貸すというのが、意外と絵としてはサマになる。集落では諜報部員が混じって大勢で銃撃戦という珍しい場面もある。
そしてクライマックスは、名前は出なくても原作からそれと分かるオリエント急行。
暗号解読機を持ったタチアナとボンド、そしてケリムを乗せた列車に、クレッブ大佐が送り込んだ、冒頭に出てきた刺客グラント(ロバート・ショウ)が味方になりすまして近づく。この時代ならではの、旅情あふれる列車旅の設定がよい。
ボンドの相棒男性は殺されてしまうのも、不自然なほど列車内で肌も露わにファッションショーを繰り広げるタチアナもお約束の展開。
極めつけはボンドとグラントのせまい車室対決。さっさとボンドを始末すればよかったのに、計画を自慢げに語っているうちに敵の術中にはまるグラント。
決め手は仕込みのアタッシェケース。金貨に釣られる刺客もどうかと思うが、あのせまい部屋で催涙ガス浴びたら、ボンドも無事ではいられないのでは?
グラント役のロバート・ショウ、『スティング』で敵ボスを演じた俳優だ。懐かしい。
見せ場の集中投下と噴飯もののラスト
さて、どうにかグラントを倒して終わりかと思ったら、ヘリコプターやらボートチェイスやら、終盤に豪華アクションシーンを集中投下。この辺はボンド映画らしい豪快さ。
だが、最後は随分とショボい。作戦失敗でクロンスティンはボスの眼前で毒殺される。このひと、存在感あったわりには、本編中なにもせずに抹殺だ。
◇
一方のクレッブ大佐は暗号解読機を盗んで来いと命令され、ホテルの老メイドに扮装してボンドたちの部屋に侵入。まるでコントだ。
だがタチアナが祖国ではなくボンドを選んだことで、結局盗みは失敗、ボンドにクレッブは射殺されるというハッピーエンド。
原作では、ボンドは最後にクレッブに毒塗りナイフで刺され、死にかけて終わる(映画ではそうもいかないだろうが)。その反省もあって、次作では拳銃を小型のベレッタからワルサーに替えるようMに命じられるのだ。
映画と原作は順序が異なるため、前作『ドクター・ノオ』では唐突に彼が銃を変更することになったのだろう。ともあれ、最後にベニスの海に流れるテーマ曲のダメ押しもあって、本作はシリーズ屈指の名作になった。