『シックス・センス』
The Sixth Sense
M・ナイト・シャマラン監督がいまだに自身で越えられずにいる傑作サスペンススリラー。予備知識なしで観るべし。
公開:1999 年 時間:107分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: M・ナイト・シャマラン キャスト マルコム・クロウ: ブルース・ウィリス コール・シアー: ハーレイ・ジョエル・オスメント アンナ・クロウ:オリヴィア・ウィリアムズ リン・シアー: トニ・コレット ヴィンセント・グレイ: ドニー・ウォルバーグ キラ・コリンズ: ミーシャ・バートン
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
これまで多くの子どもたちを救ってきた小児精神科医マルコム(ブルース・ウィリス)。ある夜、10年前に担当した患者ヴィンセント(ドニー・ウォルバーグ)がマルコムの自宅を襲撃し、彼を銃撃した後に自ら命を絶つ。
完治したはずのヴィンセントを救えなかったことは、マルコムの心に大きな影を落とした。
一年後、マルコムは8歳の少年コール(ハーレイ・ジョエル・オスメント)のカウンセリングを担当することに。コールは誰にも言えない秘密を抱えており、周囲に心を閉ざしていた。
二人は交流を続けるうちに心を通わせていき、ついにコールはマルコムに秘密を打ち明ける。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
未見の貴方が羨ましい
M・ナイト・シャマラン監督の名前を一躍有名にしたサスペンススリラーの傑作。
最近は観ようと思ってもなかなか配信作品になく、TSUTAYA DISCASでも生産中止でほぼDVD在庫なしの憂き目に遭っていたのだが、嬉しいことにAmazon Primeで取り上げてくれた。
この作品については、もう公開からだいぶ年月も経過しているので、今更ネタバレに神経質になる必要もないのかもしれないが、一応未見の人のために、気を使って語ろうと思う。
私にとっては、記憶を失ったらもう一度予備知識なしで観てみたい映画の常に筆頭格にあがる作品だ。未見の方がいたら、羨ましく思うくらいだ。
主人公は小児精神科医のマルコム・クロウ、演じるのはまだ若々しいブルース・ウィリス。
『ダイハード』シリーズや『12モンキーズ』、『フィフスエレメント』と作品に恵まれたが、調子にのって『アルマゲドン』なる雑な作品に出ていた頃の作品。
アクションとはおよそ無縁な本作のおかげで、ブルース・ウィリスの新たな魅力が引き出せたように思う。
精神科医と患者の少年
マルコムがフィラデルフィア市から市民栄誉賞をもらい、妻のアンナ(オリヴィア・ウィリアムズ)と祝福しているところに、怪しい男が侵入。
ブリーフ姿でバスルームにいるこの不気味な男は、かつて少年時代にマルコムの患者だったヴィンセント(ドニー・ウォルバーグ)。
彼は、マルコムの診療が不適切で治らなかったことを逆恨みし、彼に銃を向け発砲する。もう、ここまでの雰囲気がかなり不穏だ。
だが、それから一年後、画面は平和そうな住宅街に切り替わり、マルコムは新たな患者と思われる、コール少年(ハーレイ・ジョエル・オスメント)にアプローチする。
コールは母親リン・シアー(トニ・コレット)と二人暮らし、どこか内向的でおとなしい少年だ。繊細そうで眉毛がハの字の弱っちい顔立ちは、日本の子役でいえば鈴木福だな、『マルモのおきて』にしか見えん。
コール少年がハマリ役だったハーレイ・ジョエル・オスメントは、本作の人気でその後、スピルバーグの『A.I.』に主演。
この少年が不思議な能力の持ち主であり、そのせいで災難に見舞われ大変な苦労をしていることが次第に分かってくる。
こう書くと、シャマランの次作『アンブレイカブル』の悲運な男ミスター・ガラスのようだが、実際はそういう才能とも違う。これは特にネタバレ部分ともいえない気もするが、せっかくなら、少年の告白を待った方が楽しめる。
当サイト名の由来でもある
シャマラン監督は本作に限らず、永年フィラデルフィアを舞台に映画を撮り続けている。仙台にこだわる伊坂幸太郎のようなものか。
フィラデルフィアは米国独立の地であり、古都ともいえる。寺院や公共施設のみならず、一般の住居まで、古くから大事に使っているものが多い。
そのため都心部においても、独特の古びた雰囲気が残っていて、本作のようなスピリチュアルなサスペンススリラーにはうってつけだ。
この作品はシャマラン作品の中でも、特にこの町を舞台にした効果が最大に発揮されたものではないかと思う。
本作には個人的にも思い入れがある。1999年の公開当時、私はちょうど、このフィラデルフィアの町に暮らしていた。
当時はシャマラン監督の名前も知らなかったし、今ほどSNSも盛んではなかったので、ろくに前知識もなく本作を観て、鮮やかな展開に驚かされた。
◇
町の小規模な摩天楼やアパートが並ぶ街路、マルコムが夫婦で食事をとる瀟洒なレストランなど、見知った風景が多いので、つい贔屓目になってしまうが、今見ても本作は全く色褪せず面白い。
本作のおかげで「○○のシャマラン」というレッテルが貼られ、以降の監督作品にはすべてサプライズが求められたのは気の毒だが、こういう奇跡の一本を世に出してしまったのだから、しょうがない。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
コール少年が持っていた能力とは、死者の姿が見えるというもの。これを言うと周囲に化け物扱いされると恐れ、彼は人知れず悩んでいた。
そうはいっても、彼の子供部屋にずかずかと上がり込んで話しかけてくる連中をはじめ、彼の日常生活を邪魔する死者たちは相当に恐ろしい。霊感が強い人は同じような悩みを抱えているのだろうか。
ともあれ、初めは敵対視していたマルコムにやがて少年は心を開き、ついにこの秘密を打ち明ける。
「ボクを治せるのは、先生だけだ」
◇
幽霊は大勢登場してくるし、けしてコミカルに描いてはいないのだが、序盤では恐ろしく見えた死者たちに、終盤近くなると親近感を覚え始める。
マルコムが銃で撃たれてから以降、彼とはすれ違い気味の妻アンナとのツーショット。実によく考えて撮られていることは初見では気づかないが、その後に再観賞するたびに台詞やアングルなどが絶妙なことに感心させられる。
アンナ役のオリヴィア・ウィリアムズは、最近ではアンソニー・ホプキンスがオスカーを獲った『ファーザー』(2021)に出演。
◇
コール少年が自分の秘密を母のリンに語るも信じてもらえず、亡くなった祖母しか知らないはずの母との思い出話で彼女が涙するシーンも印象深い。
グロテスクな幽霊が登場するのに、感動で泣けるという不思議な場面。母親役のトニ・コレットの近作はギレルモ・デル・トロ監督の『ナイトメア・アリー』。
本作はラストに向かって一直線に進んでいく伏線回収映画であり、答えを知ったうえで見返せば細かい部分でツッコミどころがないわけではない。
だが、そんな些細なことは気にならないほど、作品全体の構成や演出はよく出来ている。トリック重視で中身が空っぽなサスペンススリラーとは一線を画す。
◇
本作のラストはネタバレとしても書くことが無粋と思われるので、あまり踏み込んだレビューにならなかったのがふがいないのだが、まあ、未見の人には言えないし、観終わった人には説明不要か。
宮藤官九郎のドラマ『俺の家の話』の最終回を観た人は、きっと本作を思い出したに違いない。