アニメ『時をかける少女』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

アニメ『時をかける少女』細田守作品一気レビュー|スタジオ地図のミライ①

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『時をかける少女』

現代風の大胆アレンジで、あの「時かけ」が細田アニメになって復活。わがまま主人公のキャラが秀逸。

公開:2006 年  時間:98分  
製作国:日本
 

スタッフ 
監督:     細田守
脚本:     奥寺佐渡子
原作:     筒井康隆
         『時をかける少女』

声優
紺野真琴:   仲里依紗
間宮千昭:   石田卓也
津田功介:   板倉光隆
芳山和子:   原沙知絵

勝手に評点:3.5
 (一見の価値はあり)

(C)「時をかける少女」製作委員会2006

あらすじ

高校2年生の紺野真琴は、学校の理科実験室に落ちていたクルミをうっかり割ってしまったことをきっかけに、時間を飛び越えて過去に戻る「タイムリープ」の力を手に入れる。

その力を使い、男友達の間宮千昭や津田功介とカラオケを好きなだけ歌ったり、野球で好プレイを連発するなど、何気ない日常を思う存分満喫する真琴。

何かあってもまた時を戻り、何度でもリセットできる。そんな楽しい毎日が続くはずだったが…。

今更レビュー(まずはネタバレなし)

優等生の呪縛から解放された

正直言うと、細田守何で今更『時かけ』を再映画化せにゃならんのだろうと思っていた。過去にドラマにも映画にもなっている。大林宣彦監督の最高傑作に挙げる人も多い。

アニメにするというのは目新しいが、それでも今どきタイムリープのネタだけで若者の共感が得られるものだろうか。だが、蓋を開けて驚く。おっさんの凝り固まった固定観念が崩れていく。

(C)「時をかける少女」製作委員会2006

高校のクラスメイト男子二名と楽しく草野球に興じる女子一名。主人公の紺野真琴は男にまじって遊んでいてもあまり違和感を抱かせないジェンダーレスなキャラ。

そこまではまだ分かる。男子二名がどちらも不良じゃないけど優等生でもない、いい感じに遊んでる風イケメン。この設定は想定外だった。

映画では原田知世を筆頭に、高柳良一尾美としのりという、およそ不良や大人の世界とは縁遠い、まじめ系三人組の印象が絶大だったから。

(C)「時をかける少女」製作委員会2006

ああ、今の映画は、ここまで現代風に、ここまで自由になれるのか。筒井康隆原作の、なんと門戸の広いことよ。

主人公の少女が学校の理科実験室でタイムリープを体験するところはさすがに共通するが、そのあとの行動は真逆に近い。

我らがアイドル原田知世は、何度も同じ日を繰り返す不思議な現象にただひとり気づいては驚き、まじめに苦しんでいった。

だが、なんと本作の主人公真琴は、「何度もリピートできるなんて最高じゃん」と、テスト勉強も料理実習の失敗もうまくこの能力を使いこなし、カラオケを時間延長なしで歌い放題するまでに濫用するのである。

(C)「時をかける少女」製作委員会2006

このあっけらかんとした能力活用には驚いた。だが、これには真琴に入れ知恵をしてくれる叔母の存在が大きい。美術館に勤めるミステリアスな叔母が、真琴の体験をタイムリープだと教えてくれるのだ。

この叔母さんが芳山和子という名前なのだから、先代の『時をかける少女』にあたることになる。大っぴらには語られないが、昔の写真とラベンダーのポプリが、それを雄弁に物語っている。

のびのび明るい三枚目キャラ

映画版の原田知世キャラは、デビュー作ということもあり、相当にガチガチな緊張感がある。それに比べると、本作の真琴のなんとノビノビと自然体であることか。

声をあてている仲里依紗のうまさもあって、キャラが生き生きとしている。ちなみに、仲里依紗は4年後に実写版『時かけ』でも主人公を演じ、共演の中尾明慶とその後結婚する。

細田守のキャラクターデザインも、見事にハマっている。アイドル映画だが、キャラクターを美少女扱いはしないという監督の発言どおり、真琴は実に三枚目キャラの女の子。

表情もすごくキラキラしている瞬間はあるが、大抵はギャグマンガのような雑な顔のパーツの描き方。男友だち二人は常にイケメンなのに、主役の彼女だけは顔が雑な扱いなのは、ユニークだ。

ああ、想えば細田守の描くキャラクターって、みんなこういう感じの線だったなあ。けして精緻な線ではないのだけれど、どこかとても親近感がある。古き良き時代の作画の匂い。

そして、そんな素朴なキャラの造形と対照的に。未来志向でデジタルな異空間の画像処理。本作でいえば、デジタル時計が時間を告げる不思議な空間の描き方が楽しい。これが、やがて『サマーウォーズ』のような独特の美しい映像に昇華するのだ。

楽しい高校生活を過ごす真琴だが、ある日、自分の腕に数字の烙印が押されていることに気づく。そしてそれが、タイムリープするたびに減っていくことも。

勝手し放題に時空をさまよってきた罰がくだることは、彼女の振る舞いからも容易に想像できるが、それがこの、タイムリープの残数と絡み合って、ドラマが起きる。

今更レビュー(ここからネタバレ)

ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。

本作がどこまで大林監督版を踏襲しているのか知らないが、主人公の女子高生と仲の良い男子二名ということは、この千昭ちあき功介の二人は、それぞれ尾美としのり高柳良一に相当するキャラなのだろうか。

ということは、未来からタイムリープでやってきた少年に該当するのは、おそらくちょっとミステリアスなキャラの功介という線が濃厚だ。

私は忘れた頃に本作を何度か見返しているが、誰がこの未来人かに、何度観ても騙されてしまう。

この、大林映画の裏をかく物語はなかなか冴えている。脚本は、本作以降、細田守監督とタッグを組んで良作を数多く生み出す奥寺佐渡子

「真琴、お前、タイムリープしてない?」

意表をついた千昭からの質問に、真琴は返答に窮する。このサプライズもいい。

(C)「時をかける少女」製作委員会2006

商店街の坂道を下りきったところにある踏切、あるいはプールの飛び込み台からの飛び蹴りポーズでのタイムリープなど、実写版ではきっと嘘くさくなってしまう絵も、自然に表現できるところはアニメの強み。

実写版とはちがう高校生の恋愛の行方も、少し甘酸っぱい感じがいい。色眼鏡で敬遠していた本作は、今では細田守監督作品の中でもお気に入りの一本になった。