『プアン 友だちと呼ばせて』
วันสุดท้าย..ก่อนบายเธอ
One for the Road
余命わずかな旧友に付き合って、元カノとの再会の旅に出る主人公。死ぬまでにやりたいことって何だろう。
公開:2022 年 時間:136分
製作国:タイ
スタッフ 監督: ナタウット・プーンピリヤ 製作: ウォン・カーウァイ キャスト ボス: トー・タナポップ ウード: アイス・ナッタラット プリム: ヴィオーレット・ウォーティア アリス: プローイ・ホーワン ヌーナー: オークベープ・チュティモン ルン: ヌン・シラパン DJ: タネート・ワラークンヌクロ タック: ラータ・ポーガーム
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
ニューヨークでバーを経営するタイ出身のボス(トー・タナポップ)は、バンコクで暮らす友人ウード(アイス・ナッタラット)から数年ぶりに電話を受ける。
ウードは白血病で余命宣告を受けており、ボスに最後の願いを聞いて欲しいと話す。バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードが元恋人たちを訪ねる旅の運転手だった。
カーステレオから流れる思い出の曲が、かつて二人が親友だった頃の記憶をよみがえらせていく。そして旅が終わりに近づいた時、ウードはボスにある秘密を打ち明ける。
レビュー(まずはネタバレなし)
死ぬまでにしたいことリスト
ウォン・カーウァイがプロデュースした作品。ポスタービジュアル的にはカーウァイの『ブエノスアイレス』(1997)っぽいから同性愛系なのか、はたまたタイトルから勝手に想像した韓国映画『友へ チング』(2001)のような男くさい世界なのか。
だが蓋を開けてみると、どちらともまるで違う。言ってみれば、サラ・ポーリー主演の『死ぬまでにしたい10のこと』(2002)の男性版か。いわゆるバケットリスト、死ぬまでにしたいことのつぶし込み。
監督は『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017)で知られる、ナタウット・プーンピリヤ。
◇
導入部分の話の運び方がいい。バンコックの夏の夜。クルマの中でスマホのアドレス帳を次々に消している青年。カーラジオからは年季の入った男性DJの説話っぽい語りとポップな曲。
舞台が替わりマンハッタンの秋。モテモテのバーテンダーがトム・クルーズばりにシェイカーを振り、女性客と一夜を過ごしているとタイから電話が入る。
それが、白血病で余命わずかな青年ウード(アイス・ナッタラット)が、疎遠になっていた旧友ボス(トー・タナポップ)にかけた電話だ。ボスはバンコクに飛び立つ。ちなみに、タイトルのプアンとはタイ語で友だちの意。
◇
化学療法も受けず、ウードがやりたいことは、元カノに再会してアドレス帳から削除すること。それだけじゃ「死ぬまでにしたいことリスト」にならないじゃん。いやいや、元カノは何人もいるのだ。
コラートの町でダンス教室を開くアリス(プローイ・ホーワン)。女優として活躍しサムットソンクラームで撮影をしているヌーナー(オークベープ・チュティモン)。チェンマイで夫と幼い娘と暮らしているルン(ヌン・シラパン)。
ミッドナイトライダーズ
タイの各地を駆けるロードムービー。ボスにクルマの運転手をさせて、元カノの住む町を巡っては、アドレス帳を削除していくウード。
クルマはBMWの2000C。60年代後期生産の2ドアクーペだ。何でこんなクラシックカーを転がしているか。これはウードの癌で亡くなった父の愛車。
そしてカーステでいつも聴いている番組「ミッドナイトライダーズ」は、ラジオ放送を録音したカセットテープ。冒頭から頻出の老齢DJこそ、ウードの父親なのである。
💿𝗣𝗟𝗔𝗬𝗟𝗜𝗦𝗧
— 映画『プアン/友だちと呼ばせて』公式 (@puan_movie) August 30, 2022
「𝐅𝐚𝐭𝐡𝐞𝐫 & 𝐒𝐨𝐧」
🔈──────●───🔊
1970年発売の #キャット・スティーヴンス の楽曲。
新たな人生に進みたい息子と父の想いが歌われている。
同じ病で亡くなったラジオDJの父とウードの関係にも重なる。#プアン友だちと呼ばせて
📎https://t.co/OBspbi8Q1Y pic.twitter.com/qAGcJGhzFD
元カノが変わるたびに、その名を貼ったカセットを入れ替えて聴く。そう、ここはUSBやらBluetooth接続じゃ、何か違うんだよな。カセットテープと古いクルマが、男の二人旅に馴染む。
死期が近づいた男が昔関係を持った女たちに次々と会いに行く話は、長瀬智也主演のクドカンのドラマ『俺の家の話』の西田敏行を思い出した(年齢こそだいぶ違うが)。ただ、次々と元カノに再会しては未練を削除していく展開にどんな着地があるのか。
DJの語りを巧みにはさむ手法は村上春樹の『風の歌を聴け』に通ずる。ウードの亡父DJの番組は、今の若者には人気がないが、中高年世代は昔よく聴いていたという設定らしい。
◇
タネート・ワラークンヌクロの落ち着いた声の語りが、どこか懐かしく温かい。最終回の放送で父が語る言葉は、ウードの胸に刺さる。
「直接会う機会はないだろうが、あなたの人生を全力で生きろ」
橋の上から父の遺骨をまき、アドレス帳から削除すると、父の運転するBMW(幻影)が満足そうにウードを見て、追い越していく。さあ、これでスマホに残るのはボスの名前のみだ。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
B面で恋をして
本作の主人公はウードなのかボスなのか。前半では若干悩ましいが、本作には折り返し地点がある。それはカセットテープと同じ構造だ。A面をB面にひっくり返すと、ウード(Aood)面からボス(Boss)面に変わる。主人公の交代だ。
ボスの薦めで、二人はパタヤに向かう。そこにはボスの母親タック(ラータ・ポーガーム)が、彼の<姉>と偽って再婚した相手の経営するホテルがある。おかげでボスも金には困らなかったが、家とは折り合いが悪かった。
バーでウードに元カノの名前を付けたカクテルを次々に振舞うボス。アリスのスポーツバッグ、ヌーナーのオスカー像っぽいトロフィ、ルンの現像していないフィルム。
再会でウードが手渡したアイテムが、付き合っていた頃の想い出とともに蘇る。カクテルとの組み合わせ方が美しい。
◇
だが、なぜこの旅にウードはわざわざ、NYにいる疎遠だったボスを巻き込んだのか。それには、かつてウードがNYに暮らしていたとき、ボスが付き合っていたバーテンダーのプリム(ヴィオーレット・ウォーティア)が関係している。
ニューヨーク・サワーの想い出
パタヤで家を飛び出したボスが、バーでプリムに出会い、「未成年にお酒は出せないわ」と窘められながらも、ニューヨークサワーを一杯作ってもらう。絵になる男女の美しい出会い方。主役交代の時だ。
いつしか愛し合うようになった二人。プリムを追いかけて、ボスはNYに留学する。そして、彼女が働くタイ料理店にはウードがおり、父のDJ放送がきっかけで親しくなる。
こうしてウードとボスは、プリムを介して知り合いになったのだ。
「ボス、お前に返さなければならないものがある。だからお前をタイに呼んだ」
それは別れてしまってから、久しく会っていないプリムのことだった。
かいつまんで言えば、NYで留学中のボスと、バーテンダー修行中のプリムは、ちょっとした(といってもそれなりに重大な)ことが原因で喧嘩別れしてしまう。
住む場所も失ったプリムに救いの手を差し伸べるのは、親切な同僚のウード。だが、こんなに魅力的な女性と同棲していて、ただの親友でいられるはずもない(初めて雪をみてはしゃぎ口を開けて上を向くプリムがタイの娘っぽくて可愛い)。
ウードはプリムにアプローチするが、彼女はまだボスを想っている。そしてボスもまた彼女への想いを引き摺っているが、それを言葉巧みに引き裂いたのがウードだった。
だから、ウードはその罪滅ぼしに、二人を会わせようとした。それが、この旅の最終目的地だったのだ。
One for the Road、最後の一杯
「ミッドナイトライダーズ」から流れる曲とDJの語り、二人それぞれの過去の元カノたちとの甘い思い出と華麗な技で生み出すカクテルとの融合。難病ものとして過度にセンチにさせる演出もなく、男二人がベタにクサい台詞を交わすこともない。この匙加減はとても心地よい。
◇
終盤、赤字続きだったボスのバーが繁盛するようになり、そこに母タックが訪れる。店を軌道に乗せてから閉める。これで文句は言わせない。そんなボスに、初めてタックは謝罪し、母子は和解する。
製作のウォン・カーウァイは撮影には殆ど口を挟まなかったそうだが、このシーンには違和感があるといい、結果、当初の閉店後の設定から営業中で混雑している設定に変更したそうだ。成程、その位の雑なやりとりの方が、この母子には合う。
最後のシーンは美しい。母の台詞からウードは亡くなったと分かる。彼がDJをまねてボスに残した録音には「化学療法を始めて、元気になってNYに行き、お前をプリムに再会させるんだ」と語っている。
ホテルをチェックアウトし、愛車に乗ってパタヤを去るウード。手には彼女の店のコースター。クルマが去ったビーチに、ボスがフレームインする。人気ない砂浜にVWのバンで、プリムがバーを開いている。
店の名前は映画のタイトル通り、「One for the Road」。最後の一杯。
こうして、何年も歳月が流れ、ようやく再開するボスとプリム。台詞は最小限、それでいい。
「いつもの、ニューヨークサワーを」
涙ぐむプリムに、出会いの時を思い出してボスが言う。
「IDはいる?」
遠くに停めたBMWから二人を見守るウードの幻。流れてくるSTAMPの” Nobody knows”。ああ、なんと甘酸っぱく気持ちの良い終わり方なのだろう。このままずっと聴いていたい。
エンドロールが終わり、曲の最後にはご丁寧にカセットテープが停まる音がする。ぜひそのシーンまで、余韻を味わってほしい。