『アイリッシュマン』
The Irishman
最新技術で若返ったデ・ニーロ、パチーノ、ジョー・ペシを起用のスコセッシ監督作品。もう説明は不要だろう。
公開:2019 年 時間:210分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: マーティン・スコセッシ 脚本: スティーヴン・ザイリアン 原作: チャールズ・ブラント 『アイリッシュマン』 キャスト フランク・シーラン:ロバート・デ・ニーロ ジミー・ホッファ: アル・パチーノ ラッセル・バファリーノ: ジョー・ペシ アンジェロ: ハーヴェイ・カイテル トニー: ドメニク・ランバルドッツィ ジョー: セバスティアン・マニスカルコ スキニー・レイザー:ボビー・カナヴェイル ビル・バファリーノ: レイ・ロマーノ ペギー・シーラン: アンナ・パキン チャッキー: ジェシー・プレモンス
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
裏社会のボスに長年仕えていた元軍人の殺し屋・フランク(ロバート・デ・ニーロ)。第二次世界大戦後のアメリカで、数々の悪人たちや凶悪組織と関わりを持ってきた彼が、犯罪と暴力にまみれた自らの半生を振り返る。
そんな中、現在も未解決となっている労働組合指導者ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)の失踪事件にまつわる秘密が明かされる。
今更レビュー(ネタバレあり)
夢のような組み合わせ
<アイリッシュマン>とは、伝説的マフィアのラッセル・バッファリーノに仕えた殺し屋でありアメリカの労働組合の役員だったフランク・シーランの通称だ。1975年に失踪した全米トラック運転組合委員長ジミー・ホッファをはじめ、多くの殺人事件に関与したとされている。
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本作は、主人公のフランク・シーランにロバート・デ・ニーロ、ジミー・ホッファにアル・パチーノ、そしてラッセル・バッファリーノにジョー・ペシという夢のような競演の作品だ。
しかもメガホンを取るのはマーティン・スコセッシ監督。長年の悲願であったというこのアメリカのギャング史の映画化。
『タクシードライバー』、『レイジング・ブル』などスコセッシ監督と数々の名作を生んできたデ・ニーロの久々の主演、更にジョー・ペシとくれば、『カジノ』(1995)以来24年ぶりのトリオ復活。
それだけでも胸が一杯になっているのに、なんとマーティン・スコセッシ監督とは初タッグだというアル・パチーノまで加わるとは。すごいことになっている。
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本作を観るためだけでも、NETFLIXに入る意味はある(その時は、ついでに『ROMA/ローマ』(アルフォンソ・キュアロン監督)もお忘れなく)。
最先端の若返りテクノロジーを見よ
本作は210分の長尺だが、製作中止の危機に陥ったところをNETFLIXが名乗りを上げたことで、世に出ることができた。当初の配給元の撤退は膨れ上がった製作費が原因だが、長尺や豪華キャストのギャラのせいではない。若返りテクノロジーのデジタル加工の作業費なのだ。
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映画は、冒頭に登場する老人ホームに暮らすフランク(ロバート・デ・ニーロ)が1975年を回想する。
その中では、フランクがマフィアのボスであるラッセル(ジョー・ペシ)と妻たちをクルマに乗せて、何日か費やしてビルの娘の結婚式に向かっている。ビル(レイ・ロマーノ)とは組合の顧問弁護士でラッセルの従兄弟だ。
そしてこの旅の途中で、かつてフランクとラッセルが初めて顔を合わせたガソリンスタンドに偶然立ち寄る。そこから、1950年代の出会いへと更に回想が遡る。メインは1950年代からの物語であり、それが1975年にたどり着くところで、クライマックスを迎える。
現代を含めて三つの時代を同じ俳優で描いているわけだが、一般的には『ベンジャミン・バトン』のブラピや『海賊とよばれた男』の岡田准一のように、老けメイクで見せるところを、本作では若返らせている。
だが、『ジェミニマン』のウィル・スミスのように、顔にゴテゴテ貼り付けてマーキングして演技させられる類の映画ではない。その難題を、この画期的なテクノロジーが見事に解決してくれた。
正直、しわのない名優たちにまったく違和感がない訳でもないし、今後若返り俳優が多くの作品で登場し始めるのを素直に歓迎はできないが、この豪華メンバーに関しては、若き日に戻った演技が観られることを素直に喜ぼう。
頼まれればペンキ塗り
“I heard you paint houses.” (あんた、ペンキ塗りをしてくれるんだってな)
フランク・シーランの回顧録のタイトルでもあるこの台詞はのどかな会話のようだが、「殺しを請け負うそうだな」という物騒なマフィアの隠語なのだ。
牛の塊肉を横流しして私腹をこやしていたトラック運転手のフランク(ロバート・デ・ニーロ)は、トラック運転手組合の弁護士ビルにラッセル(ジョー・ペシ)を紹介され、さらに組合委員長のジミー・ホッファ(アル・パチーノ)とも付き合いが始まる。
フランクは次第に、ラッセルやジミー・ホッファのために数々の<ペンキ塗り>を請け負うようになる。
新品の拳銃を使っては、仕事のあとにフィラデルフィアのスクールキル川に橋から放り投げるフランクの姿が、ちょっと滑稽で、どこかビートたけしっぽい。そういえば、本作の登場人物の殆どが死んでしまう展開も、『アウトレイジ』との類似性を感じてしまう。
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「50~60年代のジミー・ホッファといえば、エルヴィスより人気があり大統領と同じくらい有名だった」
と、フランクは語る。大勢のトラック運転手たちを前に熱弁をふるうジミー。大物の彼に忌憚のない意見をいえるのはフランクくらいだからか、彼はジミーの信頼を得る。
デ・ニーロとパチーノ
ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノの共演作は何作かあるが、コッポラ監督の『ゴッドファーザーPART II』(1974)では生きている時代が異なるのでツーショットなし、『ヒート』(1995、マイケル・マン監督)でも敵対する刑事と犯罪者なので、同じカットで顔が並ぶことはなかった。
二人が仲良く並ぶ作品は、『ボーダー』(2008、ジョン・アヴネット監督)のような黒歴史になりそうで不吉な予感がしたが、本作はそこをクリア。でも、やはりこのイタリア系二大名優は、同志より敵対関係の方が、映画的には緊張感があってよい気がした。
実は本作で私が一番シビレたのは、ラッセル役のいぶし銀ジョー・ペシ、普段は腰の低そうな初老の紳士だが、睨みが効いている。半引退状態だったジョー・ペシをこの役に起用できたのは大きい。
一番の見せ場があっけない
ここからはネタバレになる。フランクはジミー・ホッファと親交を深めていくが、ジミーの言動が次第に目に余るようになり、ついにラッセルの指示でフランクはジミーにペンキを塗ることに。
このシーンは実に手際のよい仕事ぶりなのだが、逆に言えば、あまりにあっさりと片付けている。いわば210分の作品のなかで一番の見せ場なのに、こんなにもあっけなく殺してよいのか。もっと焦らしたり、心情を映し出してほしい気がした。
その代わりといっては何だが、フランクの末娘ペギー(アンナ・パキン)の父へのシビアな眼差しは、大いに心情を伝えてくる。
ペギーは幼い頃に、彼女を小突いた食料品店主をフランクが半殺しにしたのを目の当たりにしている。それ以来、彼女は父親も同類の匂いのするラッセルも敬遠し、ジミーに懐いていた。
だからペギーは、ジミー失踪の報道を前にしたフランクの反応から、父親の犯行を見抜いたのだ。そして彼女は、フランクのもとを去っていく。
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本作はフィクションであれば、もっと盛り上げようはあろうが、フランク・シーランやジミー・ホッファ、ラッセル・バファリーノに関する実際の出来事を調べてみると、ほぼそれに沿った内容であることが分かる。
アンナ・パキン以外、女優陣の目立った活躍がないのは寂しいが、その分メインの男性三人の活躍は光っている。NETFLIXユーザーなら、観ない手はない。