『ジェントルメン』
The Gentlemen
緻密な脚本の群像劇クライム・サスペンス。ガイ・リッチー監督の原点回帰と言われれば、嘘ではないが、ちょっと疲れる。
公開:2021 年 時間:113分
製作国:イギリス
スタッフ
監督・脚本: ガイ・リッチー
キャスト
ミッキー・ピアソン:マシュー・マコノヒー
レイモンド・スミス: チャーリー・ハナム
ドライ・アイ: ヘンリー・ゴールディング
ロザリンド・ピアソン:
ミシェル・ドッカリー
マシュー・バーガー:
ジェレミー・ストロング
コーチ: コリン・ファレル
フレッチャー: ヒュー・グラント
ビッグ・デイヴ: エディ・マーサン
プレスフィールド卿:サミュエル・ウェスト
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
イギリス・ロンドンの暗黒街に、一代で大麻王国を築き上げたマリファナ・キングのミッキー(マシュー・マコノヒー)が、総額500億円にも相当するといわれる大麻ビジネスのすべてを売却して引退するという噂が駆け巡った。
その噂を耳にした強欲なユダヤ人大富豪、ゴシップ紙の編集長、ゲスな私立探偵、チャイニーズ・マフィア、ロシアン・マフィア、下町のチーマーといったワルたちが一気に動き出す。
莫大な利権をめぐり、紳士の顔をした彼らによる、裏の裏をかくスリリングな駆け引きが展開する。
レビュー(まずはネタバレなし)
ガイ・リッチーが戻ってきた
『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)や『スナッチ』(2000)でブイブイ言わせてた頃のガイ・リッチー監督が久しぶりに戻ってきた感じはある。
緻密な脚本で時系列を行ったり来たりの群像劇クライム・サスペンス。あのガイ・リッチーの作風が大好きな人、あるいは初めて体験する人には、結構楽しめるかもしれない。
個人的には、あまり思い入れはない。というか、あれから20年をかけた円熟味をどこかに見せてほしかった気はする。この辺は、好みが分かれるところだろう。
◇
脚本を良く練ってきたのは分かるんだけれど、正直、目から鱗のサプライズを期待するとはずすことになるだろうし、かといって脚本以外で映画的な盛り上がりがどこかと問われると、ちょっと返答に窮する。
どの場面もほんのり面白く、それがチマチマと連なり合って最後まで畳み掛ける構造だからだろう。
マリファナ王と怪しい面々
若い頃に米国からオクスフォード大に留学した主人公ミッキーは、そこで上流階級の子息たちに大麻を売るビジネスを軌道に載せ、いつしか大麻の取引で巨万の富を稼ぐ資産家に。
だが、そろそろビジネスを売って引退をと考え始めたところに、何人もの怪しい連中が近づいてくる。
◇
ユダヤ系米国人の大富豪マシュー・バーガー(ジェレミー・ストロング)、中国系マフィアのドライ・アイ(ヘンリー・ゴールディング)、ミッキーに恨みを持つゴシップ紙の編集長デイヴ(エディ・マーサン)、その雇われ探偵のフレッチャー(ヒュー・グラント)。
ミッキーの味方は、頼りになる右腕のレイモンド・スミス(チャーリー・ハナム)、愛する妻のロザリンド(ミシェル・ドッカリー)、そして懇意にしているプレスフィールド卿(サミュエル・ウェスト)。
また、ミッキーの麻薬プラントを襲撃したラップ好きの若者たちの指導者コーチ(コリン・ファレル)は、ミッキーからの報復を恐れ、彼に平身低頭お詫びして仕事を手伝っている。
キャスティングについて
ざっと並べただけでも、キャスティングは結構豪華で魅力的だ。
主人公のミッキーにマシュー・マコノヒー。大きく体重も増減させてその役になりきるタイプの俳優だ。ノーラン監督の『インターステラー』では正義感と愛情あふれる父親だったけど、今回はロンドンのマリファナ王を、ちゃんとそれっぽく見せる。
◇
頼れる相棒のレイを演じるのはチャーリー・ハナム。ギレルモ・デル・トロの『パシフィック・リム』が代表作だろうか。私はリメイク版の『パピヨン』の印象が強い。語り部である探偵フレッチャーの話を、映画ではずっと聞かされている印象が強く、なにげに出番は多い。
◇
チャイニーズ・マフィアのドライ・アイを演じたヘンリー・ゴールディングは、『クレイジー・リッチ』で有名に。『ラスト・クリスマス』の好青年が印象的だ。マレーシア系の顔立ちだが、本作では中国人、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』では主人公の忍者を演じるなど、守備範囲が広い。
意外な起用だったのは、ミッキーを相手に脚本を売りつけようとする私立探偵のフレッチャーを演じたヒュー・グラント。そして、教え子たちの悪行の責任をとる伝説のコーチ役のコリン・ファレル。
この二人の役は、無精ひげの薄汚い格好で、とてもひと昔前に彼らが何作も演じていた、身綺麗でカッコいい役柄とはかけ離れた配役。
まあ、何歳になっても、そんな二枚目役ばかり続けられたら、演じる方も観る方も飽きてしまうので、これはこれでとてもいい。それぞれ味のある演技だし。
大富豪マシュー・バーガー(ジェレミー・ストロング)は『シカゴ7裁判』のヒッピー、プレスフィールド卿(サミュエル・ウェスト)は『ハワーズ・エンド』の不遇な紳士レナードの役が思い出される。
あとは、ほとんど紅一点のミッキーの妻ロザリンドのミシェル・ドッカリーか。『ベロニカとの記憶』で主人公の老人の娘役で出ていたのは覚えているが、本作のキャラの個性の強さの比ではない。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
ネタバレというよりダメ出し
さて、緻密な脚本をここで文字数を費やして語ることはしないが、そのほとんどは、本作の語り部となっているフレッチャーがこれまでに集めたネタで書いたという、シナリオを紹介することで成り立っている。
このスタイルは若干古臭さも感じるし、もどかしさもある。何より、どこまで真実が語られているのかも分からないし、あまり好きではない。
何より、前半が説明的でもたつき過ぎではないか。冒頭のミッキーがバーで何者かに撃たれたシーンも、本人の死体を写さず血しぶきだけのカットでは、死んでないのがミエミエだ。
いきなりフレッチャーが押しかけてきて、映画のシナリオの話を延々と始めるのも、強引すぎて付き合いきれない。
群像劇としてあれこれ語りたいのは分かるけれど、個々の登場人物が織りなすドラマはちょっと弱すぎるのではないかと思う。
望んでいたのは、この路線ではない
パーティで握手を求めて公衆の面前でミッキーに無視されたことを編集長デイヴが根に持っていることも、ミッキーがあれだけの麻薬ビジネスを急に売ろうと考えることも、あまり説得力がない(コメディだからいいのか?)。
結局個人的に面白く見られたのは、ドライ・アイがからむ活劇的な場面と、コーチと教え子たちが活躍するラッパー強盗団のエピソードくらいだ。
『スナッチ』を観て喜んでいた頃の私だったら、本作のラスト、ミラマックスの本社に行ってフレッチャーが脚本を売り込み、そしてその帰りに拾ったロンドン・タクシーをレイが運転していて拉致される場面にも興奮できたかもしれない。
衰えたのは、作り手か観る側、どちらの感性か。
それにしても、ガイ・リッチー監督が、『シャーロック・ホームズ』から『コードネームU.N.C.L.E.』 そして実写版『アラジン』を経て、この作風に戻ってくるとは、ちょっと予想外。えーいっ、次回作に期待だ。