『マトリックス レボリューションズ』
The Matrix Revolutions
ついに三部作の完結編。だがこの終わり方でみんな満足できたのか。その不完全燃焼感が、時を超えて続編に繋がったのかも。
公開:2003 年 時間:129分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督・脚本: ラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹 キャスト ネオ: キアヌ・リーブス モーフィアス: ローレンス・フィッシュバーン トリニティ: キャリー=アン・モス エージェント・スミス: ヒューゴ・ウィーヴィング オラクル: メアリー・アリス ナイオビ:ジェイダ・ピンケット=スミス リンク: ハロルド・ペリノー・ジュニア パーセフォニー: モニカ・ベルッチ メロヴィンジアン: ランベール・ウィルソン ロック司令官: ハリー・レニックス ハーマン評議員: アンソニー・ザーブ ジー: ノーナ・ゲイ アーキテクト:ヘルムート・バカイティス セラフ: コリン・チョウ ベイン: イアン・ブリス ミフネ: ナサニエル・リーズ ローランド: デヴィッド・ロバーツ トレインマン: ブルース・スペンス キッド: クレイトン・ワトソン
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
ソースに達して精神と身体が分離した状態になったネオ(キアヌ・リーブス)は、メロヴィンジアンの忠実な部下であるトレインマンが支配する空間に閉じ込められていた。
だが、モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)とトリニティ(キャリー=アン・モス)がオラクルの助言に従ってアジトに乗り込み、ネオを解放させることに成功する。
センチネルの総攻撃が迫るザイオンを救うため、一行は急いでザイオンに戻らなければならないが、そんな中、ネオはひとり機械の街(マシン・シティー)に向かうことを決意する。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
前作を上回る部分はどこだ
いよいよ三部作の完結編である。前作の『マトリックス リローデッド』では、ストーリーは難解だったものの、大量発生するエージェント・スミス(ヒューゴ・ウィーヴィング)や、ネオやトリニティらのド派手なアクションが、一応20年近く経っても記憶の片隅に残っていた。
だが、この作品は公開時に観た記憶はあっても、何も印象に残っていない。今回の総復習で、その理由がわかった。前二作を超えるものが、何もないのだ(個人の感想です)。
◇
最大の失望は、アクションに関して、サプライズがなかったことだ。もうパレット・タイムにも見慣れてしまったというのは贅沢な悩みだが、それでも前作は一作目を超える驚きのアクションを見せてくれた。
本作だって、一般的な作品に比べればレベルは高いのだろうが、残念ながら、どれもこれもどこかで見たようなものばかり。マトリックスの世界に何者かが手を加えると、既視感のように同じ事象が現れるという特性が過去作で紹介されたが(黒猫が横切るやつだ)、本作にも違う意味で既視感が目立つ。
◇
オラクルの用心棒セラフ(コリン・チョウ)のカンフーや、数少ないがモーフィアスやトリニティのアクションも良かったのだが、前作を超えるものではない。
何より、ハイライトであるネオとエージェント・スミスとの戦いが(大勢でてきて見た目は圧巻だが)、前作での決闘シーンの衝撃にはとても敵わないのが残念だ。
これはウォシャウスキー監督の狙い通り?
しかも、これはラナ&リリー・ウォシャウスキー姉妹の狙った通りなのかもしれないが、本作ではパレット・タイムによるワイヤーアクションよりも、宇宙船の乗組員やザイオンの兵士たちとセンチネルとの戦闘シーンに重点が置かれてしまっている。これはいけない。
宇宙船の乗組員の中で、ベイン(イアン・ブリス)にスミスが憑依していることによるサスペンス要素や、巨大なパワード・スーツに乗ったミフネ(ナサニエル・リーズ)が単身で抗戦するロボットバトル、評議会での内紛、どれも『エイリアン』や『スターウォーズ』の連作でお馴染みのものばかり。
だが、『マトリックス』シリーズに求めるものは、これではないのだ。
センチネルのタコのような造形だって、あれだけ『スイミー』の絵本みたいに大量にうごめく姿はさすがに印象に残るが、単体の姿は没個性、『スパイダーマン』のドクターオクトパスなら、一人でももっと目立っている。
やはり、敵には人格が感じられないとつまらないのだ。あれなら、ナウシカの王蟲の方が断然キャラが立っている。これで盲目になるのがネオでなくオラクルだったら、完全にナウシカのパクリになってしまうところだ。
前後編となる『マトリックス リローデッド』からのキャラも活かしきれていない。
メロヴィンジアン(ランベール・ウィルソン)とパーセフォニー(モニカ・ベルッチ)の夫妻はまるでカメオ出演程度の雑な扱いだし、ロック司令官(ハリー・レニックス)は命がけで生還した船長たちに、駄目出しばかりの無能指揮官ぶり。
いくら女性船長のナイオビ(ジェイダ・ピンケット=スミス)が活躍しても、モーフィアスを振ってこの男と付き合っているかと思うと、共感しにくい。
◇
アーキテクト(ヘルムート・バカイティス)は前作では創造主のようなラスボス感だったのに、今回はエピローグにちょっと顔出すだけじゃないか。前作の勿体付けた感じが空回りする。
新キャラのトレインマン(ブルース・スペンス)も、前作のザ・ツインズ並みに活躍するかと思ったのに肩すかし。今回ちょっとは見応えがあったのは、ミフネとキッド(クレイトン・ワトソン)の師弟愛くらいかな。
ストーリーは難解というより回収作業
アクションに独自性がないうえに、ストーリーについても、前回思い切り広げた風呂敷を回収する作業に入るしかないので、単体の作品としては見せ場を作りにくい。
ネオが目指しているのは、マシン・シティの支配者であるデウス・エクス・マキナと対面し、自分がエージェント・スミスを倒すから、ザイオン侵攻を止めてくれということだ。自分の命がどうなろうと構わない。これがネオの選択。
前作では、ザイオンの町全体より、愛するトリニティの生命を選んだネオだが、本作ではザイオンの町を守ろうとする。そして皮肉にも、トリニティは彼と共にマシン・シティを目指し、途中で死んでしまう。
◇
最後の最後まで、キリスト教の影響があちこちに感じられる映画だったが、一生懸命にストーリーについていこうとした前作とは異なり、今回はもうそこまで探求する気になれない。
意外性があって面白かったのは、オラクルまでもがエージェント・スミスに取り込まれてしまったこと。そして、それすらも、のちにネオがスミスを倒すためにオラクルがとった策略だったことくらいだ。
なお、オラクルを演じていたグロリア・フォスターが亡くなってしまったので、本作のみメアリー・アリスに配役が変わっている。
始まりがあるものは、終わりがある
無敵と思われたエージェント・スミスが、自分の意思に反してオラクルの台詞を口にするようになる。そして、ネオさえも取り込んでしまったかのように見えて、スミスはすぐにその身体を崩壊させてしまう。
全てを上書きして増殖していくエグザイルのプログラムだったエージェント・スミスが、自分の中にオラクルというトロイの木馬が仕掛けられていたことに気が付かなかったのだ。
そこを糸口に、ネオが反撃に成功したということだろうか。死んだエージェント・スミスがオラクルの姿に戻っているシーンは、画像が暗くて印象が弱く、見過ごしそうだった。
◇
その点では、人々の為に犠牲になったネオの最期もまた、シーンとしては派手だが、ネオの死に様という意味ではとても地味だ。ネオのおかげで戦争が終わったと人々は歓喜するが、三部作の完結編にしては、あまりにひっそりと主人公が死んでいく。
本作は、せめて『マトリックス リローデッド』と合わせて3時間くらいの作品にまとめていれば、意外と一作目を凌ぐ作品になっていた可能性はあると思う。これを水増しして二本に分けたことを商売上手といいたくはない。
久々の新作『マトリックス レザレクションズ』を前に気持ちを盛り上げるつもりが、評点に関しては三部作で右肩下がりのトレンドになってしまった。
だが、これだけ独創的な世界観を造り上げたシリーズだ。新作が起死回生の一打になってくれることを切に祈っている。次こそネオの台詞のように、「お前は正しかった。これは必然だ」と言わせてほしい。
マトリックス
The Matrix (1999)
マトリックス リローデッド
The Matrix Reloaded(2003)
マトリックス レボリューションズ
The Matrix Revolutions(2003)