『くれなずめ』
高校時代からつるんでいた6人が友人の披露宴で久しぶりに再会してバカ騒ぎ。だが、次第に不思議な展開に。忘れていたいことって何だ。
公開:2021 年 時間:96分
製作国:日本
スタッフ 監督・脚本: 松居大悟 キャスト 吉尾和希: 成田凌 藤田欽一: 高良健吾 明石哲也: 若葉竜也 曽川拓: 浜野謙太 田島大成: 藤原季節 水島勇作: 目次立樹 ミキエ: 前田敦子 松岡: 城田優 愛: 内田理央 弘美: 飯豊まりえ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
高校時代に帰宅部でつるんでいた6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集まった。
恥ずかしい余興を披露した後、彼らは披露宴と二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、高校時代の思い出を振り返る。
自分たちは今も友だちで、これからもずっとその関係は変わらないと信じる彼らだったが……。
レビュー(まずはネタバレなし)
仲良し帰宅部6人組
衝撃的な映画だった。いい意味ではない。終盤になると唖然としてしまった。一晩経って少し落ち着いたので、なるべく冷静にレビューしてみたい。
◇
本作は、今はみな社会人になった男たち6人の物語だ。ある者は結婚し、ある者は夢を追いかけ、ある者は地元に残り、それぞれ違う人生を歩んでいるが、高校時代はみな帰宅部で、一緒になって馬鹿をやっていた仲間同士。
その6人が、友人の結婚披露宴のために久しぶりに再会し、かつて高校の文化祭でも披露した、赤フン姿で歌って踊る余興をやることになるのだ。
◇
メンバーは、優柔不断だが心優しい吉尾和希(成田凌)、今は劇団を主宰する藤田欽一(高良健吾)とその役者の明石哲也(若葉竜也)、既婚者となったソースこと曽川拓(浜野謙太)、後輩で会社員の田島大成(藤原季節)、唯一地元に残ってネジ工場で働く水島勇作(目次立樹)。
懐かしいバカ騒ぎのノリ
冒頭、この6人が前日に披露宴会場での段取りを確認し、そのあとカラオケでバカ騒ぎして盛り上がる姿をそれぞれワンカットで延々と撮る。
これは、ダラダラと長いといってしまえば身も蓋もないが、彼らの仲の良さを伝え、キャラ紹介も兼ねるという意味では、とても有効だ。
いたずらに時間だけが浪費される中、惰性で飲んで騒いで、でもこういうノリも懐かしいなあ、と感慨にふけるには丁度よい。
カラオケボックスから男子トイレに行き、そこで仲間と会話する流れまでノーカットで繋ぐので、まるで自分もその場に参加しているような気になる。コロナ禍で久しく忘れている感覚だ。
◇
このノリが最後まで続いたらどうしようかと思ったが、すぐに大事なシーンが入る。
以下のシーンは映画予告でも流れたし、公式サイトのイントロにもわりとはっきり開示されている部分なので、ネタバレとはせずに書いてしまいますが、未見の方で知りたくない方は、ご注意願います。
もしかして、ヘイヘイヘイ
吉尾がカラオケボックスで、
「ずっと気になってんだけど、もしかして俺って、5年前に死ん……」
最後の方は仲間がわざとかぶせる「ヘイ!ヘイ!ヘイ!」の声にかき消されてしまうが、吉尾がすでに死んでいることは、もう序盤で明かされる。
ここまででそれらしい伏線は、披露宴会場のスタッフ(飯豊まりえ)が人数を5人と思うくらいか。
ただ、誰もがみな、そのことに触れないように、無理に陽気になって過ごしているように思える。実際死んでいるという事実よりも、どう成仏させてあげられるかに、話の比重が置かれているようだ。
披露宴当日、みんな礼服を着て会場前にいるのだが、なぜか手には引き出物の大きな紙袋。え、もう披露宴終わってるじゃん。
そう、どうやら、彼らの余興はみんなをドン引きさせ、大失敗に終わったのだ。赤フンの余興、見せてくれないのか。
2次会までまだ3時間もあり、時間を潰せる店もなく、どうしようかと並んで歩きながら、仲間がそれぞれに、学生時代の吉尾との懐かしい記憶を思い出す。本作は、そういう不思議な構造の映画なのだ。
強打者揃いなのにさ
仲間同士のバカ騒ぎ映画が途中から変異し、亡き友との思い出のフラッシュバックと、その亡霊と談笑している現在の繰り返しというドラマになっていく。
高校時代のエピソードはいずれも面白く、だんだん作品への期待値は上がっていったのだが、終盤に向けての失速感は否めず、話がまとめ切れずに終わってしまったように感じる。
◇
大きな失望のひとつは、6人の役者が活かしきれていないことだ。それぞれのキャラクターの描き分けはできているのだが、これだけ人気と実力を兼ね備えた俳優陣を揃えたのに、まるで心に残らないのはなぜだ。
一人で主役が張れる高良健吾と成田凌、絶賛躍進中の若葉竜也と藤原季節、これだけ強打者揃いなのに打線はつながらない。みんな均等に扱い過ぎて、だれも目立たなくなってしまった。
むしろ、回想シーンで訃報に泣き崩れる性格俳優の浜野謙太や、『アルプススタンドのはしの方』の熱血教師を思い出す目次立樹の味のある演技が印象的。
◇
いや、もっといえば、本作でインパクト強くおいしい役だったのは、高校カーストの上位、文化祭の華のソーラン節を踊った松岡の城田優(ビールの話、最高!)と、「死んでたら、偉いのかよ!」と吉尾に食ってかかる、元同級生ミキエの前田敦子だろう。
この二人に比べると、メイン6人の存在感は希薄だ。今泉力哉の傑作『愛がなんだ』や『街の上で』での成田凌と若葉竜也が再共演しているというのに、なんとも勿体ない。
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あと、他の人には気にならないのかもしれないが、ロケ地があまりに見栄えしない。シーンごとに場所が変わるのならまだしも、本作は披露宴会場から二次会の場所まで6人がタラタラ歩いているのがメイン。
それなりに絵的に映えるところで撮ればいいのに、高速道路の高架下や、ラブホが立ち並ぶエリアにある遊歩道(錦糸町かな)など、好んで殺風景なロケ地を選んでいるのはなぜだ。時間潰しの店が見つからない辺鄙な場所という設定だからか。
レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意願います。
それが答えか?
披露宴でしか見られないと思っていた赤フンの余興を、二次会でようやく見ることができた。赤フンで歌って踊る、ウルフルズの『それが答えだ!』って、どれだか言わねえじゃん、などとお馴染みのツッコミが劇中でも入る。
余興としては楽しいが、たしかに披露宴ならちょっと引くかも。若葉竜也は、『あの頃。』でハロプロの応援で踊ってた方がキレが良い気が。
以下、ネタバレと言うより完全に私見なのであるが、私は最後の回想シーンの次に、青みがかったフィルターの映像になったら、もう吉尾が消えているというシーンあたりから、理解が追い付かなくなった。
いや、吉尾がいなくなる事自体は分かる。他の人間になりすまして彼が再登場するのもいい。でも、みんなで作り物感ありありの心臓をそれぞれ摘出し、手に持ち出すシーンから、まったく意味不明になってしまったよ。
この小劇場の舞台のような演出は、劇団ゴジゲンの松居大悟監督だから当然得意なのだろうが、序盤から匂わせてくれればまだ気持ちの整理ができたものの、終盤でこれが初めて出てくるのはつらい。
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吉尾は自分が死んだことを認識しているのか、最後に成仏できるのか、などと常識のものさしで考えてしまう柔軟性に欠けた私の理解力では追随できない。
あの、マゼンタとイエローのフィルターがかかったお花畑のような世界は何だ。アメイジンググレイスの曲とともに、『バッサ、バッサ、バッサ。不死鳥、またの名は、ガルーダ』と空を飛んでいく吉尾。それじゃまるで<笑い飯>のコントのパクリじゃないか。
映画は混乱の極みだが、最後になって、ようやく視界がひらけて広大な風景が出てくる。スカイツリーが見えるから、隅田川か、もしかして荒川の河川敷? まさか『くれなずめ』だから、金八先生にひっかけたロケ地にしたのか。
それが答えか? この映画は、私と違って混乱を気持ちよく受け止められる人なら、楽しめるのかも。