映画『2046』考察・ネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『2046』ウォン・カーウァイ60’s一気通貫③

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はじめに

懐かしのウォン・カーウァイ1960年代シリーズの三作を一気通貫にレビュー。近年では一部デジタルリマスター版が上映される等、嬉しい動向もありました。

数日前から、陳浩基の傑作華文ミステリー『13・67』を読み直していて、そういえばウォン・カーウァイが映画化権を取得したんだったなあ、と思ったばかり。

そして偶然にも今週NETFLIXで彼の監督した三作品のレストア版が配信開始というので、一気に見入ってしまいました。すっかり香港60‘sムード一色に染まった一週間です。

01 『欲望の翼』 (1990)
02 『花様年華』 (2000)
03 『2046』 (2004)

『2046』 

ウォン・カーウァイ監督の作品がレストア版で復活。トニー・レオンに溺れるチャン・ツィ・イーが切ない。木村拓哉も日本代表で健闘するが、難解なので前作から観たい。1960年代シリーズの三作を一気通貫にレビュー。

公開:2004 年  時間:129分  
製作国:香港
  

スタッフ 
監督:     ウォン・カーウァイ
撮影:   クリストファー・ドイル

キャスト
チャウ・モウワン: トニー・レオン
バイ・リン:   チャン・ツィイー
ワン・ジンウェン: フェイ・ウォン
タク:          木村拓哉
スー・リーチェン:   コン・リー
ルル/ミミ:    カリーナ・ラウ
ピン:       スー・ピンラン

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

あらすじ

1967年の香港。作家のチャウ・モウワン(トニー・レオン)はホテルで暮らしている。

ホテルのオーナーの娘ワン・ジンウェン(フェイ・ウォン)は日本から来た会社員のタク(木村拓哉)と恋に落ちるが、父親に交際を反対される。

やがて帰国するタク。文通もままならない二人に、チャウはタクの手紙を代わりに受け取ろうと申し出る。

言葉も通じず遠く国を隔てられた恋人同士にインスパイアされて、チャウは近未来小説を書き始める。

一気通貫レビュー(ネタバレあり)

ウォン・カーウァイ60’sシリーズ最終走者

前作『花様年華』そして前々作『欲望の翼』から観てきた者には、馴染みのアイテムが揃っている。

チャウ・モウワン(トニー・レオン)という、小説を書いている男。彼には思い出深い、2046号室という部屋番号。

過去に因縁のあった、スー・リーチェン(コン・リー)という名の女、そして、ルル、今はミミという名のダンサー。

冒頭のシーンで女(フェイ・ウォン)木の穴のようなオブジェに口をつけて秘密を語っているようにみえるのも、前作からの踏襲になる。もっとも、かつて秘密を穴に封じ込めたのは、チャウ本人であったけれど。

本作では、1960年代の香港と、チャウが執筆する『2047』という未来小説が交錯するスタイルを取っている。

2046とは、失くした記憶をみつけるために人々が向かう場所そこでは何も変わらないから。2046は未来の年号ではなく、思い出の部屋番号である。

未来の香港を走りぬける列車やアンドロイドの女性たちなど、それなりに凝った映像ではあるが、ここまで大事に育ててきた60年代香港の世界観と一緒にすると、あまり相性はよくない印象を受ける。

つまりCGとして見た時にはチープさがあり、それと組み合わせるとせっかくの60年代まで少し完成度が損なわれたように錯覚してしまう。

<何を演ってもキムタク>ではない

日本での本作公開時には、やはり木村拓哉が相当クローズアップされたと記憶する。確かに重要な役だ、何せ『2047』という劇中小説の主役なのだから。

それに、本作の演技に関しては、<何を演ってもキムタク>ではない、日本の作品ではみられないものがあった。場の特別な空気とウォン・カーウァイの演出が、それを引きだしたのだろう。

ただ、正直言って、なかなか分かりにくい役ではあった。小説の主人公はトニー・レオンのままで良かったのではないか。事務所のゴリ押しで出演シーンを増やしたとも聞いたが、さすがにこの役そのものだったりはしないよな。

私としては、劇中劇ではない本来の役、日本から来たタクという青年が魅力的だったので、そちらの登場シーンを膨らませてほしかった。

チャウを取り巻く四人の女性たち

本作には、チャウを取り巻く四人の女性が出演する。

かつて愛した女と同じ名前の賭場の女スー・リーチェン(コン・リー)は、チャウと愛を交わしながらも別れを選ぶ。

彼との記憶をなくしているダンサーのミミ(カリーナ・ラウ)は、死んだ婚約者との思い出を抱き、刺殺される。

滞在するホテルのオーナーの娘で、タクと付き合っているワン・ジンウェン(フェイ・ウォン)は、チャウの執筆を手伝う。

そして2046号室に住み、彼を熱愛するようになる娼婦バイ・リン(チャン・ツィイー)は、チャウとの愛に溺れる。

彼女たちとの関係性はあまり説明されないし、劇中劇と交錯する部分もあり、これまでの二作よりは複雑なストーリーになっている。

だが、そんな中でも、バイ・リンの悲恋物語は美しく切ない。彼女はチャウを次第に愛していくのに、体を重ねるたびにカネを払っていく関係をあえて続けようとするチャウに、彼女は傷つく。

後に『グランド・マスター』でもトニー・レオンウォン・カーウァイと組むことになるチャン・ツィイー。チャイナドレス姿が美しい。

でも、私が本作で一番好きなのは、ジンウェンが日本に帰るタクに思いを伝えられるように、一人で日本語を練習しているシーンだ。

「いいよ、いいわ、いきましょう、いってみようか、わかりました、いってもいいよ、つれてってください」

たどたどしい日本語の繰り返しが可愛らしい。

だが、練習も空しく、父に交際を大反対された彼女は、タクの誘いに一言も答えられず、彼は失意で帰国する。この部分は実に粋な演出のシーンだと思った。

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考察してはみたけれど

さて、物語は結構難解だ。本作単体ではなかなか理解しにくいし、前作を見たから理解できるものでもない。空想小説と現実、そしてチャウの過去の女性遍歴が入り混じっており、人それぞれとらえ方が異なるだろう。

私は次のように、半ば強引に解釈してみた。

チャウが愛した女性は、人妻スー・リーチェン『花様年華』マギー・チャン)。別れた後に、彼は自分の思いを穴に語り封印したが、彼女が本当に愛した人は誰だったのか、その不安が胸に残ったままだ。

チャウは、二人が幸福な時間を過ごしたホテルの部屋番号から着想し、2046という過去の世界を小説にする。

執筆を手伝ってくれるジンウェンと、彼女を残して日本に帰っても変わらないタクとの互いを愛し続ける様子は、チャウの小説にも影響を与え、主人公はタク、ミステリートレインのアンドロイドはジンウェンの姿を借りる。

だが、愛した人は、自分を愛してくれてはいなかったのではという不安は消えない。木の穴に語った秘密は誰にも分からない。小説の中で、木の穴に口をあてるのはジンウェンだが、チャウにとってそれはスー・リーチェンなのだ。

人々の安住の地であるはずの2046という過去の世界から、チャウだけが傷だらけで逃げ出してきたのは、その猜疑心に耐えられなかったからだろう。

三作全てに登場する女性、スー・リーチェン。

だが、『欲望の翼』ではサッカー場の売り子だったスー・リーチェン(マギー・チャン)が、『花様年華』のスー・リーチェンと同一人物ということなら、今回シンガポールの賭場にいた黒蜘蛛(コン・リー)が、同じスー・リーチェンという名前なのは、きっとただの偶然なのだろう。

一方、ダンサーのルル(カリーナ・ラウ)は、『欲望の翼』のルルと同一人物と思われる。彼女は自分を刺し殺した恋人のドラマーのことを、<脚のない小鳥>と呼んでいた。かつて彼女が愛し、だが、異国で死んでしまったヨディ(レスリー・チャン)が、自らを<脚のない鳥>と称していたからか。

結局、ジンウェンのリクエストに応えて、チャウが111時間を費やしても、彼の小説『2047』はハッピーエンドに書き換えられてはいないのではないか。

ウォン・カーウァイ監督は計画的にシナリオ通りに映画を仕上げるタイプではなさそうだ。それはそれで、芸術家肌でよいのだが、考察する方には徒労感がある。

そういえば、キャスト・スタッフのうち、トニー・レオンチャン・ツィイーマギー・チャンクリストファー・ドイルと、みんなチャン・イーモウ監督の『HERO』とかぶっているなあ。勿論、キムタク『HERO』なわけだが。