『新感染半島 ファイナル・ステージ』
반도
前作のヒットに甘えないチャレンジ精神を買う。引き継いだのはゾンビ設定のみ、スケールアップで興奮度大!
公開:2021 年 時間:116分
製作国:韓国
スタッフ 監督: ヨン・サンホ キャスト ジョンソク: カン・ドンウォン ミンジョン: イ・ジョンヒョン チョルミン: キム・ドゥユン キム: クォン・ヘヒョ ジュニ: イ・レ ユジン: イ・イェオン ファン軍曹: キム・ミンジェ ソ大尉: ク・ギョファン
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
あらすじ
人間を凶暴化させる謎のウィルスが半島を襲ってから4年後。家族を守れなかった元軍人のジョンソク(カン・ドンウォン)は、亡命先の香港で廃人のような暮らしを送っていた。
そんな彼のもとに、ロックダウンされた半島に戻り、大金を積んだトラックを見つけ、3日以内に帰還するという仕事が舞い込む。
だが、潜入に成功したジョンソクのチームを待っていたのは、さらに増殖した感染者たちと、この世の地獄を楽しむ狂気の民兵集団631部隊。
両者に追い詰められたジョンソクを助けてくれたのは、母ミンジョン(イ・ジョンヒョン)と二人の娘の家族だった。大金を奪えばこの国を出られるという最後の希望にかけて、手を結ぶことにした彼らの決死の作戦とは。
レビュー(まずはネタバレなし)
続編は別ジャンルと思って楽しむのが正解
メガヒットとなった『新感染 ファイナル・エクスプレス』から4年後の世界を描いた続編だが、安易に二匹目のドジョウを狙いにいった作品ではない。
ゾンビこそ前作以上に登場するが、閉ざされた空間でどんどんとゾンビが増殖していく恐怖は、冒頭の船舶シーンくらい。あとは、まったく別テイストのポスト・アポカリプス映画になっている。
単純にスケールアップしている訳ではなく、内容的にもよく考えられている。
前作で目が肥えてしまった我々は、つい本作に高い期待を抱いてしまうが、十分にそれに応える出来栄えだったと思う。
◇
人間を凶暴化させる謎のウィルスについては、前作同様に殆ど説明はない。4年経過しても何も解決はなく、もはや韓国は成り立っておらず、ゾンビだらけの朝鮮半島があるのみ。自国にたいして自虐的な設定だ。
原題は『半島』の意だが、今回は列車が舞台ではないので、新幹線をもじった邦題もやや苦しい。
コロナと違い、このゾンビウィルスは他国へと拡散してはいない。とはいえ、生き延びた主人公たちは香港で風評被害にあっており、マスクをしながら劇場に座っている身には、何とも気味が悪い。
これは『ニューヨーク1997』のゾンビ版だ
前作同様に、序盤までの展開はテンポよく無駄がない。
軍人のジョンソク(カン・ドンウォン。怒られるでしょうが、アンジャッシュ渡部似です)が姉の家族を乗せた車で避難を急ぐ。
途中、小さい子のいる家族が道端で救いを求めるが、無視して進む。だが、ようやく乗船した香港行きの船で、姉は子どもとともに感染してしまう。
◇
4年後の香港。ジョンソクは、妻と息子を失った義兄チョルミン(キム・ドゥユン。怒られるでしょうが、星野源似です)と、封鎖された半島に潜入し、大金の積まれたトラックを奪還する危険な仕事を引き受ける。
チームは4人。期限は3日以内。光と音に反応するゾンビたちが無数に巣食う朝鮮半島に入り込み、ミッションが開始される。
もう、ノリは完全に、マンハッタン島を凶悪犯の収容所にしたジョン・カーペンターの『ニューヨーク1997』、或いは狂気の民兵集団が出てくるあたりは『マッドマックス』の世界だ。
そこにゾンビ要素が加わる。しかもこれら往年の傑作を凌駕する技術的進歩がある。
見渡す限り町の灯がひとつもない、夜のソウルのダウンタウンの不気味さ、その悪路を猛スピードでドリフトし無灯火で走り抜けるカーアクションの大迫力。
これは相当にレベルが高い。なぜ、邦画にはこの画が作れないのだ。
◇
もはや人間など生存していないと思っていた半島に、狂気の沙汰の民兵集団をはじめ、ひっそりと生き抜いている人々がいる。ウィズ・コロナならぬウィズ・ゾンビの日常。
はたして、ジョンソクたちは無事にカネをみつけて生還できるのか。
前作同様に、死亡フラグの立っていそうなキャストは勿論、これは通常死なないだろうというキャラでも生存が楽観できない。
レビュー(ここからネタバレ)
以下、ネタバレとなる部分がありますので、未見の方はご留意願います。
たくましく生きる姉妹と母
さて、本作の主人公たちは、暗闇の荒くれものたちの世界をガンガンと進んでいくのだが、ストーリー展開は意外と芸が細かい。
姉夫婦たちを守るためとはいえ、冷酷にも救済を求める家族を見捨てたジョンソクが、そのミンジョン母子に救われることになる運命のいたずら。
◇
姉のジュニ(イ・レ)と幼い妹のユジン(イ・イェオン)が勇ましくも楽しげにゾンビたちを蹴散らすのも痛快だが、その二人が、あの時見捨てた子供たちだと分かったところでドラマは深みを増す。
ジュニのドラテクも見事だが、母ミンジョンの銃火器さばきも堂々たるもの。『ターミネーター』のサラ・コナー並みの強い母だ。
◇
ジョンソクは、4年前に船室の扉を閉めたことで、感染した姉の母子をも見殺しにしている。それは、常識的な行動だったが、義兄はそれを責める。
お前は最後まで必死にやったのか。どうして俺も殺してくれなかったのか、と。常識を超えた最後の粘り、それこそがラストに奇跡を呼ぶことになる。
631部隊にみる集団の狂気
感染者からのサバイバルだけでは単調になりがちな物語に、631部隊という新たな敵を持ち込んだところも効果的だった。
狂気に満ちた鬼軍曹のファン(キム・ミンジェ)は、いかにも好戦的で強烈なキャラクターが魅力的。
ファン軍曹が<動>ならこちらは<静>の、腹黒い策略家のソ大尉(ク・ギョファン)。彼もまた、なかなかしぶとい卑劣漢。前作のバス会社の重役のようだ。
◇
ジョンソクたちを送り込んだ香港の黒幕も、衛星通信の携帯電話くらい、ケチらずに人数分渡してやれ、と思う。壊れて連絡がとれなくなるハプニングはお約束すぎるので。
631部隊の基地に運ばれた、カネを積んだトラック、そして、まるで『カイジ』のように奴隷さながらにゲームを必死に生き延びる義兄チョルミン。
そして泣かせるクライマックスへ
はじめに登場した、ガラス張りの建物の中にいた夥しい人数の感染者ゾンビも、後半で効果的に再登場する。ああ、伏線が中盤以降で綺麗に収まっていく、心地よさ。
ジュニがクルマで散々ゾンビたちをなぎ倒して進むので、もはやゲーム感覚で殺人慣れしてしまう自分が恐ろしい。
◇
愛する者が感染してしまう悲哀は、前作ではきちんと描かれていたのだが、今回は冒頭の船室のシーンくらいしか思い浮かばない。
感染者たちも、さっきまで仲間だったわけで、完全に害虫扱いなのはやや味気ない。
◇
とはいえ、終盤でまた盛り上がりがある。前作では愛する娘のために自ら命を絶った父。今回、愛する家族のために身体を張るのは、祖父の元軍人キム(クォン・ヘヒョ)であり、強き母ミンジョン。
これでもかという二転三転に、感情をかき立てる抒情的な音楽。ラストで泣かされてしまうところも、前作からの継承なのであった。