『のぼる小寺さん』
ボルダリングに打ち込む女子高生に感化され目標を模索するクラスメイト。異色だが元気の出る学園もの。クライマー以外に関心を持たない不思議チャンの小寺さんを演じる工藤遥がいい!
公開:2020 年 時間:100分
製作国:日本
スタッフ
監督: 古厩智之
原作: 珈琲
『のぼる小寺さん』
キャスト
小寺さん: 工藤遥
近藤: 伊藤健太郎
四条: 鈴木仁
倉田梨乃: 吉川愛
田崎ありか: 小野花梨
益子: 両角周
津田: 田中偉登
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
クライミング部に所属している小寺さん(工藤遥)は、大好きなボルダリングに一直線。何事にも一生懸命だけど、球技は苦手で、鉛筆はナイフで削っている。
クライミング部の隣で練習する、卓球部の近藤(伊藤健太郎)。何度でも立ち上がり、目の前の壁に挑み続ける小寺さんから、なぜか目が離せない近藤は、いつしか彼女に惹かれていく。
しかし小寺さんを見つめているのは近藤だけではなかった。小寺さんに出会った彼らは、自らの目指す場所へ一歩を踏み出ていく。
レビュー(ほぼネタバレなし)
壁を乗り越える高校生活
のぼる小寺さん。これほどストレートに内容と主人公の動きを言い表すタイトルがほかにあるだろうか。文字通り、ボルダリングに打ち込む女子高校生・小寺さんの物語だ。
ネタバレしようにも、それ以上に明かすべきネタが思い浮かばない。だが、けして退屈な映画ではなく、むしろ単調なようでいて、なぜか引きこまれる。
田舎町の高校の体育館。室内スポーツの部活風景だが、いつも練習しているのは、小寺さんの所属するクライミング部と、同じクラスの近藤の卓球部だ。
最近の高校の体育館には、こんなボルダリング用の壁が設置されているものなのか。或いはこの学校が、特殊なのか。
◇
黙々と練習に打ち込む彼女に対し、緩い球技だからと卓球を選ぶ近藤。いつの間にか、近藤は小寺さんの存在が気になっている。映画では、この体育館の部活風景が、幾度となく繰り返される。
学園ものとしては相当異色
一方で、この二人をはじめ、徐々に物語に関わってくる、クライミング部の四条(鈴木仁)、ネイルが趣味の梨乃(吉川愛)、密かに小寺さんを写真に収めるありか(小野花梨)。
みんな同じクラスなのに、ろくに教室では会話もしたことがない。どちらかというと、クラスでは目立たないというか、誰とも絡まないような連中ばかりなのだ。
◇
なので、クラスの中でのガールズトークや男子同士のふざけ合いのようなものは、映画の中では皆無に等しい。珍しい学園ものといえる。
更には、親の姿がまったく登場しないのも、小気味よい。全編通じて、登場する大人は担任の先生くらい。ここまで大人を登場させない世界観は、まるでピーナッツのチャーリーブラウンが通う小学校だ。
工藤遥なしでは考えられない
さて、この映画は何と言っても、小寺さんを演じる工藤遥の魅力で持っている。ファッションにもメイクにも関心は薄く、ひたすらクライマーを目指す小寺さん。
派手な顔立ちではないけれど、なかなかチャーミングだし、いつの間にか気になっているという、絶妙なキャラの位置づけを、見事に押さえている。
彼女が<モーニング娘。>のメンバーだったことも知らないかった私は、本当にボルダリング選手から抜擢したのかと思った。その位、のぼる動きも軽やかだ。
小寺さんはボルダリング以外のことは殆ど語らない。私生活も考えていることも謎だらけの不思議チャンな女子高生が、ひたすら何かに打ち込む姿って、何か見覚えが…。
私が思い出したのは、テレビドラマ『ラーメン大好き、小泉さん』の早見あかりだった。どっちも<さんづけ>だし、小寺さんが<モー娘。>なら、小泉さんは<ももクロ>。
などと思っていたら、なんと小寺さんまでラーメン大盛に挑戦するシーンになって、驚いた。
その他キャスティングとスタッフ
ヘタレ卓球部員だったが、小寺さんに感化されたか次第に練習にも精が出始める近藤に売れっ子の伊藤健太郎(今は自粛期間中だけど)。本作では『今日から俺は‼』のツンツンヘアとは無縁の真面目キャラ。
伊藤健太郎にこのキャラで来られると、『惡の華』みたいに、変態であることがバレて、メガネ女子(本作なら、田崎さんだな)の奴隷にさせられそうで怖い。
近藤と同じく小寺さんを慕っている四条(鈴木仁)も、はじめはロン毛が鬱陶しい感じだったが、後半から爽やかキャラに変身。
伊藤健太郎ともども、デルモ出身のイケメン俳優が、ちょっと冴えない暗めな高校生を演じるパターンである。
◇
カメラを構えて小寺さんという被写体を隠し撮りしまくる田崎ありか(小野花梨)。小寺さん効果でネイリストを目指す、半分不良で登校拒否系のオシャレ番長・倉田梨乃(吉川愛)。
どちらも子役時代から活躍の女優だけあって、安定感あり。特に、梨乃は意地悪キャラなのかと思っていたら、結構いい人だったので安堵。主演は苗字だけなのに、この女子二人にはフルネームがあるのは不思議。
忘れてはいけない、クライミング部の先輩男子二人。益子(両角周)と津田(田中偉登)もナイス・ガイズである。
基本、この映画に悪い人は出てこないので、良くいえば平穏、悪くいえば平板な印象を与えるが、この二人のおかげで、たった四人のクライミング部の練習が、明るく楽しい雰囲気になっている。
津田先輩役の田中偉登は、『朝が来る』で主人公の恋人の高校生を演じている。体育館シーンではモテ男子の定番、バスケ部員だったけど。あれがボルタリングだったら笑えた。
◇
監督は古厩智之。最初に観た『武士道シックスティーン』以来、女子青春スポ根ものを得意とする監督のイメージが強い。長澤まさみ映画初主演の『ロボコン』とか、上野樹里の『奈緒子』とか。勿論、本作も。
あのCMを思い出した
学園祭のシーンは、やっと学園青春ものっぽい雰囲気になってきたけれど、ここでまさかの赤い風船追いかけて、小寺さんの猿の着ぐるみが生きてくるとは思わなんだ。あのシーンは好き。
そのあとに先輩たちの女装するメイドカフェに飛び込むところも含めて。校舎をよじ登る女子高生のCMが数年前にあったのを思い出したが、まさにあの時の彼女が、小寺さんの憧れる現役のスポーツクライマーなのか。
というわけで、進路にクライマーと書いて、自分の夢に猛進する小寺さんに、周囲の若者たちはみな影響されてしまうのだった。
とはいえ、卓球大会で途中敗退したり、カメラのコンテストで選に漏れたり、現実はそうは甘くない。
◇
ありきたりな青春恋愛映画的な展開に持っていかないところは、とても良い。だから、最後に少しだけドキドキできるのだ。原作もぜひ読んでみたい。