『青春デンデケデケデケ』
日本中がベンチャーズのテケテケに心酔していた時代の高校生バンド。今では牧歌的だが当時は最先端か。観音寺の街並みに風情がある。横にいる浅野忠信と比べ、林泰文は30年前の容姿と殆ど変わらないことに驚く。
公開:1992 年 時間:135分
製作国:日本
スタッフ
監督: 大林宣彦
原作: 芦原すなお
『青春デンデケデケデケ』
キャスト
藤原竹良: 林泰文
合田富士男: 大森嘉之
白井清一: 浅野忠信
岡下巧: 永堀剛敏
谷口静夫: 佐藤真一郎
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
1965年、香川県の観音寺。藤原竹良(林泰文)は、ラジオから流れたベンチャーズの「パイプライン」に電撃的な衝撃を受け、高校に入ったらロックバンドを結成しようと誓う。
住職の息子・合田富士男(大森嘉之)、ギターの得意な白井清一(浅野忠信)、ブラバンの岡下巧(永掘剛敏)と四人のメンバーが揃った。
夏休みにバイトで念願の楽器を購入、電気ギターの音が初めて町に鳴り響く。
レビュー(ネタバレなし)
うどんの町ならではの味わい
タイトルが示すように、ベンチャーズのテケテケサウンド(本作ではもっと重厚にデケデケだが)に電撃的な洗礼を受け、ロックバンドに情熱を燃やす田舎の高校生たちを軽快に描いている。
女生徒も出てくるが、あくまで添え物的で、男子の集団が主役というのは大林作品には珍しいかもしれない。
◇
香川県の観音寺という、原作通りの舞台と方言の採用を強行した監督のセンスを買おう。これを湘南で撮ろうという企画を突っぱねたそうだが、それは正しい。
60年代の、ファーストフードといえばうどんしかない田舎町に(撮影当時でもそうだったらしいが)、初めてエレキの音が響くところが味わい深いのだから。
◇
原作者の芦原すなおは、「監督が尾道を舞台にするのでは?」と心配したようだが、瀬戸内海をはさんで見つめ合っている(と大林監督の言う)観音寺で、めでたく撮影することになった。
監督が近年提唱していた古里映画でもなく、SF・ファンタジー原作でもないので、今回は特殊効果や合成の映像はあまりない。そのおかげか、観音寺の街並みの美しさや素朴さが、素直に堪能できるのが心地よい。
バンド結成映画の定番ステップを踏む
いいおじさん達のベンチャーズの演奏する姿も冒頭に出てくるが、私は世代的に衝撃を受けたわけではないので、60年代当時の熱狂ぶりは正直あまり想像できない。ビートルズの熱狂はまだわかるが、それに比肩する人気だったのだろうか。
モダンジャズ同様、祖国アメリカでは下火になっても、日本では独自にガラパゴス的に進化したマニア層が、ブームを長きにわたり牽引したのかもしれない。
ギターを手にした少年が、バンド仲間を探し、みんなでバイトして憧れの楽器を手に入れ、練習場所探しに苦労し、練習に切磋琢磨し、最後にはステージで熱い演奏を聴かせる。
◇
音楽青春ドラマとしては定番のステップを踏んで進む訳ではあるが、主人公の竹良が方言まじりで面白く語りながら物語が進んでいき、平和ながらも飽きさせない展開だ。
メンバーの岡下の家にある鍋釜で作ったドラムセットが、ついに手に入れた本物に入れ替わるところは妙に感動した。
それではメンバーを紹介
主演の林泰文の、ちょっとヌボーっとした感じと子供らしい可愛さの共存しているところが、出しゃばらずにいい感じ。ギターのうまい白井を演じる浅野忠信も、まだ独特の存在感はみせず、初々しさが残る。
メンバーの中で、主演以上に存在感を放つのは、住職の息子を演じた大森嘉之だろう。演技力も一番だったと思う。なお、大森も浅野も、監督の最新作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』に端役で参加している。
◇
その他のキャスティングも、竹良の両親は、ベンガル・根岸季衣、先生は岸部一徳など、相変わらずの大林組常連メンバーで固めている印象が強い。
ボランティアでロケ隊に参加したという南野陽子が、ラストにワンカット出てくるが、綺麗すぎて映画的には浮いている。
演奏その他、雑感です
演奏に関して言うと、はじめて音合わせしたときから、既に聴けるレベルになっていて、何だみんな結構うまいじゃないか、という印象。演奏指導はエド山口。
その後も、クラブの演奏などで何曲か披露するが、一応サマになっており大したものである。もっとも、竹良の兄貴・杉基(尾美としのり)なみに下手な演奏から始まって上達していく方が、成長実感がある気もした。
なお、大林監督はベンチャーズ旋風の頃は杉基の世代であり、尾美に監督の分身を演じてもらったそうだ。
◇
さて、タイトルにもあって冒頭に熱狂するのはベンチャーズサウンドのはずなのに、学園祭のステージで竹良が世界のロックで一番なのはチャック・ベリーだと言ったり、或いはビートルズを演奏したりと、けしてデンデケデケデケだけに感化されたコピーバンドではない。ここは、流行りものはなんでもやりたい高校生たち。
ノスタルジーで撮ってはいないと監督は言うが、さしたる屈折もなく健やかにバンドを組んで高校生活を謳歌している姿は、なんとも牧歌的。今時は小学生でも『WE ARE LITTLE ZOMBIES』のように世間に斜に構えてしまう。
とはいえ、高校卒業を控え、受験するもの、家業を継ぐもの、それぞれに人生の進路があり、バンドが解散するラストは、ご当地の風景の美しさと相俟って、結構胸熱くなるのだ。
以上、お読みいただきありがとうございました。原作もぜひ。また、4人の演奏指導のエド山口さんの動画も面白かったです。