『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『屋根裏の殺人鬼フリッツホンカ』考察とネタバレ|この男の下階暮らしは勘弁

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『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』
 Der Goldene Handschuh

ひたすら斬っては棄てての、心躍るではなく心荒む映画。視覚・嗅覚をこれでもかと不快にさせてくれる。実在した連続殺人犯の記録を忠実に再現した映画に、心晴れやかなシーンがあるはずもなく、万人受けはしない。

公開:2019 年  時間:119分  
製作国:ドイツ
  

スタッフ 
監督:ファティ・アキン
原作: ヘインズ・ストランク

キャスト
フリッツ・ホンカ: 
       ヨナス・ダスラー
ゲルダ・フォス: 
   マルガレーテ・ティーゼル 

勝手に評点:1.5
(私は薦めない)

(C)2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathe Films S.A.S./Warner Bros. Entertainment GmbH

あらすじ

敗戦がまだ尾を引いていた1970年代ドイツ、ハンブルク。フリッツ・ホンカはハンブルクにある安アパートの屋根裏部屋に暮らし、夜になると寂しい男と女が集まるバー<ゴールデン・グローブ>に足繁く通い、酒をあおっていた。

フリッツがカウンターに座る女に声をかけても、鼻が曲がり、歯がボロボロな容姿のフリッツを相手にする女はいなかった。

フリッツは誰の目から見ても無害そうに見える男だった。そんなフリッツだったが、彼が店で出会った娼婦を次々と家に招き入れ、「ある行為」に及んでいたことに、気づく常連客は誰ひとりいなかった。

レビュー(まずはネタバレなし)

無害そうには決して見えない男

70年代ハンブルクで実際に起きた連続殺人事件の犯人フリッツ・ホンカの物語、ということだが、あいにく事件については良く知らない。

まずはその風貌に驚かされるフリッツ・ホンカ。大きく欠けた歯やひん曲がった鼻、演じたヨナス・ダスラーの素顔と比較すると、特殊メイクによる変貌の大きさに驚かされる。

公式サイトでも紹介されているような、<誰の目から見ても無害そうに見える男>ではけしてないと思うのだが、他の方々がどう思われたのかは興味深いところだ。

この店の常連にはなりたくない

フリッツは馴染みのバー<ゴールデン・グローブ>で、誰もひっかけないような売春婦を口説いては自分の住む屋根裏部屋に誘い込む。

そこからは暴力的な男に豹変して、やれ殴る蹴るで娼婦をいたぶったあと、殺してしまうのが基本スタイルであり、それを飽きずに繰り返している。

この、原題にもなっている、風俗街にある行きつけのバー<ゴールデン・グローブ>が、なんとも退廃的な店だ。

人懐っこい店主はまだしも、何人かいる常連客の男どもはみなどこか人格的に問題がありそうで、男を漁る娼婦連中も、およそその手の職業婦人とは思えない女性ばかり。

その連中がみな、安酒をかっ食らっている店が、<ゴールデン・グローブ>だ。

(C)2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathe Films S.A.S./Warner Bros. Entertainment GmbH

飲んでいるシーンのあと店外が昼間だったので、不思議に思ったのだが、昼日中から飲んでいるのはためらわれるので、カーテンを閉めているのだ。

行きつけのバーの酒がこれほどまずそうに見える映画も珍しいが、この店に限らず映画全編を通じて、酒と食事はまずそうに、家や店の中は不潔に、人物は醜悪にというのが基本方針のようである。

70年代のハンブルクの街がどんな様子だったのかは知らないが、とにかく心が荒む映画だ。

レビュー(ここからネタバレ)

匂い立つような映画

ホラー映画だというなら、こういう作品もありだと思うのだが、徹底的に事件を忠実に再現したかったのだろうか。その結果、事件の内容から当然のことではあるが、不快感あふれる作品に仕上がっている。

やれ死体を切り刻んだり、廃棄したりといったシーンが血みどろで見たくないというだけではなく、本作は嗅覚にも生理的な不快感を与えてくるのだ。これはキツイ。

死体廃棄と書いたが、正しくは、何人もの死体を適当に分断して壁の裏に放り投げておくだけなのである。当然ながら腐敗臭がすごいはずだ。

最初に連れ込んだ高齢の娼婦がいきなり鼻をつまんだところから、この不快感は観客と共有される。同じアパートの住民からも文句が来るが、相手にしない。

(C)2019 bombero international GmbH&Co. KG/Pathe Films S.A.S./Warner Bros. Entertainment GmbH

ファティ・アキン監督が語るには、主人公はハンニバル・レクター教授のような架空のシリアルキラーではなく、隣近所にいそうな実在の人物だ。

なるほど、殺人鬼フリッツ・ホンカには、思想がある訳でもなく、金が目当てでもなく、殺し屋として腕が立つ訳でもなんでもない、世間に見放されたような、ただの男である。

それが、見境なく女性を乱暴し、このような連続殺人犯にまでなってしまうところには、身近な恐怖を感じる。

少しは明るい材料も欲しかったけど

たとえば、冒頭に出てくる留年の決まった女子高生ペトラ(グレタ・ゾフィー・シュミット)だったり、夜警のバイト先で出会った掃除婦のヘルガ(カーチャ・シュトゥット)だったり、なんとなくフリッツを更生させてくれそうな若い女性も登場する。

なのに、まったくそんな展開にはならず、そんなに安易に人格が変わるはずもない。

そんなこんなで、フリッツの屋根裏部屋に死体は蓄積されていく。室内は腐敗臭で充たされ、下階に暮らすギリシャ人一家の食卓のスープ皿に天井から次々と蛆虫が落ちてくる! 

このシーンは不快感マックスだ。<ゴールデン・グローブ>の店のトイレで、常連の退役軍人に背中から小便をかけられた男子高校生と同じくらいの不快指数だろう。

アパートが火事になったおかげで、この大量の死体が発見される。

エンドロールで流れる実際の写真をみると、フリッツの殺人スポットである屋根裏の部屋に大量に貼られた女性の写真や飾られた数々の人形はじめ、部屋の構造などは、実際のものが忠実に再現されたのだとわかる。そこはすごい。

だが、忠実再現の結果として不快感が高められたのでは、商業映画としてどうなのよ、という気になる。まあ、この手の映画が好きな人もいるのだろうが、万人受けはしない映画だろう。私には人に薦める勇気はない。