『ベルベット・バズソー:血塗られたギャラリー』
Velvet Buzzsaw
ギルロイ監督にジェイク・ギレンホールとレネ・ルッソがLAに集結で『ナイト・クローラー』の再来か。描かれるのはカネと欲望にまみれたアート業界、気づけばスタイリッシュなホラーの様相。
公開:2019年 時間:112分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ダン・ギルロイ キャスト モーフ: ジェイク・ギレンホール ロドラ: レネ・ルッソ グレッチェン: トニ・コレット ジョセフィーナ:ゾウイ・アシュトン ピアース: ジョン・マルコヴィッチ ドンドン: トム・スターリッジ ココ: ナタリア・ダイアー ダムリッシュ: ダヴィード・ディグス ブライソン: ビリー・マグヌッセン
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
ポイント
次々と人が死んでいくスタイリッシュなホラーは、往年の名作『ファンタズム』と横溝正史のコラボのような不思議な世界観。でも、こんな絵は自宅に飾りたくないな。
あらすじ
画商ロドラ(レネ・ルッソ)のもとで働くジョセフィーナ(ゾウイ・アシュトン)は、同じアパートで死亡した老画家ディーズの部屋にあった大量の絵画を手に入れる。
不気味な絵画に魅力を感じたジョセフィーナは、ロドラや人気美術評論家モーフ(ジェイク・ギレンホール)とともに、その無名画家を一躍有名にして作品を高値で売ろうと画策するが、やがて関係者に不可解な事件が起こり始める。
レビュー(まずはネタバレなし)
サスペンスでありホラーでもあり
ダン・ギルロイ監督にジェイク・ギレンホール、更にレネ・ルッソとくれば、あの傑作『ナイト・クローラー』の再来ではないか、と盛り上がらずにはいられない。
これも舞台は同じロサンゼルスだが、描かれるのは報道パパラッチではなくカネと欲望にまみれたアート業界。
NETFLIXではサスペンス映画となっているが、中盤からは完全にホラー映画。とはいえ、どろどろとした業界の人間模様もしっかりおさえられていて、ドラマ好きも飽きさせない。
◇
画商や画家、画廊のスタッフが大勢登場してきて、前半は人物把握に悩むかもしれない。冒頭の展示会にでてくる球形のスフィアやホームレスマンのロボットなどの前衛芸術作品も、頭の片隅に置いといてほしい。
タイトルのベルベット・バズソーとは、ロドラが若い頃にメンバーだったバンド名。死別したバンド仲間のポリーが遺した言葉を彼女は大切にしているが、それが今回の事件を呼び起こしたともいえそうだ。
レビュー(ここからネタバレ)
生きているものはいないのか
ディーズの描いた不気味な絵画が、やれ動くわ、燃えるわ、飛び出すわで、すっかり途中からホラー映画に様変わりしていく。
虐げられた父や同僚を殺害し、施設の科学実験台にさせられたこの不運な画家の作品には、いったいどんな怨念が込められていたのだろう。
◇
まずは生存者リストから見てみよう。
画家のピアース(ジョン・マルコヴィッチ)とダムリッシュ(ダヴィード・ディグス)は、ディーズの絵画には直接関与せず、画商たちの拝金主義から距離を置こうとしていたので無事に生き延びている。
◇
勤める画廊を渡り歩く受付係のココ(ナタリア・ダイアー)も、主犯格ではないので無罪放免か。ココは3名もの遺体発見者なので、そういう役割で生かされているのかもしれない。
最後にネコを抱えて町から脱出していくのも彼女だ。まるで『エイリアン』のラストじゃないか。
さて次に、死んでしまった登場人物を順にあげてみると、
- 死にざまリスト
- ブライソン(ロドラの画廊勤務)…作品運搬中に絵が炎上
- ドンドン(ライバル画商)…映写中に首吊り
- グレッチェン(買付人)…出展中のスフィアに腕をもがれて失血死
- ジョセフィーヌ…画廊の絵から流れた絵の具に飲まれ、変死し壁の落書きに
- モーフ…倉庫でかつて酷評したホームレスマンに襲撃される
- ロドラ…首のベルベット・バズソーのタトゥーが回転し失血死
と、被害者はみんなディーズの絵画で一儲けを考えている画商や関係者だ。
◇
なお、ジョセフィーヌの元カレの画家リッキーが、モーフ(の酷評)に殺されて昏睡状態にというのは比喩なので、被害者リストから除外した。
それでは、最初にアパート廊下で死んでいたディーズ自身はどうだろうか。彼は不審な死に方ではない?
ディーズの怨念の謎を解こう
ディーズは自ら絵を処分しようとしていた。忌まわしい感情を描いた自分の作品を捨て去ろうとしたのならば、世間に広めようとした者たちに罰を与えたのかもしれない。
それならば、『リング』と真逆だ。『リング』はビデオをダビングして拡散しないと貞子に殺されてしまう。
◇
絵を処分しようとしたディーズが、自身の描いた作品の怨念に殺されてしまったのだとすれば、どうだろうか。高値取引を煽って大金を懐に入れようとする連中を、作品が冒瀆されたと怒っているのか。
うーん、それだとモーフやロドラが死ぬのが遅すぎる。ここは単純に、作品を隠匿したり、処分しようとしたりすると、怨念に襲われてしまうと考えるのが自然か。
◇
ラストシーンでは、結局ディーズの絵画の拡散を防げず、露天商のおっさんがブライソンのクルマの積荷から盗んだディーズ作品を大量に売りさばいていた。
はたして拡散が是か非か。映画のあとに露天商が死ぬかどうかで分かるのだが…。
まさに血塗られたギャラリー
死にざまも多種多様。アンドロイドみたいなホームレスマンに殺されるモーフはSFアクションっぽい。
映像美だったら球体に腕を切断されるグレッチェン、懐かしホラー『ファンタズム』を思い出した。
画材を分析してみたら、血で描かれた箇所があるというのは、なんとも気味が悪い。まず家の中には飾りたくないな、とても買えないけど。
まさに『血塗られたギャラリー』、邦題に偽りなしだ。
モーフは自分がこき下ろしてきた芸術家たちの訴えを気にしていない風だったが、無音室に入ったら罵詈雑言の幻聴が聴こえてしまうほど、心労になっていた。ディーズの絵画取引をやめ引き返そうとしたが、時すでに遅し。
ロドラは死に別れたバンド仲間ポリーの遺した言葉、「自分を信じることだけが、不安と過去を乗り越えさせる」を信条に、高値の取引に突き進んでしまった。
庭で作品の下敷きになりかけたときは助かったのかと思ったが、皮肉にもバンド名を入れたタトゥーのバズソー(円型のこぎり)が回転し、死んでしまう。
そしてエンドロールのあとには砂浜をキャンバスに、自由に舞うように、大きな模様のような抽象画を描くピアース。
彼がロドラに言われて信じ始めたものは、カネではなく描きたいという想いだったのだろう。だから、とても幸福感に満ちているのだ、たとえ、描いたそばから波に消されてしまおうとも。