『Girl/ ガール』 考察とネタバレ:トランスジェンダーのバレエダンサーによる、これぞガールズ・ドント・クライ

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『Girl/ ガール』 Girl

若い女性バレエダンサーにしか見えない主演のビクトール・ポルスター、本物のトランスジェンダーだと信じて観ていても、不思議はない。

公開:2018年  時間:105分  
製作国:ベルギー

スタッフ
監督:       ルーカス・ドン

キャスト
ララ:   ビクトール・ポルスター
マティアス: アリエ・ワルトアルテ

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

 (C)Menuet 2018

あらすじ

トランスジェンダーの主人公ララ(ビクトール・ポルスター)が、夢を追いかけて難関のバレエスクールに入り厳しいレッスンを乗り越えていくドラマ。

男性の身体に女性の心をもつ彼女は、トランスジェンダーに対する理解が大きいとされるベルギー社会においても、周囲の人々の好奇な視線や、心ない言動に傷つくことが多い毎日。

強い意志をもち努力家である彼女だが、履き慣れないトゥシューズと、完全に女性ではない身体で、難度高く厳しいバレエのレッスンを続けることは本当につらそうだ。

そんなララの父・マティアス(アリエ・ワルトアルテ)には娘の特性への理解があり、幼い弟ともども彼女の支えになっている。性別適合手術に向けて、ララのホルモン剤投与の治療が進んでいく。

(C)Menuet 2018

レビュー(ネタバレなし)

ビクトール・ポルスターの才能

まずは、主演のビクトール・ポルスターの存在を語らないわけにはいかない。観終わるまで、本当のトランスジェンダーだと信じていたほどの迫真の演技だ。

彼は他のダンサー役のオーディションから急遽抜擢されたそうだが、女性バレエダンサー役となれば、身の振り方もまるで違うはず。

顔や外観は完全にティーンの(美しい)女性だし、脱げばスリムだが男性の身体という、この映画に欠かせない逸材を見つけ出せたことは大きい。

カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)「ある視点」部門最優秀俳優賞等をはじめ、多くの映画賞をさらった作品であり、映画関係者からの評価は高い。

一方で、トランスジェンダーの人々やそれを支援する関係者からは、性同一性障害の描写や自傷行為についての誤解が多いとして、批判を浴びてもいるようだ。

ルーカス・ドン監督は当初、「ベルギー出身のトランス女性ダンサーがバレエスクールで女子クラスへの編入を要求した」という新聞記事に着想を得たそうだ。

だが、実際にはこのダンサーはスクールから編入を断られている。映画では女子クラスに編入できるわけなので、本作はあくまでフィクションという位置づけなのだろう。

バレエのレッスンは厳しいのがお約束

トランスジェンダーゆえに、周囲の嫌がらせやちょっとしたイジメにあうような展開は、想像できるものではある。

だが、男子ダンサーとペアで踊らされたり、或いは女生徒に執拗に誘われて一緒にシャワーを浴びる羽目になったり、ハラハラしながら観てしまうシーン多し。

バレエのレッスンは厳しいのが映画の世界でもお約束なので、本作でも老齢の先生が容赦なくララに稽古をつけてくれる。

トゥシューズの中の血だらけの指先は痛々しく、先生の言動もキツイが、彼女を普通の女生徒として扱い、厳しい中にも温かみがちょっとあって、割と好きなシーンだ。

映画では回転のレッスンシーンが多かったとか。それは、治療を始めてもなかなか好転しない日常のメタファーだそうである。監督、それは気が付きませんでした。

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ベルギー流の家族の在り方

家族、それもシングルファーザーの大いなる理解と愛情。先輩格にあたるトランスジェンダー映画といえば、ララと名前も似ている『リリーのすべて』

主演のエディ・レッドメインも良かったが、あの映画では、アリシア・ヴィキャンデル演じるリリーの妻の寛容さが印象的だった。

本作では、それにあたるのが理解ある父親マティアス(アリエ・ワルトアルテ)の包容力だろうか。ララが家族にも冷遇されていたらと思うと…。

もっとも、思春期の娘だから、いくら理解のある父親でも距離感詰めるのに限界はありそうだったが。

ところで、家族パーティに現われて「3人目の男の子を妊娠している」と発表したのは、彼女の実母だろうか(それなら不用意発言)。離婚した相手も招待するのがベルギースタイルなのか。

レビュー(ネタバレあり)

氷の予感

ネタバレといっても、既に周知のネタなのかもしれないが、私は全くの予備知識なしで観たので、自傷シーンは知らなかった。

股間のテーピングは身体に良くないと医者にも諭され(剥がすときに痛そうだとは思ったが、そもそもの鬱血とかが悪いのか)、ホルモン治療も見合わせとなり、希望の光を失うララは、思い詰めてしまったのだろうか。

家族団欒後のある朝、ララは一人キッチンで、突然製氷皿から氷を出し始めて。え、なに作るのよと、少しいやな予感。

あらかじめ救急車を電話で呼ぶところで確信。あー、まずい。エディ・レッドメインと同じだ。ちょん切るぞ、死んでまうぞ。そして、正視をためらいつつ観ることになった。

(C)Menuet 2018

いやあ、結果的には助かってよかった。死んじまったら、おしまいよ、ララ。(リリーじゃないけど、寅さん風。)せっかく、同じアパートに、初めての好きな男もできたんじゃないのかい。

『クライングゲーム』『ボーイズ・ドント・クライ』が公開された頃に比べれば、トランスジェンダーの認知度は上がったと思うが、少しは暮らし易い世の中になってきたのだろうか。

最後に足早に雑踏を歩いてくるリリーのワンカットは、退院直後か、数年後の姿なのか。もう少し笑顔でいてほしかった。観終わったあとの気の重さが違うので。