『ルノワール』考察とネタバレ|メッセージをどうぞ「小五です」

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『ルノワール』
Renoir

早川千絵監督が理屈よりも感性で撮った、少女から大人への移ろいを描いた作品。

公開:2025年 時間:122分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:         早川千絵


キャスト
沖田フキ:        鈴木唯
沖田詩子:      石田ひかり
沖田圭司:  リリー・フランキー
御前崎透:        中島歩
北久理子:       河合優実
濱野薫:        坂東龍汰

勝手に評点:3.5
 (一見の価値はあり)

(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners

あらすじ

1980年代。11歳の少女フキ(鈴木唯)は、両親と三人で郊外の家に暮らしている。ときに大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性を持つ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままに過ごしていた。

そんなフキにとって、ときどき覗き見る大人の世界は、複雑な感情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的だった。

しかし、闘病中の父(リリー・フランキー)と、仕事に追われる母(石田ひかり)の間にはいつしか大きな溝が生まれていき、フキの日常も否応なしに揺らいでいく。

レビュー(まずはネタバレなし)

『PLAN75』に続き、デビューから2作連続でカンヌに出品となった早川千絵監督の作品。

主人公は天真爛漫で多感な11歳の少女フキ(鈴木唯)。末期ガンで闘病中の父・沖田圭司(リリー・フランキー)と、家計を支え仕事に忙しい母・詩子(石田ひかり)の一人娘。

父の病気のせいもあり、家の中はどこか殺伐としており、家族で支え合うようなムードはない。

時代は80年代、そんな家庭環境でもフキはへこむこともなく、オカルトブームに夢中になったり、YMO『ライディーン』で踊ったり、時には性に関心を示したりと、マイペースに過ごしている。

(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners

少女の映画ということ以外、特に予備知識もなく臨んだのだが、序盤から、私の好きなある映画との類似性の強さに驚いてしまった。それは、相米慎二監督の奇跡のような珠玉の家族映画、田畑智子のデビュー作『お引越し』だ。

かわいいワンピース姿にショートヘア、気の強そうなつぶらな瞳、少女フキの佇まいや言動、見知らぬ街を夜に独りで彷徨うところなど、まるで『お引越し』レンコ(田畑智子)そのものだ。

ドラマの展開よりも、少女が繰り出す予想外の動きに重点が置かれ、理屈ではなく感性で受け止めるような作品であることも、共通している。

オマージュだと確信したのは、終盤の列車内のシーン。対面ボックスシートに座り楽しく会話をする母と娘という構図は、『お引越し』の再現フィルムのようだ。

ついでに言わせてもらうと、レンコの父親役は中井貴一だった。フキの母親が石田ひかりということで、放映終了したばかりのドラマ『続・続・最後から二番目の恋』を勝手に連想してしまう。

(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners

調べてみると、『ミツバチのささやき』『お引越し』『ヤンヤン 夏の想い出』に影響を受けたと早川千絵監督が語っていた。他の二作よりは断然『お引越し』の影響が大きいとは思うが、どれも少女から大人に変わる一時期を巧みに捉えている作品といえる。

フキは、前半ではまだ子供だ。

  • 超能力に憧れ、トランプの数字当てに夢中になり
  • 同じマンションに暮らす女性(河合優実)に振り子で催眠をかけて心の中にある苦悩を吐き出させ
  • 「森のくまさん」を突然歌い出し(天然すぎて笑)、隣の席の女の子(高梨琴乃)と友だちになり

その天真爛漫さと子供ならではの残酷さは『こちらあみ子』を彷彿とさせる。

やがて、母がメンタルケアの研修で知り合った講師(中島歩)とただならぬ関係になったことを感じ取って、おまじないで別れさせようとする。

興味本位で聞き始めた伝言ダイヤルにメッセージを残し、大学生(坂東龍汰)と待ち合わせ大人の世界に入っていく(「小5です」のメッセージ残しには吹いた)。

「前作『PLAN75』は理屈で語れてしまう映画だったので、今回ははっきり言葉で説明できない映画を撮った」と早川千絵監督が語っているように、この映画には不可解な場面が多い。

そこは好みが分かれるところだが、男にとってみれば、女の心理や行動など基本不可解なものであり、それが少女となれば更に謎めいていて当たり前なわけで、だから私は、この映画を分かろうとせずにありのままに受け止めることにした。

キャスティングは絶妙だ。主演の鈴木唯はフキを地で行くような少女なのかと思ったが、どうやら演技派の子役らしい。

リリー・フランキーには死期が近い父親の哀愁が漂っていたし、母親が石田ひかりとくれば、そんな夫に寄り添いそうなものだが、仕事に忙しく、夫の葬式準備も生前からテキパキこなす、いつもイラついている役というのが想定外で面白い。

他に共演者は『ふてほど』『あんぱん』と売れっ子の二人、河合優実中島歩

河合優実は登場シーンは少なくても相変わらずの存在感で引き込まれたし、中島歩は色気のあるダメ男っぷりが際立つ。その他、いつも爽やか青年の坂東龍汰は意外性で勝負。

(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners

時代設定を80年代にしたのは伝言ダイヤルを使いたかった早川監督のこだわりらしいが、時代考証は結構しっかり作られていた印象。

個人宅やファミレスの内装・雰囲気は勿論、缶コーヒーやカルピス、台所のシャービック等々。そもそも、河合優実中島歩が昭和顔だもんな。

レビュー(ここからネタバレ)

以下、若干ネタバレがありますので、未見の方はご留意願います。

映画全体は、どんよりと重苦しいネタが次々と登場する。時代はバブル前の好景気だが浮かれた様子はなく、金属バット殺人連続幼女誘拐殺人の事件が報道やモチーフに使われる。

冒頭に出てくる、世界各地で泣いている子供たちのシーンをかき集めた映像集。これは、後に出てくる河合優実の夫にまつわるエピソードに関連しているのだが、何か邪悪なものを意味している。

その他、父親はガンを治そうとして騙されて高額なものをいろいろ買わされるし、石田ひかりも夫の病気を気遣っている気配はまるでなく、早々と喪服を揃える有様。フキが親しくなった友だちの家も裕福そうだが寒々しい。

思えば、この映画に幸せそうな大人は誰一人登場しない。フキの両親も、会社では疎まれる存在なのが切ない。

11歳のフキは持ち前の好奇心で、大人の世界に足を踏み入れる。愛する父親が死んだら悲しいとか、家族で最後の思い出を作ろうとか、予定調和的な行動を本作はことごとく避けていく。

(C)2025「RENOIR」製作委員会+International Partners

『お引越し』『ルノワール』ではともに、見知らぬ田舎町で主人公の少女が道に迷い一人で夜を過ごすが、前者は母親役の桜田淳子、後者は父親役のリリー・フランキーが娘を現実社会に引き戻す。この時、フキの父はもう帰らぬ人となっていたのかもしれない。

なんだか、相米慎二作品のレビューみたいになってしまったが、あの映画を知らない若い世代にも、この映画が新たな宝物のようになってくれるといいなあ。