『夜の浜辺でひとり』
밤의 해변에서 혼자
ホン・サンス監督が不倫関係のキム・ミニを主演に魅力たっぷりに撮りきった、自由奔放な作品。
公開:2017 年 時間:101分
製作国:韓国
スタッフ
監督・脚本: ホン・サンス
キャスト
ヨンヒ: キム・ミニ
ジヨン: ソ・ヨンファ
チョンウ: クォン・ヘヒョ
ミョンス: チョン・ジェヨン
ジュニ: ソン・ソンミ
サンウォン: ムン・ソングン
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
あらすじ
女優のヨンヒ(キム・ミニ)は既婚男性との恋に疲れ、キャリアを捨ててドイツのハンブルクにやってきた。
ハンブルクに暮らす女友達のジヨン(ソ・ヨンファ)と街を散策し、この外国の街に住む自分を夢想する。韓国から会いにくると言っていた恋人の言葉に期待しながら、今では半信半疑でいる。
◇
そして時は流れ、帰国したヨンヒは東海岸のを訪れる。先輩のジュニ(ソン・ソンミ)との約束までの間、映画館を訪れると、昔馴染みのチョンウ(クォン・ヘヒョ)とミョンス(チョン・ジェヨン)に会う。
飲みに行った先で、ヨンヒは皆から魅力的になったと言われる。焼酎とマッコリととめどない会話。どこか乱暴に振る舞うヨンヒを皆は温かく受け止め、ジュニは愛おし気に眺めている。友人たちと話すうちに、ヨンヒは女優復帰することを考え始める。
◇
ひとり、ホテル傍の浜辺を訪れ砂浜に横たわるヨンヒ。心配する声に顔を上げると、知り合いの映画スタッフがいる。彼らはヨンヒが付き合っていた映画監督サンウォン(ムン・ソングン)の次回作のロケハンをしていたという。
今更レビュー(ネタバレあり)
ある意味、公私混同ムービー
ホン・サンス監督がミューズであるキム・ミニを起用した二作目にあたる。いかにも監督らしい、規制の枠組みに囚われない自由なスタイルの作品。ホン・サンスが撮るキム・ミニは、女性的な魅力に満ちている。
本作で彼女が演じているヨンヒという女優の役は、けして性格的には万人受けしないような、性愛に奔放に生きるじゃじゃ馬娘だが、そんな役でも輝いて見せてしまう。ありがちな話だが、監督はこの主演女優と恋仲にあるからだろう。
◇
映画は、女優役のヨンヒが監督と不倫に走るというストーリーだが、実生活でもキム・ミニとホン・サンス監督は不倫関係にある。彼女が初出演した『正しい日 間違えた日』からの関係らしいが、本作の公開時にキム・ミニは関係を公に認めている。
別に、不倫がけしからんから、映画も取り締まれというような自警団になるつもりはない。
主演女優と監督が不倫関係だろうがおしどり夫婦だろうが、主役を魅力たっぷりに撮りきった優れた作品なら文句はないのだが、フリースタイルな本作が面白かったかと言われると、正直私には苦手な部類である。
◇
そうはいっても、素人が撮ったようでいて実は周到に用意されているらしいホン・サンス監督の作風自体は、面白い。
街中の風景ショットから唐突に主人公にズームアップしていくカメラワークや、テーブルを挟んで延々と取り留めのない話をしている登場人物たちのカット。
あとは脚本さえ、もう少し型にはまればよいのにと思ってしまうが、それでは監督らしさが失われてしまうのかもしれない。
第一部はハンブルク
本作は舞台の異なる二部構成。まずは女友達のジヨン(ソ・ヨンファ)を訪ねてソウルから海外にやってきた女優のヨンヒ(キム・ミニ)が、住み心地の良さそうな町を二人で散策し、ここに住みたいと言い出す。
西欧の都市だとは雰囲気で分かるが、明示的に都市名は出てこない。招かれた現地人宅での手料理はパスタだが、イタリアではない。どうやら、ハンブルクだそうだ。
ヨンヒはこの町で、別れた不倫相手の映画監督が彼女を追ってやってくるのを期待しているらしい。
◇
ジヨンは離婚経験もあり年上に見えるが、二人の会話からもヨンヒが天真爛漫で、言いたいことを言い、やりたいことをする自由気ままな女だというのが伝わる。彼女が望むのは、恋愛成就ではなく、自分らしく生きることだ。
この町で何か事件が起きる訳ではない。野原を散策中に、遠くから大声で時間を尋ねる、通りすがりの男が現れる。実に不自然だが、ストーリーには絡まないようだ。
まるで台本などないような自然な会話がホン・サンスの特徴的なスタイルだが、それでもネタバレといえそうなものはある。以下、ネタバレになるので未見の方はご留意願います。
ハンブルクのパートのラストでは、海岸で姿を消したように見えたヨンヒが、先ほど野原で登場した長身の黒衣の男の肩に担がれて去っていく。まるで獲物を仕留めた猟師のようだが、これは一体なに?
第二部は韓国のカンヌン
そう思っていると、すぐ第二部が始まる。まったく違う話のオムニバスだったら難解すぎるぞと身構えたら、どうやら舞台は韓国の江陵。
映画館にいたヨンヒは、昔馴染みのチョンウ(クォン・ヘヒョ)とミョンス(チョン・ジェヨン)と再会し、みんなで飲むことになる。ヨンヒは仲間の一人で先輩のジュニ(ソン・ソンミ)に会うためにここに来たらしい。
彼女がかつて監督と不倫関係にあり破局したことも、周知のことのようだ。みんなで久々に会ったヨンヒをやれ可愛いだの魅力的だのとちやほやし、酒のすすんだヨンヒも先輩たちを相手に言いたい放題。
「向こうの国の男は何人も言い寄ってきたけど、カラダはいいわ。アレも大きいし」などと自慢げに語る。
「そうか、やっぱり大きいのか」などと、ホン・サンス監督作常連俳優のクォン・ヘヒョが、小娘の台詞をありがたく拝聴している姿は滑稽だ。それに、ヨンヒは自慢だけでなく、からみ酒なので質が悪い。
実にリアルな雰囲気の酒飲みトークが終わり、ヨンヒは連中に案内されて海辺の立派なホテルに行くのだが、奇妙なことに、例の黒衣の長身男が、バルコニーからずっとその部屋の窓を拭いている。
誰もこの人物について触れないので、見えていない設定なのだろう。こいつは想像の人物なのだと分かると、ハンブルクでの黒衣の男の存在も、深く悩まなくてよいことになり、一安心。こいつは、ヨンヒの潜在意識のようなものなのか。
第三部は浜辺のあとか
次の展開は第三部とはならないが、江陵の浜辺でヨンヒが一人寝ている。『夜の浜辺でひとり』というが、まだ夕方にもなっていない。そこにロケハン中の助監督が彼女を発見する。
ヨンヒの不倫相手だったサンウォン監督(ムン・ソングン)が新作を撮ろうとしていたのだ。彼女は監督やスタッフたちと酒を交わすことになる。
ここでまた、ヨンヒのからみ酒が始まり、妻を捨てて彼女に走らなかったことを「毎日狂いそうだ、後悔している」と泣き崩れる老監督を冷ややかに見る。
さて、その後彼女は再び砂浜で眠っているところを通りすがりの人に起こされる。夢落ちだったのだ。
自分を捨てた監督に出会い、彼が後悔するところを見届けたのは、ただの夢だった。横浜流星の『ヴィレッジ』にも出てきた邯鄲の「一炊の夢」という中国故事を思い出す。
映画の骨格部分が夢落ちだったというのは、落胆材料になることが多いが、本作にはこれといった起承転結があるわけではない。「夢でした」といわれても、「ああ、そうなの」という程度の話だ。
◇
むしろ気になったのは、じゃあ、どこからが夢だったのかという点だ。夢落ちがありなら、ノーラン監督の『インセプション』のように、夢の中で更に眠ったり、目覚めることだってありだろう。
ならば夢の始まりは江陵の浜辺ではなく、チョンウ(クォン・ヘヒョ)と会った映画館かもしれない。ビー・ガン監督の『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』のように、映画館で夢の世界に入るパターンは考えられる。
もし、浜辺で寝ているのを助監督に起こされたのが現実なのであれば、第一部のラストでヨンヒが姿を消した、ハンブルクの浜辺というのも夢の入り口になりえる。
彼女はここから、数年後に江陵に行き、監督と再会するという長い夢を見たのではないか。
◇
ホン・サンス監督はいまだに離婚が認められずに不倫関係を引きずっているらしい。私生活のゴシップに大した興味もないが、彼の代わりに本作でヨンヒの不倫相手の映画監督役を演じたムン・ソングンが、気の毒に思えてしまう。