『さらば冬のかもめ』
The Last Detail
シンプルな脚本でサプライズがなくても、映画は面白くなる良い手本。ジャック・ニコルソンがまだ若い!海軍下士官の二人に、罪を犯した新兵を海軍刑務所に護送する任務が与えられ、その道中で奇妙な友情が芽生える。
公開:1973年 時間:104分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ハル・アシュビー 原作: ダリル・ポニクサン 『The Last Detail』 キャスト バダスキー: ジャック・ニコルソン マルホール: オーティス・ヤング メドウズ: ランディ・クエイド
勝手に評点:
(オススメ!)
コンテンツ
ポイント
- ジャック・ニコルソンとその同僚が、微罪で懲役刑を受けることになった新兵を刑務所まで送り届けるシンプルなロードムービー。
- だが、どこかほっこりと心温まって、観る者の心に何かが残る。ぜひ本作オマージュ(てかパクリ?)の「あぶない刑事」も観てほしい。
あらすじ
海軍下士官バダスキー(ジャック・ニコルソン)とマルホール(オーティス・ヤング)が、罪を犯した新兵を護送する風変りなミッションを授かる。
行先はノーフォーク基地からポーツマス海軍刑務所まで。
この護送される新兵メドウズ(ランディ・クエイド)は、基地のポリオ基金の募金箱から金を盗もうとして、金額は僅か40ドルだが、募金活動が司令官夫人の肝いりだったため、懲役8年を言い渡されたのだった。
せいぜい2日で終わる任務に5日の時間と日当がもらえる好待遇に喜ぶ下士官2名。
だが、あまりに人の好さそうな背の高い新兵と旅をするうちに、こんな軽罪で青年期のほとんどを刑務所で過ごす羽目になった彼が気の毒になってくる。
レビュー(まずはネタバレなし)
こんなロードムービーもあるのだ
たまに、古いアメリカン・ニューシネマ(矛盾してますね)が恋しくなり、本作を久々に観直した。ハル・アシュビー監督、懐かしい名前だ。
カンヌのパルム・ドールやアカデミー賞にもノミネートされるなど評価が高い作品だったが、なぜか私の周囲の映画好き仲間の知名度はあまり高くない。とても良い作品なのに。
◇
ストーリーは単純明快。海軍下士官の二人に、罪を犯した新兵を海軍刑務所に護送する任務が与えられ、その道中で奇妙な友情が芽生える話。
昨今では、こんなシンプルな脚本では映画を撮らせてもらえないのではないだろうか。脚本が複雑でサプライズがなくても、映画は面白くなるという良い手本である。
原作とキャスティングについて
出演はほぼこの3人だけだが(あとは旅先で出会うワンポイント出演の俳優ばかり)、ポスターにもあるように肉体をさらけだしてマッチョで言葉の汚い海兵を熱演するジャック・ニコルソンが最高だ。
彼に比べれば良識があって抑える役目のオーティス・ヤング、そして大柄なのに気弱そうな若者を演じたランディ・クエイドがいい味わいを出している。ちなみに、この俳優はデニス・クエイドの実兄だそうだ。
◇
ノーフォークからポーツマスまでのロードムービー。移動手段はグレイハウンドバスとアムトラックか。
途中どこで降り立ってバカ騒ぎしたのかは、よく分からずに観ていたが、海兵の制服姿で移動する彼らの姿に哀愁が漂っていて、「さらば冬のかもめ」とはなんて気の利いた邦題なのだろうと感心する。
原題のLast Detailは、軍事用語だとすれば「最後の雑役作業」みたいな意味らしい。いや、邦題のが断然いいじゃないか。
レビュー(ここからネタバレ)
あぶない刑事について熱く語る
なんのネタバレかって話なのだが、TVドラマ『あぶない刑事』の第24話『感傷』が、本作のオマージュというか完全酷似のストーリーなので、ちょっと並べてみたい。
- 二人のコンビが、罪を犯した若者を遠隔地の刑務所まで護衛することに
- 気立ての優しい若者が長期間服役する不運に、二人は同情を感じ始める
- 服役前に家族に会わせ、うまいものを食わせてやろうとする一人、つらくなるだけだから情をかけずにさっさと連行しようとする相棒
- 注文通りの食事が出てこない飲食店で、黙って食べる若者を制して、主張すべきはきちんと伝えるのだと、店主に作り直しさせる
- 若者から目を離し単独行動させたことに気づき、慌てて追いかけると、彼は逃げようともせずにいる
- 二人のコンビが、他の連中とケンカする場面では、若者も参戦し殴り合う
- 終盤になり、若者は服役が怖くなって逃げだそうとする
- 刑務所に引き渡す際、二人は囚人の逃亡未遂有無を問われ否定し、気に入らない上官に口ごたえする
- 任務は終わったが、なんとも言えない後味の悪さが残る
とまあ、両者には共通点だらけなのだが、本作に負けず『あぶデカ』のエピソードも、心にしみる内容だったのをよく覚えている。
南無妙法蓮華経の教え
本作では、途中の町で新兵メドウズが、日本人が中心になった集会に入りこんで南無妙法蓮華経の教えを知り、それ以降何かにつけ、ナンミョーホーレンゲーキョウと唱えるようになる。
それが妙に愛らしく、本作の不思議な味わいを更に高めているように思う。
メドウズが逃亡を図ろうとした際に、バダスキーから教わった手旗信号で「バ・イ・バ・イ」とやるあたりも、ひねりが効いているではないか。
◇
ラストはちょっと寂しくあっけない別れ方なのだが、ここをウェットな演出で見せないところがハル・アシュビーのセンスの良さだろうか。
近年、リチャード・リンクレイター監督が本作の続編として『30年後の同窓会』を作ろうとしたのも分かる。本作は数十年ぶりに観たが、流れでその続編も観てみよう。