『007/ゴールドフィンガー』
Goldfinger
ショーン・コネリーがボンドを演じた007シリーズ第3作。ボンドガールにオナー・ブラックマン。
公開:1964 年 時間:112分
製作国:イギリス
スタッフ 監督: ガイ・ハミルトン 原作: イアン・フレミング 『007 ゴールドフィンガー』 キャスト ジェームズ・ボンド: ショーン・コネリー オーリック・ゴールドフィンガー: ゲルト・フレーベ オッドジョブ: ハロルド坂田 プッシー・ガロア: オナー・ブラックマン ジル・マスターソン:シャーリー・イートン ティリー・マスターソン:タニア・マレット M: バーナード・リー Q: デスモンド・リュウェリン マネーペニー: ロイス・マクスウェル フェリックス・ライター: セク・リンダー
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
英国の金が密輸ルートで大量に国外へ流出する事件が発生。
調査を命じられた同国情報部のエージェントであるボンドは、事件の黒幕として浮かび上がってきた億万長者、ゴールドフィンガー(ゲルト・フレーベ)の行方を追うことに。
ゴールドフィンガーは、米国ケンタッキーにある巨大な金保管所フォート・ノックスで核爆発を起こし、そこにある金を放射能で汚染することによって自分が集めた金の価値を高めるという、恐るべき計画を実行に移そうとしていた。
一気通貫レビュー(ネタバレあり)
エンタメ成分増量
シリーズ3作目は、本作を含め以降4本のメガホンを取ることになるガイ・ハミルトン監督。
スパイアクションとしての原型は前作『ロシアより愛をこめて』でほぼ固まったが、本作はそこにエンタメ成分を増量しスケールアップ。由緒正しきボンドカーとしてアストンマーチンDB5がようやく登場するのも嬉しい。
◇
冒頭、夜の海から孤島の秘密工場に侵入するボンド。頭にデコイを載せたヘルメット、ウェットスーツ姿で戦って、脱いだら下には白いタキシード着用。悪ノリでも絵になるところがショーン・コネリー。
映画全体でも、笑いの要素は前作比大幅増だが、悪ふざけはギリギリのところで止まっており、一安心。女性蔑視のように次々と女を口説いては寝るヒーローも、当時は普通にアリだったのだな。
◇
タイトルバックでは、金箔を塗った女が踊るその肌にアクションシーンが投影される。そしてシャーリー・バッシーの歌でお馴染みの主題歌「ゴールドフィンガー」。
格調の高かった前作の主題歌とはだいぶ趣が異なる、腹に響くような題名連呼型の曲。タイトルを言おうとするとつい口ずさんでしまう。シリーズ最大のヒット曲のひとつ。
スペクターとは無縁の金塊大好き男
本作は『ドクター・ノオ』同様に、敵の名前がタイトルになっている。このオーリック・ゴールドフィンガー(ゲルト・フレーベ)は、黄金を異常に愛する大富豪。
興味深いことに、このゴールドフィンガー(以下GF)は、スペクターとは無縁の人物。コネリーのボンドが相手にした全対戦相手の中で、ただひとりの一般人らしい。
◇
だから、この人物の最初の登場も、マイアミのホテルのプールサイドでカード賭博のイカサマを働くというものだったし(相手のカードを背後の部屋の超望遠レンズで覗いて密告する手法がボンドにバレる)。
そしてボンドとの初対戦も、賭けゴルフをラウンドしてロストボールで不正を働いたところ、後にすり替えたボールをつかまされルール違反で負けるというもの。
どちらも、このシリーズに登場する敵の悪事としては、あまりにショボすぎる。これは、GFがスペクターではないからだろうな。
『ロシアより愛をこめて』の敵も原作ではソ連の特殊諜報部隊スメルシュだったが、映画ではスペクターに設定変更し奏功した。
だが、本作はあえてスペクターをからませず、そのためGFは世界征服やテロ活動などに関心を示さず、純粋に自分の保有する黄金に固執するのだ。
フォートノックスの金塊を盗まない?
GFは、合衆国金塊保管所フォート・ノックスの襲撃を企てる。舞台となるケンタッキーの町のシーンでカーネル・サンダースの看板が登場するが、日本にKFCがお目見えするのは公開数年後の万博からなのでまだ気づく人は少なかったか。
◇
GFの計画を知ったボンドは、「そんなに大量の金塊を短時間で運ぶのは不可能だ、それまでに逮捕されるぞ」と改心を促す。
だが、金塊を奪取し、ソ連の巡洋艦に積み込んで海外に運び去るという原作の計画と違い、映画ではGFは何も盗まない。ただ核爆破で汚染させ、58年間搬出不能にするだけでよいのだ。
この、自分の黄金の市場価格を高騰させようという計画は、発想が面白い。
GFはマイアミ、シカゴ、デトロイトなど各地からギャングのボスを集め、みんなに計画を話し小馬鹿にされるという、007作品のヴィランにあるまじき扱いを受けるのだが、結局皆殺しにしてしまう。
ギャングたちに計画を手伝わせる原作と違い、単に殺すのならなぜ招集したのか釈然としない。とはいえ、GFを演じたゲルト・フレーベは坂上二郎風のどこか憎めない風貌のせいか、作品自体もあまり凶悪な匂いがしない。
ボンドガールと敵キャラ
彼の用心棒のオッドジョブ(ハロルド坂田)も、マッチョな体躯にシルクハットと見た目は滑稽だが、本職はプロレスラーだけあって、相当強い。
鉄板入りのハットを投げて相手を殺す手口とともに、強くて恐ろしいはずのにコミカルなキャラは、のちのロジャー・ムーアの好敵手ジョーズ(リチャード・キール)に繋がっていく気がする。
◇
そしてボンドガール。GFの計画遂行メンバーのひとりで、曲芸飛行で神経ガスを散布するプッシー・ガロア(オナー・ブラックマン)が、終盤でボンドに寝返り、ラストでも抱き合っているのでメインのボンドガールなのだろう。
それにしても、イアン・フレミングはなぜ、欧米人なら口にするのも憚られるようなキワドイ役名をヒロインに付けたのだろう。
カード賭博で相手カードを盗み見ていたジル・マスターソン(シャーリー・イートン)はボンドと親しくなるが、GFの手下に金粉を全身に塗られて窒息死(これって現実には起こりえないって何十年を経て初めて知った。デマの浸透力すごっ!)。
GFに仇を取ろうとする妹のティリー・マスターソン(タニア・マレット)が、ボンドのDB5とカーチェイス。
金粉で死ぬ姉はともかく、妹のティリーは美しさとスタイルの良さで断然メインのボンドガールに見えた。だが、原作よりもはるかに短命でオッドジョブのハットの餌食になり呆気なく死んでしまう。惜しい。
ちなみに、彼女のフォード・マスタングに並走し特殊装置でパンクさせたのが(チキチキマシン猛レースっぽい)、ボンドカーのアストンマーチンの初仕事。
ボンドカーに乗った最初のボンドガールとなったタニア・マレットだが、本作以降は本業のモデル業に専念。
ダニエル・クレイグのボンド時代まで、デザインは大きく変わってもアストンマーチンが継承されているのは嬉しい。時計はオメガではなく、本作ではロレックスだったけど。
下手な演技はわざとだったのか
最後にボンドの良き友人、CIAのフェリックス・ライター(セク・リンダー)。一作目とはキャストが変わる。原作では退職し探偵になっているが、本作ではCIAのままなのかな。
ライターがボンドの情報をしっかり受信することで、土壇場で米国サイドは計画を阻止し、形勢逆転に成功する。
ネタバレになるが、映画ではプッシーたちが飛行機で散布する神経ガスで、フォート・ノックスを警備する米軍兵たちがみなその場に倒れる。
それがあまりに瞬時にみんな一斉に地面に倒れるので、なんて嘘くさい演技なんだと呆れた。だが、実はそれでよいのだった。
彼ら兵士たちは、ボンドからライターに伝わった情報で、神経ガスはすり替えられ、GFたちを欺くために、死んだふりをしていたのだから。
終盤、死んだと思われたGFがプライベートジェットの機内で突如現れボンドを襲う。だが、ボンドが銃でガラスを破ったことで、狭い窓から空中に放り出されて死んでしまう。ここも相当情けない死にザマ。
坂上二郎に似ていると前述したBFだが、幕切れまで「飛びます、飛びます」だったとは。