『アップグレード』考察とネタバレ・あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『アップグレード』考察とネタバレ|一度イップ・マンと戦わせてみたい

記事内に広告が含まれています。
スポンサーリンク

『アップグレード』
 Upgrade

体内に埋め込まれたAIチップで身体能力が飛躍的に向上。高速戦闘もお任せで、強さは滑稽さと紙一重。戦う姿がどことなくマトリックス似なのはご愛敬。気楽に観るには最適の娯楽SF。

公開:2018 年  時間:95分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:         リー・ワネル

キャスト
グレイ・トレース: 

   ローガン・マーシャル=グリーン
アシャ・トレース: 

         メラニー・バレイヨ
コルテス・ベティ: 

         ベティ・ガブリエル
エロン・キーン:  

      ハリソン・ギルバートソン
フィスク:     

       ベネディクト・ハーディ

勝手に評点:3.5 
(一見の価値はあり)

(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

あらすじ

近未来。グレイ・トレイス(ローガン・マーシャル=グリーン)は妻のアシャ(メラニー・バレイヨ)と仲睦まじい日々を送っていた。しかしある日、謎の組織に襲われ、最愛の妻を失い、自身も全身麻痺の重症を負ってしまう。

失意の中、巨大企業を経営する科学者エロン(ハリソン・ギルバートソン)からある提案をされる。彼の目的は、実験段階にある「STEM」と呼ばれる最新のAIチップを人体に埋めることだった。

手術の結果、グレイは再び体を動かすことができるようになる。そればかりか、STEMに身をゆだねると人間離れした動きができるようになり、人間を超越した身体能力を手に入れてしまう。さらに、STEMは頭の中の相棒としてグレイと対話するようになる。

身体能力を<アップグレード>されたグレイは手に入れたこの力を駆使してSTEMと共に妻を殺害した組織に復讐を誓う。

レビュー(ネタバレなし)

グレイ・トレースは人造人間である

STEMと呼ばれる、体内に埋め込まれたAIチップの力によって四肢の麻痺を克服し、人間を超越した身体能力を手に入れた男が、殺害された妻の復讐に乗り出す。どことなく既視感を感じさせるSFアクションだ。

元ネタはいろいろ思い当たるが、大けがをした男が超人的な力を手に入れるという点では、懐かしいTVシリーズ『600万ドルの男』あたりまで遡ることもできる。

STEMが宿主と脳内で会話して、主導権を渡すと超人的な戦闘能力を発揮するあたりは、『超人ハルク』的な要素もあれば、『寄生獣』的なグロテスクさもある。

簡潔にいえば、気楽に観るのが正解の娯楽SFだ。予算は600万ドルの男の下半身が造れる程度。ただ、作り方が巧いのか、チープな感じはしない。冒頭出てくる未来都市の高層ビル街などは気分を盛り上げてくれる。

自動運転の電気自動車もデザインなどは頑張っていて近未来感を醸し出していたが、後半のカーチェイスで夜のハイウェイを走っているクルマが殆ど普通の乗用車だったのは残念。

まじめに戦っているのだろうけれど

特筆すべきは、STEMの身体能力をフル活用したバトルシーンだろう。本作は基本的にコメディの線はないのだが、戦闘になると妙に笑えるのだ。

これは、STEMが相手の攻撃を読んでそれを最小の動きでかわし、急所を突くという極めて効率のよい戦法が、コミカルに見えるため。言ってみれば、カンフーアクション、或いは『マトリックス』の動きの読み合いに近い。

などと思っていたら、『ソウ』シリーズで知られるリー・ワネル監督は『マトリックス・リローデッド』にも俳優として噛んでいた。ここで何かを得たのかもしれない。

主演のローガン・マーシャル=グリーンが、コミック・リリーフ的な役を担う俳優なのか。『スパイダーマン・ホームカミング』に出演したときも、悪役ながらすぐに親分の怒りを買って灰になってしまったし。

(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

気になる点もそれなりにある

前半部分、自動運転のクルマが突如誤作動を起こし、主人公のグレイと妻のアシャを乗せて、彼の育った街ニュークラウンへと向かう。

そこでクルマは横転事故を起こし、そこに現れた謎の組織の男たちに襲撃され、妻は死に、グレイは脊椎を損傷する。

ちょっと不満をいえば、テンポのよい展開なのだが、自動運転の電気自動車はもはや近未来というのも憚られる存在であり、誤作動や誤誘導にも新鮮味はない。

アシャは魅力的なキャラだったので、こんなに早々に死なせてしまうのは、勿体ない気もした

ともあれ、ここから復讐劇は始まる。

(C)2018 UNIVERSAL STUDIOS

レビュー(ネタバレあり)

キャラの立ち方だけなら、敵陣の圧勝

実質的な主役ともいえるSTEMだが、キャラとしては実体もないし、おなじAIチップでも『her』スカーレット・ヨハンソンのように声に特徴がある訳でもない。

だが、前述の戦いっぷり以外にも、AIチップならではの真面目さや天然のボケ味が、結構楽しい。残虐な行為もイケイケだったりする。

謎の組織に属し、二人を襲ったフィスク(ベネディクト・ハーディ)サーク(リチャード・カウトーン)といった敵陣も、キャラが立っている。

フィスクのくしゃみ一つで相手を倒すのも、笑える感じの強さだし、サークのサディスティックな怖さもよい。片腕に埋め込まれたサイコガンも『コブラ』のようじゃないか。

それに比べると、STEMを開発したエロンや、なぜかいつも一人で捜査している女刑事のコルテス(ベティ・ガブリエル)などは、いまひとつインパクトが弱い気がしてしまう。

ラストについての雑感

ラストへの持っていき方は、悪くはない。こういうオチもありだろう。娯楽SFと思ってみていたが、妻の仇を討って満足するという、単純な勧善懲悪では終わらなかったということだ。

最後の最後で夢落ちだったらどうしようと心配したけれど、それが回避されただけでも良かった。

でも、人々がみな現実社会から逃避して仮想現実に暮らし始めたら、それこそ『マトリックス・リローデッド』ならぬ『マトリックス・アップグレード』になってしまうなあ。