『ブラック・サンデー』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『ブラックサンデー』今更レビュー|超満員のスタジアムに恐怖の飛行船

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『ブラック・サンデー』
Black Sunday

爆薬搭載の飛行船が超満員のスタジアムを目指して飛ぶ無差別テロ計画。公開中止となっていた幻の傑作。

公開:1977 年 (日本では2011年)
時間:143分  製作国:アメリカ
 

スタッフ 
監督:    ジョン・フランケンハイマー
原作:          トマス・ハリス
          『ブラックサンデー』

キャスト
デイヴィッド・カバコフ:ロバート・ショウ
ダーリア・イヤド:    マルト・ケラー
マイケル・ランダー:  ブルース・ダーン
サム・コーリー: フリッツ・ウィーヴァー
ロバート・モシェフスキー:
          スティーヴン・キーツ
ムハマド・ファシル:  ベキム・フェムミ
ハフェズ・ナジール:ヴィクター・カンポス
ベンジャミン・ムジ: マイケル・ガッツォ

勝手に評点:3.0
(一見の価値はあり)

    あらすじ

    ベイルートの地下組織<黒い九月>は女性メンバーのダーリア(マルト・ケラー)を使い、元米軍士官の飛行船パイロット、マイケル・ランダー(ブルース・ダーン)と結託。マイアミで開催されるスーパー・ボウルのスタジアムの観客8万人を一挙に飛行船で爆破するというテロ計画を立てていた。

    イスラエル特殊部隊のカバコフ少佐(ロバート・ショウ)とFBIのコーリー捜査官(フリッツ・ウィーヴァー)は、その阻止に動き出す。

    今更レビュー(ネタバレあり)

    幻の未公開作となった傑作

    原作は「ハンニバル・レクター」シリーズで知られるトマス・ハリスのデビュー作。

    新聞記者出身だけあって、ノンフィクションと見紛うようなリアルな迫力の大型スパイ小説を、同じくドキュメンタリータッチの手法を得意とするジョン・フランケンハイマー監督がメガホンを取り映画化した。

    米国政府の対イスラエル武器供与に報復するために、パレスチナ・ゲリラの<黒い九月>が想像を絶する方法による無差別テロを企てる。それは、1月の日曜日に、大統領も観戦にくるというスーパー・ボウルのスタジアムを、観客もろとも飛行船を使って爆破しようという恐ろしい計画。

    1977年の作品であるが、日本では公開直前に上映中止を求めるテロ行為の脅迫状が届き、公開が見送られたという曰く付きの作品である。米国内でのテロ活動がされていない当時に、来たるべき恐怖を予見していたともいえる。

    ただし、作品に罪はない。というより、テロリズムのサスペンスとしては、今見ても出色の出来である。

    日本ではビデオ発売のみにとどまっていたが、2011年に「午前十時の映画祭」の中で、初めて一般に劇場公開されたという出自がある。そんな作品を配信で鑑賞できるのは、ありがたいことだ。

    ということで、デ・ニーロ『RONIN』(1998)やベン・アフレック『レインディア・ゲーム』(2000)以来、久々のジョン・フランケンハイマー監督作品に臨む。

    ブラック・セプテンバー

    登場人物の人間関係は若干分かりにくいかもしれない。

    冒頭、女性活動家のダーリア(マルト・ケラー)がベイルートにある<黒い九月>のアジトに戻る。

    ダーリアは指導者のナジール(ヴィクター・カンポス)や幹部のファシル(ベキム・フェムミ)を前に、彼女が仲間に加えた元米軍士官マイケル・ランダー(ブルース・ダーン)が、自分たちを裏切るような人物ではないと説き伏せる。

    まさにその時、彼らのアジトはテロリスト暗殺を仕事とするイスラエル諜報特務庁の殺し屋・カバコフ少佐(ロバート・ショウ)らに囲まれている。

    夜襲をかけられナジールは射殺、ダーリアはただの愛人と誤認され、逃げ延びたものの、犯行声明の録音テープが敵の手に渡り、何らかのテロ行為が計画されていることに気づかれてしまう。

    この段階では、誰を主役として観ればいいのか、まだ判然としない。ダーリアは米国に行き、計画を遂行するためにマイケルに協力する。

    マイケルは米軍で優秀な飛行船パイロットだったが、ベトナムで捕虜となったことで人生を踏み外し、帰国しては妻との離婚や米軍の冷酷な仕打ちなどで、報復への決意を固めていった人物だ。

    彼の計画は、乗っ取った飛行船に大量の爆弾を積んでスーパー・ボウルの試合会場に突撃し、観客を皆殺しにしようというもの。

    だが米国ではプラスチック爆弾が入手できず、ダーリアたちの協力を求めたのだ。こうして、<黒い九月>とマイケルとの共闘が進んでいく。

    計画準備が着実に進む

    一方のカバコフ少佐は米国内でのテロ行為により市民感情がイスラエル支持から離れるのを防ぐために、FBIに協力しながら、この計画を身体を張って阻止しようとする。

    そこだけを切り取れば、これはカバコフ少佐が主人公のスパイアクションのように見えるが、この作品が奥深いのは、単純に「テロは悪」という勧善懲悪の構図にしていないことだ。

    カバコフ少佐にこれまで同志を大勢殺されたゲリラ側にも、仇を討ちたいという感情がある。

    米国に鉄槌を下す自分たちの行動こそ正しいと信じるダーリアにも、不遇の人生をひっくり返してやりたいと願うマイケルにも、主人公にみえる瞬間が何度かある。

    勿論、無差別テロ行為には肯定できる理由などひとつもない。だが、マイケルが丁寧に作り上げていく爆破プランの準備には、ピカレスクのロマンがある。

    飛行船の設計図から計算し、船の下部にぶら下がるよう船底型に成型したプラスチック爆弾(粘土みたいにこねて叩いてもいいのだと知る)。殺傷能力を高めるために爆弾の外側に埋め込んだ無数のライフルダーツ(いわゆる釘爆弾か)。

    破壊力のテストのために、荒野にあるセスナ機倉庫に入り込んで、そこにいた男もろとも爆破させてみる。四方の壁に無数の穴が均等に空き、そこから陽光が差し込むシーンは、原作にない映画ならではの危険な美しさだ。

    飛行船の圧倒的な迫力

    飛行船に爆破という組み合わせは、巨匠ロバート・ワイズ監督の『ヒンデンブルグ』(1975)が有名だが、あちらは乗客がいるパニック映画で、本作とはまた恐怖感が違う。

    飛行船は、ずんぐりとした胴体がアザラシのように愛らしい存在だが、そこに大量破壊兵器が詰まれているというギャップに背筋が凍る。降り立つ先も満員のスタジアム。スーパー・ボウルといえば、全米で最も集客できるイベントではないか。

    対戦するのがピッツバーグ・スティーラーズVSダラス・カウボーイズだったので、1976年1月の設定だったのだろう。

    この手の作品で実在のチームの使用許諾がよく下りたものだと思うが、それをいうなら、飛行船の広告スポンサー<グッドイヤー>は懐が大きいな。そりゃ確かに露出は多いけど、イメージダウンにならないのか。

    もっとも、ジョン・フランケンハイマー監督は『グラン・プリ』(1966)というF1レース題材のヒット作もあり、同社とは信頼関係があったのかも。

    キャスティングについて

    キャスティングについて触れると、カバコフ少佐ロバート・ショウは、『007ロシアより愛を込めて』(1963)や『スティング』(1973)など、私が思い出すのはいつもギャング系の悪党。『バルジ大作戦』(1965)で一躍主役級に。

    マイケル・ランダーを演じたブルース・ダーンは、『華麗なるギャツビー』(1974)でレッドフォードの恋敵。近年では『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(2013)で宝くじ当選に騙される主演の老人役が印象的。

    ダーリア・イヤド役のマルト・ケラーは、『マラソンマン』(1976)でハリウッド進出。イーストウッド監督の『ヒア アフター』(2010)は、本作のように脅迫状ではないが、日本では震災影響で公開自粛した経緯あり。

    ラストシーンについて

    本作のクライマックスは当然ながら、爆薬を積んでスタジアムに向かう飛行船を、カバコフ少佐が止められるかどうかという展開になる。

    70年代の作品となると画質は粗いが、CG全盛であまりにクリアな映像よりも、こっちの方がリアルに見える気がする。

    結末について詳細は触れないが、原作と映画では若干内容が異なる。どちらかというと、原作のほうが短編小説のような切れ味であっさりと、かつ過激に終わる。

    映画ではそこまでは踏み込めなかったのだろう。若干予定調和な感は否めない。とはいえ、あの時代にここまでのスペクタクルを撮るとは、さすがフランケンハイマー監督。大したものだ。