『ムーラン・ルージュ』
Moulin Rouge!
バズ・ラーマン監督が、ニコール・キッドマンとユアン・マグレガーの共演で贈る異色ミュージカル。
公開:2001 年 時間:127分
製作国:オーストラリア
スタッフ 監督・脚本: バズ・ラーマン 脚本: クレイグ・ピアース キャスト サティーン: ニコール・キッドマン クリスチャン: ユアン・マクレガー ロートレック: ジョン・レグイザモ ハロルド・ジドラー:ジム・ブロードベント ウースター公爵:リチャード・ロクスバーグ アルゼンチン人: ジャセック・コーマン ニニ: キャロライン・オコナー マリー: ケリー・ウォーカー ドクター: ギャリー・マクドナルド オードリー: デビッド・ウェナム ショコラ: デオビア・オパレイ
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
ポイント
- 1900年頃のナイトクラブを意識した作り込み、正統派ミュージカルの雰囲気なのに、突如聞こえてくるのは現代のヒット曲のアレンジ。
- この異文化のカオス状態にはじめは違和感を覚えるが、次第に心地よくなっていく。バズ・ラーマン監督の遊び心とニコール・キッドマンの華やかさがあってこその作品。
あらすじ
舞台は1899年、パリの魅惑的なナイトクラブ、ムーラン・ルージュ。
作家を目指してパリに出てきたばかりのクリスチャン(ユアン・マクレガー)は、このクラブの花形スターであり高級娼婦のサティーン(ニコール・キッドマン)と恋に落ちる。
が、彼女を我がものにしようとするウースター公爵(リチャード・ロクスバーグ)が登場し、悲劇が起こる。
今更レビュー(ネタバレあり)
レッドカーテン三部作のトリ
『ダンシング・ヒーロー』(1992)から始まったバズ・ラーマン監督の<レッドカーテン・トリロジー>、『ロミオ+ジュリエット』(1996)を経て、本作に続く。
社交ダンスの世界を描いた『ダンシング・ヒーロー』や、シェイクスピアの古典的名作を現代のメキシコに置き換えて新解釈を加えた『ロミオ+ジュリエット』。
三部作といっても、全て風合いは大きく異なり、本作は堂々たるミュージカル。いずれの作品も、バズ・ラーマン監督作品常連の脚本家クレイグ・ピアースが手掛けている。
世紀末のパリ(といってもY2Kではない)、大人気を誇るキャバレー「ムーラン・ルージュ」の一番人気のスターで高級娼婦サティーン(ニコール・キッドマン)と、貧乏作家のクリスチャン(ユアン・マクレガー)が激しい恋に落ちる話だ。その絢爛豪華な世界観に、アカデミー賞では美術賞と衣装デザイン賞を受賞している。
冒頭のお馴染み20世紀フォックスのファンファーレから凝っている。あの映像と音源だが、それがステージの上で指揮者の動きとともに流れるのだ。
<20世紀>を冠した社名のスタジオが、その時代の始まる1900年を舞台にした作品を、その次の世紀が始まる2001年に公開する。何ともキリがいい話だ(もう20年以上前の作品になるのか、感慨深い)。
現代のヒット曲との融合
だが面白いことに、オープニングからその後にムーラン・ルージュで支配人ハロルド・ジドラー(ジム・ブロードベント)の掛け声とともに派手に繰り広げられるカンカン踊りあたりまでは、丁寧な時代考証に基づいて撮られた作品のように錯覚したが、次々と流れる音楽を良く聴くと、なんとこれは現代音楽ではないか。
私が何となくそれに気づいたのは、“Diamonds Are a Girl’s Best Friend”だったか。これってモンローの『紳士は金髪がお好き』の曲じゃないの?などと不思議に思い始め、“Material Girl”(マドンナ)が歌われたあたりから確信に変わる。
◇
その後から流れてくる、或いは歌われる曲も、20世紀のヒットナンバーがふんだんに混じり込んでいる。
”Your Song”(エルトン・ジョン)を筆頭に
”All You Need Is Love”(ビートルズ)
“I Will Always Love You”
(ホイットニー・ヒューストン)
“Roxanne”(ポリス)
“Up Where We Belong”
(ジョー・コッカー&ジェニファー・ウォーンズ)などなど、枚挙にいとまがない。
台詞として歌詞が使われる
“Like a Virgin” (マドンナ)や
“The Show Must Go On”(クイーン)
といった例まである。
ミュージカルの世界観とこれらの現代曲の融合を許容できないという人もいるのかもしれない。でも、バズ・ラーマンが古典的な世界をそのまま素直に映画化するような監督でないことは、『ロミオ+ジュリエット』で学んでいるはずではないか。
聴いている方が小っ恥ずかしくなるほどベタで万人向けな選曲だと言いたくなるのは分かる。エッジの効いた曲ばかりだった前作とは様変わりだ。
だが、別にラジオのヒットメドレーを聴いている感じではなく、どの曲も、きちんとこの作品のために用意周到にアレンジされている。だから私には耳心地のよいミュージカルだった。
ベタな音楽にはベタなドラマ
作家を目指して憧れのパリにやってきた貧しい若者クリスチャン(ユアン・マクレガー)が、同じアパートに住む連中たちとの出会いから、ひょんなきっかけでムーラン・ルージュの舞台用に歌詞を書くことになる。
一方、ステージには一番人気の花形スターで高級娼婦のサティーン(ニコール・キッドマン)。ちょっとした偶然の手違いで、彼女は、この若者が、自分を女優にしてくれるという公爵だと勘違いする。
そして二人は惹かれ合うが、すぐに本物のウースター公爵(リチャード・ロクスバーグ)が登場し、店の権利証を手に入れ、彼女を独占しようとする。
公爵の目を盗みながら、リハーサルと称してクリスチャンと密会を続けるサティーン。だが、そんな交際が長続きするはずもなく、彼女は裕福な暮らしか純愛かの選択を迫られることになる。
芝居の台本の結末を変え、女主人公には貧乏なシタール奏者との純愛ではなく裕福なマハラジャとの生活を選ばせるよう、クリスチャンに命じる公爵。勿論それは、彼らの三角関係のメタファだ。
そんなストーリー展開に加えて、サティーンは不治の病に冒され、余命わずかという、選曲にまけないくらいストーリーもベタな設定なのだが、ミュージカルだもの、こういうので、いいんだよ(孤独のグルメ風)。
誰かを愛し、その人から愛されること
本作は単純に歌と踊りに酔いしれれば、それでOKな作品なのだ。ユアン・マクレガーもニコール・キッドマンも、吹き替えなしで歌に臨んでいるようだが、ちゃんと聴かせるだけの歌唱力になっているのは大したものだ。
特にニコール・キッドマン。花形スターの役が似合いすぎる眩しさ。本作と同じ2001年に『アザーズ』(アレハンドロ・アメナーバル監督)、2002年に『めぐりあう時間たち』(スティーブン・ダルドリー監督)、2003年『コールドマウンテン』(アンソニー・ミンゲラ監督)と、作品にも恵まれ、脂の乗っている時期だった。
ちなみに、ユアン・マクレガーは『スターウォーズ』シリーズでオビ=ワン・ケノービに明け暮れていた時代である。また、公爵を演じたリチャード・ロクスバーグは、バズ・ラーマン監督の新作『エルヴィス』でプレスリーのお父さん役を演じている。
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「新作のテーマは愛だ」と語るクリスチャン。“Love is Like Oxygen” ベタなのは映画の中だけではなく、バズ・ラーマン監督自身も、「愛によって人が変わることを描きたかった」と正面切って語ってしまう。
「この世で最高の幸せは、誰かを愛し、その人から愛されることだ」
いやまあ、同感だけどさクリスチャン、さすがにその台詞は今世紀には青臭すぎるぜ。