『麗しのサブリナ』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『麗しのサブリナ』今更レビュー|クロップドパンツじゃないよ

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『麗しのサブリナ』
 Sabrina

オードリーがビリー・ワイルダー監督と組んだ初作品。共演はハンフリー・ボガートにウィリアム・ホールデン。

公開:1954 年  時間:113分  
製作国:アメリカ
  

スタッフ 
監督:        ビリー・ワイルダー
原作:       サミュエル・テイラー

キャスト
サブリナ・フェアチャイルド:
               オードリー・ヘプバーン
ライナス・ララビー:ハンフリー・ボガート
デヴィッド・ララビー:
         ウィリアム・ホールデン
トーマス・フェアチャイルド:
          ジョン・ウィリアムズ
オリヴァー・ララビー:
          ウォルター・ハンデン
エリザベス・タイソン: マーサ・ハイヤー

勝手に評点:3.5
    (一見の価値はあり)

あらすじ

仕事熱心な長男のライナス(ハンフリー・ボガート)が家業を継ぐ大富豪ララビー家。運転手の娘サブリナ(オードリー・ヘプバーン)は、遊び人の次男デヴィッド(ウィリアム・ホールデン)に恋をしている。

父親トーマス・フェアチャイルド(ジョン・ウィリアムズ)や使用人仲間は不毛な恋を忘れさせるため、サブリナをパリへ送り出す。

二年後、サブリナは洗練された淑女となって帰国。その変貌ぶりに、デヴィッドは使用人の娘であることに気がつかない。

今更レビュー(ネタバレあり)

モノクロの画面に際立つ魅力

大成功を収めた『ローマの休日』に続きオードリー・ヘプバーンが主演したのは、巨匠ビリー・ワイルダー監督によるロマンティックコメディ『麗しのサブリナ』。少々味気ない名前だけの原題にわざわざ形容詞を付した邦題は、印象にも残りやすく宣伝部員の工夫を感じさせる。

前作の王女さまから、本作では大富豪家に仕えるショーファーの一人娘と、だいぶ庶民的な役になった。お相手は贅沢に、人気絶頂期のウィリアム・ホールデンと名優ハンフリー・ボガートの組み合わせ。

「この娘はふくらんだ胸の女性の魅力を過去のものにするだろう」

ビリー・ワイルダー監督がオードリー・ヘプバーンを本作に迎えた時の発言は、今の時代なら何かと議論を呼びそうではあるが、見事に将来を言い当てていた。

細すぎる身体は本人にとってはコンプレックスであったというが、その体型を生かしたオードリーのファッションセンスと美しさは、世界中の男性陣のみならず女性陣をも虜にした。

月に手を伸ばした美しい娘

多方面の業種で成功を収めている財閥のララビー家。庭の鯉にまで専属の担当をつけるほどの大富豪家で、何台もの高級車を管理する運転手のトーマス・フェアチャイルド(ジョン・ウィリアムズ)が、妻に先立たれ育てた一人娘がオードリー扮するサブリナ。

ララビー家のビジネスはワーカホリックの長男ライナス(ハンフリー・ボガート)が一手に担い、プレイボーイの次男デヴィッド(ウィリアム・ホールデン)は毎晩社交界で浮名を流している。

そんなデヴィッドに秘かに好意を寄せるサブリナに気づいた父トーマスは、「月に手を伸ばすのは止めろ」と身の程知らずの恋をする娘をパリの料理学校に留学させる

失意のサブリナは、閉め切ったガレージで全てのクルマのエンジンをかけて自殺を図るが、偶然みつけたライナスに命を救われる。

50年代の作品とあって、男尊女卑的な役割配置と見かけだけの色男に憧れるうぶな娘という設定は、単純といってしまえばそれまでだ。だが、オードリーが出ているだけでどこか気品のある映画に思えるし、まだ美しい蝶に孵るまえのちょっと田舎娘っぽいサブリナも、また魅力的。

モテモテだが軽薄そうなデヴィッドのウィリアム・ホールデンは、全盛期だけあって溌剌としている。後に『パリで一緒に』オードリーと再共演した頃のくすんだ感じはない。まあ、本作の公開当時は二人は恋愛関係にあったというから、輝いていて当然か。

月の方から手を伸ばしたくなる娘

パリの料理学校で何年か修行を積んで、久々にララビーの家に戻ってくるサブリナ。

ファッション誌のグラビアから飛び出したような洗練された格好とヘアスタイルで、トランクを持って駅に佇む彼女を偶然みつけ、ナンパするデヴィッド。彼女が誰だか分からず、家までクルマで送り届ける。

洗練されて別人のような美しい女性になっているパターンは、『マイフェアレディ』にも通じる。サブリナをどこかの令嬢と思っているデヴィッドは質問を重ねる。

「お父様はどういう仕事?」
「運輸関係よ」
「自動車関係だろう?クライスラーかい」
「クライスラー、ロールスロイス、メルセデス…」
「すごいな、それ全部の重役なのかい」
「うーん。そうね、動かしてるわ」

この辺のやりとりがとても楽しい。さすがビリー・ワイルダー監督は、こういう笑いの取り方がうまい。

パリに行かせても、相変わらずデヴィッドと仲の良い娘に父親はやきもきするが、「今度は、月が私に手を伸ばしているのよ」と語るサブリナは、以前にはなかった自信を持ち始めている。

大人のレディになったサブリナは、けしてデヴィッドに愛想を尽かしたわけではないが、堅物の兄ライナスに惹かれるようになっていく。ライナスもまた彼女に特別な想いを抱き始めるが、仕事最優先の彼はそれに気づかず、また認めようともしない。

オードリーとジバンシイの蜜月

本作の役がケーリー・グラントに断られて回ってきたと知り、プライドを傷つけられたハンフリー・ボガートは、NGを何十回も繰り返すオードリービリー・ワイルダー監督に良い感情を持っていなかったといわれる。そう思って映画をみると、確かに不機嫌そうにも見える(そういう顔か)。

だが、脚本の書き直しが間に合わないビリー・ワイルダーオードリーに頼んでわざとNGを重ねて時間稼ぎをしたという裏事情もあったとかで、その後ボギーは死に際に監督に非礼を詫びて復縁したという後日談がある。

ファッションについても、いろいろなエピソードが残っている。本作では『ローマの休日』に続きイーディス・ヘッドアカデミー賞の衣装デザイン賞を獲っている。本作で目を引いた衣装はジバンシィの作だとみんな分かっていたが、彼の名前はクレジットされていない。

映画で着ていた服は、忙しいジバンシィに新たにデザインする余裕がなかったため、オードリーが彼の作品から自ら選んだものだったからだ。

まあ、今になってはそんな裏話は些細なことで、本作以降、オードリージバンシィ一辺倒で衣装を任せるようになっていく。

本作での彼女のショートにしたヘアスタイルは<サブリナ・カット>として流行し、終盤に登場するスリムフィットのパンツは、70年近く経過しようとしている現代もなお<サブリナ・パンツ>の名で定着している。彼女はインフルエンサーの走りと言っていい。

株なら知らんがキスなら分かるよ

新規事業の会社合併のために弟のデヴィッドにエリザベス・タイソン(マーサ・ハイヤー)との三度目の政略結婚をさせようとしているライナスは、障壁となりそうなサブリナを、再びパリに送り返そうと画策する。

自分と一緒に乗船チケットで渡仏する手はずを整え、そのまま彼女だけを船で送り出してしまう算段だ。ここから話は二転三転する。

ライナスを好きになっていたサブリナは、一緒にフランスに連れて行ってもらえると知り喜ぶも、ライナスの口からそれが彼女だけを追い出す策略であることを聞き、傷つく。

ライナスは弟の政略結婚を破談にして、デヴィッドをサブリナと船に乗せてあげようと考える。それが彼女にとって幸福だと考えたのだ。

会社合併を決める取締役会の日の朝、デヴィッドがライナスを殴る。ようやくウィリアム・ホールデンにも見せ場がやってきたぞ

「株のことは分からんが、キスなら分かるよ」

前の晩、サブリナがデヴィッドと交わしたキスは別れの味がした。愛の達人デヴィッドはサブリナのことも兄のことも分かっていた。取締役会など投げ出して、サブリナを追いかけて一緒に船でパリに行けと弟が兄の背中を押すのだ。

愛に目覚め、全てを投げ出しララビー社のタグボートに乗って客船に向かうライナス。

パリは飛行機じゃなく人生を変える街よ

ベタな恋愛ドラマにしてしまうとクサすぎる物語なのだが、デヴィッドがシャンパングラスに座って尻を縫うことになったり、カクテル用の瓶詰のオリーブが取り出せずに兄弟の父親が四苦八苦したり、ライナスの秘書が取締役会で気付け薬を準備して待っていたりと、結構随所にボケが散りばめられていてバランスが良い

「クルマの前と後ろの席には仕切りがあるのだ」と最後まで身分の差を娘に言い聞かせる父親だったが、その仕切りをぶち壊した娘。

トランジットの35分しかパリに降り立ったことのなかったライナスに、「パリは飛行機じゃなくて人生を変える街よ」と。そのパリに、愛するライナスと旅立つサブリナ。最後は切れ味良くハッピーエンドで終わる。

エディット・ピアフで有名な「La Vie en rose」の旋律が美しい。

哀愁漂うエンディングの『ローマの休日』は日本人好みだが、ハッピーエンド好きのアメリカ人は本作をオードリーの代表作に挙げる人が多いと聞いたことがある。いずれも彼女の魅力を最大限引き出した作品のひとつといえる。