『ターミネーター:ニューフェイト』
Terminator: Dark Fate
新たな敵Rev-9の強さと変幻自在ぶりは確かに目をみはるが、そんなのT2の警官で感動し尽くしたよ。
公開:2019年 時間:1時間58分
製作国:アメリカ
スタッフ 監督: ティム・ミラー 製作: ジェームズ・キャメロン キャスト サラ・コナー: リンダ・ハミルトン ダニー・ラモス: ナタリア・レイエス グレース: マッケンジー・デイビス T-800: アーノルド・シュワルツェネッガー REV-9: ガブリエル・ルナ
勝手に評点:
(悪くはないけど)
コンテンツ
ポイント
- T2の正当な続編を作りたい気持ちは痛いほどわかるが、これでは誰に何を見せたいのかさっぱり分からない展開。古いメンバーを引っ張り出せばいいわけではない。
- 本作見るなら、昔の作品見直した方が、精神衛生上もよい。たとえキャメロンでもT2を超えることなど、見果てぬ夢だったか。
あらすじ
メキシコシティで父と弟と普通の生活を送っていた女性ダニーのもとに、未来からターミネーターREV-9が現れ、彼女の命を狙う。
一方、同じく未来からやってきた女性グレースが、ダニーを守るためにREV-9と壮絶な戦いを繰り広げる。
何度倒しても立ち上がってくるREV-9にダニーとグレースは追いつめられるが、そこへ、かつて人類を滅亡の未来から救ったサラ・コナーが現れる。
レビュー(まずはネタバレなし)
ターゲット層はどこだ
『ターミネーター2』(以下T2)の正当な続編だそうだ。うーん、気持ちは分かるぞ、ジェームズ・キャメロン。
T1、T2と切れ味のよい作品がメガヒットを飛ばしたあとで、映画としては実に5作目まで作られたか。振り返れば、駄作と呼ばれて存在が忘れ去られた作品も含め、全部観ている。
T2以降の作品は確かにCGの精度は上がったのかもしれないが、映画としての構想の斬新さや面白さは、最高傑作であるT2にはとても敵うものではなかった。
だから、キャメロンがあの世界観を取り戻したい気持ちはごもっとも。なのだが、本作を観ていちばん気になったことは、メインターゲット層をどこに置いたのだろうということだ。
イマドキ世代の目線
『スターウォーズ』やマーベル・ヒーローものならともかく、若い年齢層には<ターミネーター>といっても訴求しないだろう。
シュワちゃんがヤカン振り回して日本のCMに出ていた、はるか昔のことなど知る由もない。
そんな観客層が初めて本作を観た時に、古傷つっつく昔話ばっかり勘弁とか、高齢者二人になぜこんなにスポットを当てるのか意味不明、ってことにならないだろうか。
◇
敵役Rev-9の強さと変幻自在ぶりは確かに目をみはるが、いまどき『X-Men』のミスティーク(はい、全身青い女の人です)だって、そのくらいのことはできる。
いや待て、変幻自在キャラなら『アベンジャーズ』のロキだな、Rev-9ってどことなく、トム・ヒドルストン似だし。
と、どこまでこの映画がイマドキ世代の共感を得られるか。
オッサン世代の目線
一方、われらオッサン世代のターゲット層はどうだろう。サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)があんなにカッコよく年取って、しかも流麗に動けるなんてと、感動するのはありだ。
T-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)はCGで顔をいじっているのか、劇中で写真に出てくる若い頃とはちょっと別人だった。身体も縮んだような気がする。
◇
なので、とりあえずこの二人が出てくるのは懐かしいのだが、それ以上何がある?
T2を超える要素が、何かあるだろうか。確かにRev-9は怖くて強くて不気味にカッコいい。
だけど、そんなのT2に出てきた敵役T-1000で、30年前に既に感動しつくしているはず。警官姿のT-1000が全力疾走でクルマに追いつく驚愕のシーンは、未だに目に焼き付いている。
Rev-9のキャラ以外にも、本作でT2のオマージュと思われるシーンが多々あった。
- 未来から地上に突如球体が現れ全裸で出てくる登場方法
- ”I’ll be back.” や” I won’t be back”のセリフ
- 自己犠牲で相手を道連れにするところ
それならいっそT2を観直したほうが、よほど精神衛生上もよいとさえ思う。
レビュー(ここからネタバレ)
どうにも腑に落ちない
リンダ・ハミルトンとシュワルツェネッガーばかり報道でも目立つが、今回のあくまで主役はグレース(マッケンジー・デイビス)とダニー(ナタリア・レイエス)だろう。
『ゴーストバスターズ』や『オーシャンズ8』のように、女性中心のメンバーで戦うのが現代のデフォルトになっている。
もはや、サラ・コナーのような、未来のリーダーを産んでくれた女性を守ろうではなくて、未来のリーダーは女性だという構想の転換。
これは時代を反映してもいるし、全然OKなのだが、シリーズを通じて守ってきたはずのジョン・コナー少年の扱いが、あれでいいのか。いきなりの消失感なんだけど、次回作とかに絡んでくるのか。
どの口が言う、カール
極め付けは、どうにも分からない、T-800が戦う理屈だ。
彼は、スカイネットから刺客として過去に送り込まれ、未来のリーダーになるジョン・コナーを子供のうちに抹殺したのでは。
そのT-800はサラが未来を変えたことでスカイネットから解放され、なんと現代でカールと名乗り、妻や息子と暮している。
◇
ジョンを殺したことには良心が咎め、未来から刺客が送り込まれるたびに、サラにその所在を匿名で知らせ、彼女に生きる目的を与えてきたのだ、と。
どの口が言うのか、カール。そりゃ、サラが殺意を抱くわけだ。息子を殺した本人に、こんな理屈こねられても、納得できないのが道理。
それならば、今回のラストシーンに感動している場合ではなく、本当はサラがこの怪物T-800を撃ち殺したかったはずなのに、と悔しがってあげるべきではないかと思ってしまった。