『世界』今更レビュー|東武ワールドスクウェアじゃダメかな

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『世界』
 The World

ジャ・ジャンクー監督がチャオ・タオ主演でテーマパークを舞台に描く非日常。

公開:2005年 時間:133分  
製作国:中国

スタッフ 
監督:    ジャ・ジャンクー(賈樟柯)


キャスト
タオ:       チャオ・タオ(趙濤)
タイシェン:チェン・タイシェン(成泰燊)
サンライ:  ワン・ホンウェイ(王宏偉)
二姑娘:    ハン・サンミン(韩三明)
ウェイ:      ジン・ジュエ(景捷)
ニュウ: チャン・チョンウェイ(蒋中偉)
ヨウヨウ:    シャン・ウェン(向雯)
チュン:  ファン・イーチュン(黄依群)

勝手に評点:3.0
 (一見の価値はあり)

(C)2004「世界」製作委員会

あらすじ

北京郊外にあるアミューズメント・パーク「世界公園」。エッフェル塔やピラミッド、 タージ・マハールや五重塔といった世界40ヶ国109ヶ所のモニュメントが10分の1に縮 小、再現されている観光スポット。

この公園でダンサーとして働くタオ(チャオ・タオ)は、毎日あでやかな衣装を身にまとい舞台に立っている。あるときはインドや日本の民族衣装を、またあるときはスチュワーデスのいでたちで ……。

今更レビュー(ネタバレあり)

北京市郊外に実在するテーマパーク”世界公園“に所属するダンサーたちの日常を描く。

15年以上前に観た時には、まだジャ・ジャンクー監督の作品がどういうものかよく分かっていなかったせいか、凡庸な出来ばえに思えた。

いま、改めて観ると、これが面白い。北京五輪を前に経済も近代化も盛り上がりを見せる北京の空気を、前作『青の稲妻』以上に醸し出している。

中国の若者の青春の純度は前作に及ばないが、舞台となった世界公園に働く若者たちの生き様は、より近代化されており、退廃ムードも漂う。

(C)2004「世界」製作委員会

映画は「誰かバンドエイド持ってない?」と舞台裏を大声で探し回る主人公タオ(チャオ・タオ)を長回しで撮るところから始まる。ジャ・ジャンクー作品のミューズの役名は、いつもチャオかタオだ。

やがてタオが一人でスカイトレインなる小さなモノレールに乗っていたり、広大な敷地の背景にエッフェル塔やらマンハッタン、ピラミッドが現れたりで一瞬混乱するが、彼女はこのテーマパークのダンサーの一員なのだ。

(C)2004「世界」製作委員会

北京を出ないで、一日で世界を回ろう。世界各地のミニチュア建築とは言っても、東武ワールドスクウェアとはスケールが違う。

エッフェル塔には登れるし、ロンドン橋やスフィンクスの大きさもさすがは中国大陸の広大さを思わせる。

こんな摩訶不思議な環境を舞台に、タオはその恋人で警備主任のタイシェン(チェン・タイシェン)とともに、日々を過ごしている。

タオの元カレがモンゴルに旅立つ前に彼女に会いに来てヤキモキするタイシェン。タオの同僚のウェイ(ジン・ジュエ)と携帯で連絡がつかないだけで怒る恋人のニュウ(チャン・チョンウェイ)

男はみな嫉妬深く、女への支配欲が強い。若い男女が痴話喧嘩したり仲直りしたりの日常が、非日常的なテーマパークの中での繰り広げられているのが面白い。

ジャ・ジャンクー監督が好む雄大な中国の自然や河川は出てこないが、代わりに世界各地の建造物が彩りを添え、ゆったりと進む130分に退屈はしない。

さらに、節目節目で登場する恋人からのケータイのメッセージの場面が、独特の風合いのアニメーションになるところも、アクセントになっている。

(C)2004「世界」製作委員会

タイシェンは同郷の先輩から、借金を作って逃げた男のもとに、その姉のチュン(ファン・イーチュン)を連れて行くように命令される。

チュンにはフランスに暮らす夫がいたが、長年離別していた。年上熟女に惹かれるタイシェンはアプローチを始める。

そんなことはつゆ知らず、ダンサー仕事に専念するタオだが、親しくなったロシア人女性のダンサーが売春をさせられている店で鉢合わせしたり、親会社の重役と不倫している同僚のヨウヨウ(シャン・ウェン)がチームの団長に出世したりで、心が荒む。

(C)2004「世界」製作委員会

一方のタイシェンも、出稼ぎに来ていた幼馴染のサンライ(ワン・ホンウェイ)が、弟の二姑娘(ハン・サンミン)建築現場で事故死させてしまったことに衝撃を受ける。わずかな借金を返そうと、無茶な残業をしてしまったのだ。

このエピソードは、広大な建築現場の風景と相俟って、華やかに成長する北京経済の物寂しい一面をみせつける。

もう一つのカップル、タオの同僚ウェイは嫉妬深い恋人についにブチ切れて別れを持ち出すと、男は自分の服に火をつける。これには驚いた、行動にというか、役者の命がけの撮影に

だってこの時代の低予算の中国映画だ。特撮でもないし、スタントでもない。結局これがきっかけなのか、後日二人は結婚する。

タオはタイシェンのもとにチュンから届いたメールを見てしまい、怪しい関係を察知する。自分を避けるタオを探し続けてタイシェンはようやく彼女をみつける。きつい表情のタオは何も語らない。

映画はラスト、この二人の会話を見せずに、翌朝に一酸化炭素中毒で倒れて発見される二人を写し出す。

「俺たち、死んだのか」
「いいえ、これは新しい始まりよ」

最後の台詞は音声だけで、二人は目も口も開かない。この中毒が事故であれば、あまりに偶然すぎるだろうから、話し合った末の心中ということなのだと思う。

(C)2004「世界」製作委員会

ニュウが自分に火をつけて恋愛成就したのなら、俺だってタオに覚悟を見せてやるとタイシェンは考えたのか。タオは巻き添えで死んだのか、裏切りを許して添い遂げようと思ったのか。それは分からない。

最後に会話をしているのだから、二人とも生き残ったのではないか。いや、それなら目を開けるべきだろう。これは魂の交信なのだと解釈した。

こうでもしなければ、二人は模造品でできた世界から抜け出られなかったのだ。