『スイート・イースト 不思議の国のリリアン』
The Sweet East
不思議の国アメリカに続く秘密の出口から、リリアンが目にしたものは何か。
公開:2025年 時間:104分
製作国:アメリカ
スタッフ
監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ
キャスト
リリアン: タリア・ライダー
ケイレブ: アール・ケイブ
ローレンス: サイモン・レックス
モーリー: アヨ・エデビリ
マッシュ: ジェレミー・O・ハリス
イアン: ジェイコブ・エロルディ
モハマド: リッシュ・シャー
勝手に評点:
(悪くはないけど)

コンテンツ
あらすじ
サウスカロライナ州の高校3年生リリアン(タリア・ライダー)は、恋人トロイや親友テッサ、アナベルら同級生たちと一緒に、修学旅行でワシントンD.C.を訪れる。
どこか物憂げなリリアンは、はしゃぐ同級生たちを冷めた目で眺める。夜、皆でカラオケバーへ繰りだした彼女たちは、陰謀論に取り憑かれた男による銃乱射事件に巻き込まれてしまう。
派手なパンクファッションのケイレブ(アール・ケイブ)に導かれて店のトイレに逃げ込んだリリアンは、大きな鏡の裏にある“秘密の扉”から地下通路を通って旅に出る。
レビュー(ネタバレあり)
修学旅行で不思議の国へ
えっ、何の映画なのこれ、という摩訶不思議な展開のまま最後まで駆け抜けてしまった異色作。インディペンデント映画界を代表する撮影監督ショーン・プライス・ウィリアムズの初監督作。
監督の映画マニアぶりは、NYに実在したシネフィルの聖地キムズビデオ(ドキュメンタリーが今夏公開)で長年バイトしていたという経歴からも窺い知れる。
主演のタリア・ライダーは、世界が絶賛したという『17歳の瞳に映る世界』が個人的には全然ダメだったので嫌な予感がしたが、今回も面白味が共感できない映画だった。
主人公の女子高生リリアン(タリア・ライダー)は、学校の悪ガキどもと修学旅行でワシントンDCへ。怪しそうなカレシと一緒だが不機嫌そうなリリアン。はじめから不穏。
こんな不良学生たちをみると、同じ女子高生の修学旅行でも日向坂46の『ゼンブ・オブ・トーキョー』はなんとお行儀のよい映画だったのだろう。
◇
DCのカラオケバーのような店で騒いでいると銃乱射事件が勃発し、近くにいたパンクファッションの男、ケイレブ(アール・ケイブ)に助けられ、二人で裏口にある真っ暗な通路へ逃げ込む。

このあたりが、『不思議の国のアリス』を意識した場面なのだろう。
だが、リリアンが彷徨う不思議の国は現代アメリカであり、そこで彼女は次から次へと、現代の闇に遭遇していくという展開らしい。彼女が渡り歩くのが東海岸だから、『スイート・イースト』なのだろうか。
東海岸を渡り歩く旅
ケイレブは怪しいアクティビストで、リリアンにはイチモツを披露するだけで襲い掛かったりはしないが、仲間たちとともに抗議活動に彼女を連れ出す。

だがどうやら場所を間違え、気が付けば彼女は極右の大学教授でナチス支持者のローレンス(サイモン・レックス)と出会い、彼の家に泊めてもらう。こうして紳士的なローレンスとの不思議な同棲生活がしばらく続く。
『レッド・ロケット』ではクズのAV男優役だったサイモン・レックスが、本作の男どもで一番紳士的な役を演じているのは愉快だ。

そしてリリアンは、ローレンスが怪しいスキンヘッドの男から仕事だといって受け取った大金入りのバッグを、何とNYCの旅行中に持ち逃げする。頂き女子リリアン、何がしたいんだ、一体。
バッグを抱いて逃走するリリアンが、映画の主演女優にイメージぴったりと街中でスカウトをするアフロヘアの男女、モーリー(アヨ・エデビリ)とマッシュ(ジェレミー・O・ハリス)の誘いに乗り、なんとリリアンは映画に出演。

そこで女に手の早い人気俳優イアン・レイノルズ(ジェイコブ・エロルディ)と意気投合。
◇
だが、イアンとパパラッチされた写真が雑誌の表紙を飾ったせいか、スキンヘッド男が彼女を追いかけてロケ場所へ。ここで映画のクルーたちと激しい撃ち合いになり、みな死んでしまう。
リリアンは、クルーの一員であるモハマド(リッシュ・シャー)に救出され、バーモント州まで車で連れて行かれ、兄がイスラム教コミュニティとして運営する敷地内の人里離れた納屋に匿われる。

米国の闇は広がっていく
そんなこんなで、東海岸のあちこちに広がる米国の闇を次々と渡り歩いていくリリアンだが、本人は何事にも怖気づくことなく、楽しそうにさえ見える。
結局リリアンはイスラムの連中から無事に逃れ、修道院の敷地で倒れているところを司祭に助けられ、無事に実家に帰宅する。
そこではみんながサッカースタジアムのテロ事件のニュースを見ている。リリアンは庭に出るが、そこには大きな星条旗が飾られている。ここで幕が下りるのか。
この映画はアメリカの地理だとか、社会問題となった事件や時事ネタを何年分も抑えていないとなかなか堪能できない。
公式サイトにネタバレ注意のキーワードがいくつか紹介されており、観賞後に見るように注意書きがあるが、どれも初めてお目にかかる代物ばかりで、これは楽しめないわけだとハラ落ちした。
現代アメリカの闇に詳しい人以外には、迂闊に勧められない映画だと思った。