『リンダ リンダ リンダ』今更レビュー|ペ・ドゥナ、ボーカルやれるってよ

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『リンダ リンダ リンダ』

山下敦弘監督がボーカルにペ・ドゥナを起用したガールズバンド映画の金字塔。

公開:2005年 時間:114分  
製作国:日本

スタッフ 
監督・脚本:       山下敦弘
脚本:          向井康介
            宮下和雅子
キャスト
ソン:         ペ・ドゥナ
山田響子:        前田亜季
立花恵:         香椎由宇
白河望:         関根史織
丸本凛子:        三村恭代
今村萠:         湯川潮音
中島田花子:       山崎優子
小山先生:        甲本雅裕
槙原裕作:      松山ケンイチ
大江一也:        小林且弥
阿部友次:        小出恵介
前園トモキ:       三浦誠己

勝手に評点:3.5
(一見の価値はあり)

(C)「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

あらすじ

とある地方都市の高校。文化祭を目前にしたある日、軽音楽部の5人組ガールズバンドのギタリストが指を骨折し、内輪揉めによってボーカルが脱退してしまう。

残された3人のメンバーは途方に暮れながらも、成り行きから韓国人留学生ソン(ペ・ドゥナ)を新しいボーカルとして迎え、ザ・ブルーハーツのコピーバンドを結成。文化祭最終日の本番に向けて練習を重ねていく。

今更レビュー(ネタバレあり)

奇跡のような一本だ。監督の山下敦弘と脚本の向井康介の名コンビにして生まれた作品であることに異論はないが、計算して出来上がったものではない。

そこに韓国人留学生としてペ・ドゥナという起爆剤を投入したことによって、予想外の化学反応が生じた結果なのではないかと思う。

高校の文化祭用に即席で結成されたガールズバンドの物語。元々は5人組のバンドだったが、ギターの今村萠(湯川潮音)が指を骨折したのをきっかけに、中心的な存在だった立花恵(香椎由宇)丸本凛子(三村恭代)が仲違い。

バンドは空中分解寸前だったが、誰かボーカルを参入させて、文化祭でザ・ブルーハーツのコピーバンドをやろうと盛り上がる。

はキーボードから急遽ギターに転向、ドラムスに山田響子(前田亜季)、ベースに白河望(関根史織)。最初にこの通路を歩いてくる娘をスカウトしよう。そこに登場するのが、韓国からの留学生ソン(ペ・ドゥナ)

「ソンさん、バンドのボーカルやらないっ?」
「あ、はい」
「嫌じゃないよね?」
「嫌じゃないよ」

訳わからずに安請け合いするソン。こうして急ごしらえのガールズバンドが生まれる。

(C)「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

ハッキリ言って、脚本は粗っぽい。普通ならきちんと描かれそうな、恵と凛子の内紛の対立構造も、近親憎悪のひとことで片付けられ、ろくに説明されない。

女子高生の青春デイズだから、各バンドメンバーにも告ったり告られたりのエピソードがあるにはあるが、どれも宙ぶらりん状態のままで本筋にはあまり絡まない。

だが、それでいいのだ。だって、文化祭までの数日間は、脇目もふらずにザ・ブルーハーツの練習漬けになり、本番ステージにあがるための映画なのだから。それ以外の付随的なエピソードは、この際何でもいいのである。

はじめは聴けたもんじゃないレベルの演奏だったのに、特訓を重ねて次第に腕を上げていく。そこだけを切り取ると、ありがちな展開になってしまうが、韓国人のソンを加えたことで、一気に多様性の幅が広がる。

(C)「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

ドリンク持ち込みを強行した独りカラオケでザ・ブルーハーツを練習するはずの彼女が、途中で飽きて安室奈美恵を歌っているのが微笑ましい。

軽音でバンドを組んでいたような人なら勿論のこと、それ以外の活動に打ち込んでいた人だって、みんなそれぞれの高校文化祭の甘酸っぱい思い出に浸ってしまうのではないか。

少し年季の入った校舎や部室も雰囲気十分。屋外プールや開放的な屋上は、やはりこの手の映画には欠かせない舞台装置だ。

夜の学校に侵入して宿直の先生に見つかりそうになる展開も自分の記憶と重なるなあ。先生役にブルハ甲本ヒロトの弟、甲本雅裕を起用しているのも、憎い。

(C)「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

ドラムスの響子には、子役時代から活躍し『バトル・ロワイヤル』等にも出演の前田亜季
ギターの役には、同年公開の『ローレライ』で映画デビューし、本作で一機に注目を浴びた香椎由宇
役には、現在もBase Ball Bearで活動中のベーシスト、関根史織

そしてソン役にはペ・ドゥナ。大きな瞳をギョロつかせて、とぼけた演技をする彼女を観ると、山下敦弘監督が『ほえる犬は噛まない』(ポン・ジュノ監督)の演技でオファーしたというのも肯ける。

本作や『空気人形』(是枝裕和監督)に出演したことで、その後ハリウッドにも進出。ペ・ドゥナが世界に羽ばたくきっかけとなった作品ともいえる。

なお、恋愛がらみのサイドストーリーは淡泊だが、顔ぶれは濃厚。

ソンに突然告白してくる男子生徒マッキー松山ケンイチ、響子と相思相愛っぽいが何も言えない関係の大江小林且弥、恵のかつて付き合っていた先輩で充電中無職の前園三浦誠己

軽音部長の小出恵介が恋愛枠で出場していないところが意外ともいえる。

文化祭前夜に夜中まで一生懸命に練習しすぎて、当日も開始時間になってもスタジオで寝過ごしてしまうメンバー。

さすがにステージで演奏できずに映画が終わることはないにせよ、彼女らが大雨のなか学校に到着するまでのツナギを、指を骨折したの歌唱と、先輩格の中島田花子(山崎優子)のギター弾き語りで引き受ける。

このステージがまた圧巻だ。体育館の聴衆がみんな引き寄せられる。

そしてどうにか、真打登場。ここでようやくザ・ブルーハーツ『リンダ リンダ』無事に熱唱。やっぱ盛り上がる曲だわこれ、と再認識。体育館も一体化して熱くなる。

『リアリズムの宿』をはじめ、これまでダメ男ばかりを撮り続けてきた山下敦弘監督が、突如ガールズバンドものの金字塔をぶち上げてしまうなんて、誰が想像しただろう。

(C)「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

学園祭ものの傑作といえば『桐島、部活やめるってよ』だが、あの映画にでてきたスクールカーストや、その上位にいるド派手な美少女たちが出てこない分、この映画は素朴な味わいがある。

バンドメンバーの4人でさえ、さほどウェットな関係でないところがまたよい。ここでクサい青春キメ台詞とかがでてくると萎えるが、それらは封印して、ひたすらザ・ブルーハーツ直球勝負の歌詞を投げ込んでくるのだ。

歌詞と同様、映画も直球勝負だな、しかも「リンダ」が曲名よりひとつ追加されている。