『オーストラリア』
Australia
バズ・ラーマン監督が第二次大戦直前のオーストラリアを舞台に描くアボリジニのドラマ。
公開:2008年 時間:165分
製作国:オーストラリア
スタッフ
監督・脚本: バズ・ラーマン
キャスト
サラ・アシュレイ: ニコール・キッドマン
ドローヴァー: ヒュー・ジャックマン
ナラ: ブランドン・ウォルターズ
ニール・フレッチャー:デビッド・ウェナム
キング・カーニー: ブライアン・ブラウン
キプリング・フリン:ジャック・トンプソン
マガリ: デヴィッド・ングームブージャラ
キング・ジョージ:デヴィッド・ガルピリル
ダットン大尉: ベン・メンデルソーン
勝手に評点:
(一見の価値はあり)

コンテンツ
あらすじ
1939年。ロンドンで暮らす貴族の妻サラ(ニコール・キッドマン)は、1年以上も帰ってこない夫が向かったオーストラリアへ。
夫の領地にたどり着いたサラだが、彼女を待っていたのは荒れ果てた屋敷と夫の遺体。彼は領地を狙う近隣の牧場主一派によって殺されたのだ。
抵当に入れられた領地を守るためには1500頭の牛を遠く離れたダーウィンの港に運ぶしかない。彼女は粗野なカウボーイ、ドローヴァー(ヒュー・ジャックマン)の助けを借り、9000キロの旅に出発する。
今更レビュー(ネタバレあり)
ラーマン・キッドマン・ジャックマン
その名の通り、雄大なオーストラリアを舞台に、夫の残した領地を守ろうとする英国貴婦人の苦難の旅や先住民アボリジニとの交流を描いたラブロマンス。
監督はバズ・ラーマン、主人公の勇敢な英国人女性にニコール・キッドマン、牛追いで生計を立てる地元の荒くれ者にヒュー・ジャックマン。
麻雀じゃないから、ラストネームを萬子で揃えてきたわけではない。同国出身のバズ・ラーマンは、オーストラリア人俳優にこだわったのだ。

時代は第二次世界大戦の前夜、日本軍の侵攻も時間の問題という情勢。英国貴族のレディ・サラ・アシュレイ(ニコール・キッドマン)は1年も帰国しない夫の最後の所有地である、オーストラリアの牧場ファラウェイ・ダウンズを訪れる。
だが、待っていたのは、夫の亡骸と荒れ果てた牧場。管理を任せていたニール・フレッチャー(デビッド・ウェナム)が、このあたりを牛耳る大牧場主キング・カーニー(ブライアン・ブラウン)と結託して、牛を盗んでいたのだ。
気丈なサラはフレッチャーを即刻解雇するが、抵当に入れられた領地を守るためには1500頭の牛を遠く離れたダーウィンの港へ持って行き、軍との食料用牛肉の契約をするしかない。
こうしてサラは、現地で頼りにするように亡き夫に言われていた、ドローヴァー(ヒュー・ジャックマン)に救援を請うことになる。

みんなで牛を運ぶ旅に
下着類を詰め込んだサラのスーツケースを、ダーウィンの酒場で荒くれ者と殴り合うドローヴァーに放り投げられる二人の出会い。彼女の身近にはこんなワイルドな男はいなかったのだろう。激しい拒否反応から始まる。
だが、彼に送迎してもらったファラウェイ・ダウンズでは、解雇したフレッチャーの腹いせのせいで牛たちは敷地から逃げてしまい、すぐにでもドローヴァーの助けが必要になる。
こんな分かりやすい流れで、二人を中心に、牧場に働くアボリジニたちは親しくなっていく。
その中で映画の語り部的な役を担う、肌の色からクリーミーと揶揄される混血の少年ナラ(ブランドン・ウォルターズ)は、不思議な力を持ち、映画全体の神秘性を高めていく。

スペクタクルなラブロマンスである本作は、舞台をアトランタからオーストラリアに移した『風と共に去りぬ』を目指したようにも見える。
同じヴィクター・フレミング監督の『オズの魔法使』の主題歌「虹の彼方に」や映画自体が本作では重要な役割を担っていることからも、この二作にはバズ・ラーマン監督のオマージュがあるのだろう。
◇
一口に牛を遠く離れた港町まで移すといっても、その数1500頭は圧巻だ。牛追いの人数も必要だが、身内をかき集めて最低限の人数を捻出する。

ボスはドローヴァー。ナラ少年はじめアボリジニの使用人数名に乗馬のできるサラは勿論、アル中の会計士キプリング・フリン(ジャック・トンプソン)まで断酒して参加。
彼らが力を合わせて厳しい旅を続けるが、そこにカーニーの命を受けてフレッチャーの妨害が入る。火に追われた牛たちが断崖に向かって暴走するのを、命がけで制止する息を飲む場面は、この作品の真骨頂といえる。
フレッチャーの台頭
一方、ダーウィンの港では、キング・カーニーが自分の牛を高くダットン大尉(ベン・メンデルソーン)に売りつけようとしている。
押し切られて契約にサインをしてしまうが、そこからサラたちがどのように形勢を逆転させるか。ここは当然にして盛り上がるのだが、私はそこが本作のクライマックスなのだと思い込んでいた。
だが映画は165分あり、この勝負がつくのはまだ全体の折り返し地点あたり。つまり、牛を移して軍に売るだけの映画ではなく、後半には次なるスペクタクルが控えているのだ。
そこで台頭してくるのが、憎きフレッチャー。キング・カーニーに無能呼ばわりされるだけの間抜けな部下という位置づけなのだと思っていたら、何とボスをワニの餌にしてしまい、その娘キャサリン(エッシー・デイヴィス)を娶って社長の後釜に座るのだ。
思えばこのフレッチャー、サラの夫殺しの罪をナラ少年の祖父で呪術師のキング・ジョージ(デヴィッド・ガルピリル)に擦り付けた張本人。筋金入りのワルなのだった。
地位と金を手に入れたフレッチャーは、自分をコケにしたサラや、自分の悪事を密告したナラに対し、報復を始める。そこにきてついに開戦。日本軍の戦闘機が、ダーウィンに攻め込んでくる。
日本軍が侵略者扱いで登場するのは、中国や韓国の映画では珍しくないが、オーストラリア映画となると意外だった。
日本兵による侵略行為?
日本兵はオーストラリアの無線設備があるという伝道の島を攻撃するが、そこには避難していたナラがいる。下手すると、アボリジニ目線ではフレッチャー以上に怖く残虐な存在として描かれている日本兵にはちょっと戸惑う。

何でも、史実では日本軍は島を攻撃はしても、上陸はしていないそうだ。この映画ではナラを救出しようとしたアボリジニが日本兵に取り囲まれて射殺されるが、そこはフィクションということか。
◇
さて、後半では諸般の事情で散り散りになってしまったサラとドローヴァー、そしてナラ少年。これが戦争の混乱の中でようやく再会を果たす。予定調和なのは、このジャンルではお約束だから、異論はない。
最後にナラを射殺しようとするフレッチャーに必殺の一撃を加えるのは、ウルヴァリンではない。だってアボリジニの映画だから。
そういえば、アボリジニの過酷な人生と子供を失った女囚の復讐を描いた『ナイチンゲール』(2018)という映画もあった。どちらも、英国植民地時代のオーストラリアを知るいい教材になった。
終盤、ナラ少年が一人で旅に出たいと言っていたのは、<ウォーク・アバウト>と呼ばれる、アボリジニの男性が長期間の旅に出て原野での生活を経験する通過儀礼のことだ。
これを描いた映画『美しき冒険旅行』(1971)はニコラス・ローグ監督の傑作と呼ばれているらしい。一つの映画から、新たに知らなかった作品に出会えることは映画ファンの醍醐味だ。次はこれ行ってみよう。
それにしてもバズ・ラーマン監督が、派手さやロック音楽抜きで、こんなスペクタクル・ラブロマンスの王道映画を撮っていたとは驚いた。