『ピーウィーの大冒険』今更レビュー|慣れれば楽しいピーウィー・ハーマン

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『ピーウィーの大冒険』
 Pee-wee’s Big Adventure

ティム・バートンの長編初監督作はピーウィー・ハーマンとの不思議なケミストリー

公開:1985年 (日本では劇場未公開)
時間:90分  製作国:アメリカ

スタッフ 
監督:         ティム・バートン


キャスト
ピーウィー・ハーマン:ポール・ルーベンス
ドティ:      エリザベス・デイリー
フランシス・バクストン:マーク・ホルトン
シモーヌ:    ダイアン・サリンジャー
ミッキー:       ジャド・オーメン
執事:      プロフェッサー・タナカ

勝手に評点:3.0
  (一見の価値はあり)

あらすじ

ピーウィー・ハーマン(ポール・ルーベンス)はオリジナルカスタマイズされた赤い自転車が大のお気に入り。ある日、買い物に出かけた彼は、何者かに大切な自転車を盗まれてしまう。

調査中に訪れたインチキ占い師にテキサスのアラモに向かうよう告げられ、早速旅立つことに。ピーウィーの果てしなく、とんでもない冒険が始まる。

今更レビュー(ネタバレあり)

2023年の7月に、ピーウィー・ハーマンのキャラクターでかつて一世を風靡したポール・ルーベンスが亡くなったニュースで、久々にその名を目にした。

バスター・キートンが現代に甦ったかのようなピーウィー・ハーマンという道化なキャラクターは、日本ではどこまで認知されていたのだろう。

バブル時代に証券会社のCMに起用されたことや、とんねるずが番組でパロっていたのは何となく覚えている。

だが、むしろ人気絶頂だったポール・ルーベンスが、ポルノ映画館で自慰行為をして逮捕された事の方が記憶として鮮明なのは、皮肉なものだ。

本作は、そのポール・ルーベンス映画初主演にして、ティム・バートンの長編初監督作。映画のヒットでピーウィーは子供たちに大人気となるが、当時の日本では新人監督と無名な主演俳優だったせいか、映画は劇場未公開。

ティム・バートン監督がピーウィーの映画を企画したわけではない。

1984年に短篇『フランケンウィニー』を撮り、業界にその名が徐々に注目されだしたティム・バートンが、目下売り出し中のピーウィーを世に知らしめてくれる、才能のある監督を探していたポール・ルーベンスの目に留まる。

こうして二つの異能が運命的に出会うことになる。

あくまで子供相手のキャラであるピーウィー・ハーマンの出演作を、まともに観るのは今回が初めてなのだが、今更ながらポール・ルーベンスの稀有な存在に驚かされる。

序盤に繰り広げられる数十分は、耐えきれぬほどの責め苦だった。免疫がないものには、正体不明のこの強烈なキャラにはとても馴染めない。

ピチピチのタイツのようなタイトなスーツ蝶ネクタイポマードで固めた頭に白塗りのような青白い女性的な顔立ち、そしてルージュを塗ったような血色のよい唇

一目見たら忘れられない容貌のピーウィー・ハーマンは、24時間ハイテンションで、独居の家の中でも大きな声で独り言、そして特徴的な乾いた笑いは懐かしきロードランナー(in『ルーニー・テューンズ』)の「ミッ、ミッ!」に近い響き。

パントマイマーのような大袈裟な動きと表情何もかもが目障りでうるさいこの主人公の映画に、何故90分も付き合わなければいけないのか?

そう思い始めた頃に、アクシデントが起きる。馴染みの自転車屋の前に、チェーンでがんじがらめにして駐輪しておいたピーウィーの大切にしているカスタマイズされた赤い自転車が、何者かに盗まれてしまうのだ。

映画は、彼がその盗まれた自転車を探し求めて、テキサスはアラモまで大冒険に行く話なのである。

そして不思議なことに、物語が動き出すと、当初に感じていたピーウィーへの抵抗感がきれいに消え失せていき、彼の突飛な行動が待ち遠しくなる。ああ、ゾーンに入ったような感覚。ただ、慣らされてしまっただけなのかもしれないが。

そもそも、アラモに彼の愛車があるわけではなく、インチキな占い師に適当なことを言われただけなのだ。こうして奇妙な冒険は始まる。

  • ヒッチハイクで乗せてもらったのが気のいい脱獄犯だったり(警察の検問を突破する際に女装するピーウィーが実に女性らしいのに驚く!)
  • 次に乗せてもらったトラックのドライバー大女マージが10年前に死んだ幽霊だったり
  • パリに憧れるウェイトレスと親しくなって、その彼氏に襲われそうになったり
  • バイカー軍団に囲まれるも、「テキーラ」を踊り狂って意気投合したり

いや、くだらなさが癖になるわ。

ティム・バートン色はけして濃厚ではないが、ピタゴラ装置のような仕掛で朝食を勝手に作る場面が『チャーリーとチョコレート工場』を彷彿とさせたり、大女マージの顔が一瞬『マーズアタック』のように変形したりと、その後の世界観を予感させるようなものもあって楽しい。

 

終盤、ワーナーの撮影スタジオに忍び込んで、自分の自転車を取り戻そうとするピーウィーが、あちこちの撮影スタジオに乱入しながら逃走する。

この時に、バートンの大好きなゴジラキングギドラもどきの特撮を撮っているシーンがある(後にワーナーは東宝に訴えられたようだけど)。

ゴジラの件はともかく、ピーウィーが逃げ回ってメチャクチャになったシーンを各スタジオのカメラが撮っていて、それが縁でピーウィーの映画化が決まる

主演は彼ではなく、似ても似つかぬ俳優が演じるのだが、まるで007のようなスパイアクション。

その完成版がドライブインシアターで上映され、ピーウィーの友人たちがみんなで鑑賞するという、なんとも能天気なハッピーエンドなのだが、子供向けコメディなのだから、そうでなくてはいけない。

ポール・ルーベンスは後にティム・バートン監督の『バットマン リターンズ』にも出演するが、ピーウィーとは似ても似つかない普通の外見だったので、全く気付かなかった。

ピーウィーの映画としては、2016年にNETFLIXで新作『ピーウィーのビッグ・ホリデー』が配信された。ポール・ルーベンスティム・バートンに監督を要望したが、大物になってしまったからか多忙ゆえか、謝絶されてしまったようだ。

2023年、Disney+配信の『クイズレディ』が、ポール・ルーベンスの遺作となった。