『青の帰り道』
藤井道人監督が真野恵里菜や横浜流星ら7人の若者で描いた群馬の青春グラフィティ
公開:2018年 時間:120分
製作国:日本
スタッフ
監督・脚本: 藤井道人
脚本: アベラヒデノブ
原案: 岡本麻里
キャスト
カナ: 真野恵里菜
キリ: 清水くるみ
リョウ: 横浜流星
タツオ: 森永悠希
コウタ: 戸塚純貴
マリコ: 秋月三佳
ユウキ: 冨田佳輔
キリの母: 工藤夕貴
タツオの父: 平田満
橘: 山中崇
セイジ: 淵上泰史
工場長: 嶋田久作
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
2008年、東京近郊の町でまもなく高校卒業を迎える7人の若者たち。
歌手を夢見て地元を離れ、上京するカナ(真野恵里菜)。家族と上手くいかず実家を出て東京で暮らすことを決めたキリ(清水くるみ)。
漠然とデカイことをやると粋がるリョウ(横浜流星)。カナとの音楽活動を夢見ながらも受験に失敗し地元で浪人暮らしのタツオ(森永悠希)。
できちゃった婚で結婚を決めたコウタ(戸塚純貴)とマリコ(秋月三佳)。現役で大学に進学し、意気揚々と上京するユウキ(冨田佳輔)。
7人がそれぞれに大人への階段を上り始めて3年後、夢に挫折する者、希望を見失う者、予期せぬことに苦しむ者。7人7様の人生模様が繰り広げられる。卒業しても変わらぬ友情を誓う7人だったが…。
今更レビュー(まずはネタバレなし)
男女は7人で盛りあがるもの
舞台は群馬県前橋市。青々とした田んぼを貫いてまっすぐ伸びる田舎道を通学路に、7人の高校生が楽しそうに制服姿で自転車に乗っている。時代は2008年。嗚呼、青春グラフィティ。これが「青」の帰り道なのか。
青々と広がる田畑に学生服の組み合わせは『リリイ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)のようであり、田舎を捨てきれずに故郷に戻る若者の葛藤の日々は『ここは退屈迎えに来て』(廣木隆一監督)を思い出させたりもする。
いや、それにしたってトレンディドラマの祖といわれる『男女7人夏物語』を例に出すまでもなく、男女は7人が盛り上がるのだ、年齢は関係なく。
どんなに仲が良くたって、高校を卒業すれば、仲間たちはそれぞれの人生を歩むことになる。みんな揃って進学する都会の付属校ならともかく、大抵はそこで日常の付き合いがリセットされる。
この映画の主人公たちも例外ではなく、半分は上京し、半分は群馬に残る。
◇
元ものまねタレントのおかもとまりの原案をもとに、藤井道人監督が映画化した。2016年に出演俳優の一人だった高畑裕太が逮捕されたことで一時企画は暗礁に乗り上げた。
キャストの入れ替えと再撮影で2018年の公開まで漕ぎつけたが、おかもとまりはもう岡本麻里となり、クレジットにひらがな表記を残して芸能界を引退してしまった。
藤井道人監督は本作の翌年公開の『新聞記者』で一躍名を挙げ、以降作風が多岐にわたっていくが、当時はこんな青臭い映画も撮っていたのだ。
藤井監督作品には早くから常連だった横浜流星が出演しているので、どうしても彼を中心に映画を観てしまっていたが、本作の主演は彼ではなかった。
キャスティングについて
七人の中心にいるのは、高校から音楽活動を続け、プロを夢みて上京するカナ(真野恵里菜)である。
上京して所属した事務所の担当(藤井監督作品には欠かせないクセ者俳優・山中崇)の方針で、不本意なニンジンのかぶり物で<無添加カナコ>として売れていく。
何の着ぐるみだろうが、ひときわキュートで目立ってしまう真野恵里菜は、さすが元アイドルだ。
カナの親友で、実家を出てカナのマネージャーとして東京で暮らすキリ(清水くるみ)。趣味の写真が縁で出会ったカメラマンのセイジ(『BAD LANDS』のラスボス、淵上泰史!)と同棲を始めるが、これがとんだDV男だと発覚する。
故郷の母(工藤夕貴)とも確執があり、複雑系陰キャのキリに清水くるみが似合う。『桐島、部活やめるってよ』でも、派手な女子ばかりの勝ち組4人衆で一番謙虚だった娘。
そして卒業後は工場で働くも、「俺はもっとでっかいことするんで」と誰彼問わず噛みつき、職場の銅線盗みに加担して工場長(嶋田久作)に解雇される、目立ちたがりのビッグマウス、リョウ(横浜流星)。
上京して彼はオレ詐欺のメンバーとなり、老人に電話をかけまくる。『正体』で善人ぶりを発揮し、大河ドラマの主演にまでなった横浜流星が、こんなに情けなく暴走する迷惑男を演じることは、今では考えにくい。
そんなリョウとは対照的に、いつも沈着冷静なタツオ(森永悠希)は、高校時代のカナとの音楽活動を夢見ながらも受験に失敗し、病院に勤める父(平田満)の影響で医大を目指し地元で浪人暮らし。
目立たない愛されキャラだが、彼がカナの音楽の才能を引き出し、カナの最も良き理解者だ。厳しい父のせいで音楽から離れて勉強を強いられ、引きこもりになってしまう。森永悠希はいつもいいヤツだなあ、『市子』でもそうだった。
できちゃった婚で結婚を決めたコウタ(戸塚純貴)とマリコ(秋月三佳)は、七人の中では唯一のサークル内恋愛カップル。コウタはリョウと同じ工場勤めだったが、出産を機に正社員となり、リョウとは溝ができる。
戸塚純貴は逮捕騒動後の急遽の代役だったが、なかなかの好演。やがて子供が生まれるこの夫婦は、荒波にのまれる仲間たちの中で、唯一地に足のついた生活を送っている安心材料。
最後に、現役で大学に進学し意気揚々と上京する、いじられキャラのユウキ(冨田佳輔)。就職活動に苦労した末に保険会社に入るも、ノルマに追われる日々。彼もまた、幸福そうにはみえない。
一番おとなしそうなユウキでさえも、うるさく乱暴者のリョウに遠慮せずにモノ申す。時には殴り合い、つかみ合いもあるが、この仲間たちはみんな本音で付き合っているのだ。
今更レビュー(ここからネタバレ)
ここからネタバレしている部分がありますので、未見の方はご留意ください。
2009年の鳩山由紀夫の民主党政権交代、東京タワーからスカイツリーに主役交代、適度に社会情勢を織り交ぜながら、大都会でもまれ、傷ついていく若者たちの姿を映画は描き出す。
そしてその痛みの頂点は、故郷で受験勉強もやめ引きこもった末にタツオが亡くなってしまったことだ。その喪失感を受け容れられず、葬儀で再会した仲間たちは、タツオがなぜ死んだかも知らないまま大喧嘩を始める。
見かねた父親は息子の友人たちに「帰ってくれ」というが、この仲間たちがタツオのことを誰よりも気にかけ、だからこそのつかみ合いの喧嘩なのだ。こんな仲間が泣いてくれる葬儀は、温かい。
不幸は連鎖しようとしている。タツオの死に最も傷ついたのは、ともに音楽活動を志したカナだ。
二人で作った大事な曲は、デモテープを事務所の橘(山中崇)にアイドル歌手の新曲に盗用される。自分が着ぐるみタレントにしかなれず、結局タツオを傷つけ死なせたのは、事務所に自分を売り込んだキリのせいだと、カナはキリを責める。
キリは交際相手が結婚詐欺で逮捕されたこともあり、傷心で群馬に帰省する。みんながバラバラに瓦解しかけ、カナがリストカットで自死を選んだとき、最後のメールを見てリョウが部屋に駆けつける。
彼の行動力が、土壇場で彼女を救い、仲間との絆をもう一度繋ぎ直す。リョウは血の気の多い厄介者なのだが、カナの意を汲んで、事務所の担当をボコボコに殴りに行くところが憎めない。
結局、タツオは自殺したわけでなく、彼がカナのために歌詞をつけて録音した曲が、最後に流れる。これが主題歌になっているAmazarashiの「たられば」。この曲は映画とマッチしている。
2018年。男女6人は、タツオの墓参りのために故郷に集まる。2008年の冒頭のシーンと同じ、田んぼを貫く青の帰り道で、当時の彼らを思い出させる男女の集団が制服姿で下校してくる。
この場面はノスタルジイに浸れる。どこにでもある青春映画なのかもしれないが、ちょっと心に刺さる。男子校育ちの私には、望んでも手に入らなかった思い出なのが悔しい。