『カメレオン』
丸山昇一が松田優作に書いた脚本をもとに、阪本順治監督が藤原竜也主演で贈るハードボイルド。
公開:2008年 時間:97分
製作国:日本
スタッフ
監督: 阪本順治
脚本: 丸山昇一
キャスト
野田伍郎: 藤原竜也
小池佳子: 水川あさみ
春川公介: 塩谷瞬
吉田純: 波岡一喜
大北達男: 西興一朗
木島高: 豊原功補
厚木義武: 岸部一徳
傭兵: 菅田俊
パク・ソヒ
梶原悟: 萩原聖人
境研造: 谷啓
山村修次: 犬塚弘
山村典子: 加藤治子
勝手に評点:
(一見の価値はあり)
コンテンツ
あらすじ
カメレオンのようにいくつもの顔を持つ野田伍郎(藤原竜也)は、何の疑いも持たれず安い詐欺を繰り返し、金を奪ってきた。
ある日、仲間たちといつもの詐欺に成功した帰り道で偶然、政府要人の拉致現場を目撃。それが原因で命を狙われるようになり、仲間たちが次々と殺されてしまった。
伍郎が街で知り合った占い師の小池佳子(水川あさみ)も事件に巻き込まれてしまい、怒りに震えた伍郎はついに復讐を計画する。
今更レビュー(ネタバレあり)
カメレオン座の男
ドラマ『探偵物語』や『野獣死すべし』等、松田優作の多くの作品で脚本を書いてきた丸山昇一が、かつて優作のために書いた『カメレオン座の男』という作品を、現代風にアレンジし阪本順治監督が映画化。
主演は、阪本作品には初出演となる藤原竜也。ちょうど『デスノート』がヒットしていた直後あたりの作品だ。
◇
冒頭、藤原竜也が演じる主人公・野田伍郎が、夜道で占星術の占い師をやっている女・小池佳子(水川あさみ)に、「老後が不安だから占ってくれよ」とからむ。
「そっち(あんた)、星座はカメレオンね」と、粋な台詞を交わす出会いのシーン。ハードボイルドな映画の雰囲気がいい感じに漂う。
場面は変わり、伍郎が友人(塩谷瞬)の結婚披露宴の司会をしていると、高利貸しの取り立てにチンピラ(波岡一喜)が騒ぎ立てに入ってくる。
主賓である新郎の勤務先の社長夫妻(犬塚弘、加藤治子)や番頭(谷啓)も怒って立ち去る始末。資産家の新婦の父(平泉成)は、「こんな縁談は破談だ。祝儀は手切れ金代わりにくれてやる」と娘を別れさせる。
◇
だが、これは売れない一座(犬塚弘、加藤治子、谷啓)と組んだご祝儀目当ての集団詐欺だったのだ。
そのホテルで偶然出会ったヤバそうな連中(豊原功補、菅田俊、パク・ソヒ)が、地下駐車場で何者かをクルマに押し込む姿を彼らは目撃する。
それが大臣(岸部一徳)の裏金疑惑の証人になる人物だったことが分かるのだが、敵はすでに伍郎たちのアジトをつかんでおり、彼らは命を狙われることになる。こんな感じで物語は進んでいく。
完全にヤバい状況に
詐欺師集団がもっと大きな事件に巻き込まれていく流れだが、伍郎のプロフィールは特に謎めいており、なぜ裏の世界にも明るいのか、なぜ喧嘩が滅法強いのかも、多くは語られないままだ。
身の危険を感じた伍郎は敵のヘッドである木島(豊原功補)のもとに直談判に行き、「俺たちは何も喋らないから見逃してくれ」と頼む。彼を信じた木島は、殺す手間が省けたとカネを与えて伍郎を解放する。
だが、そんな伍郎の苦労もしらず、公介(塩谷瞬)がカネ欲しさで木島たちが拉致する盗撮映像をマスコミに流してしまったことから、伍郎たちは、完全にヤバい状況に陥ってしまう。
藤原竜也のもじゃもじゃ頭はどうみても違和感があるが、あれもアフロヘアだと思えば、『探偵物語』なんかのイメージと繋がるものなのだろうか。特徴的なサングラスの着用も、同じような効果がある。
松田優作と藤原竜也は雰囲気も体型もあまり共通点が見いだせず、本作に松田優作を感じることはほとんどないが、それでも伍郎が無謀な状況の中で敵のアジトに乗り込んで行く姿には、ちょっと優作ハードボイルドの匂いが感じられる。
アクションに見応えあり
藤原竜也のバトルアクションはなかなかの迫力だが、特に彼を執拗に付け狙う傭兵たちが良かった。菅田俊は相変わらずの気迫と存在感だが、その右腕として動き回るパク・ソヒも怖い。
そして、もっと怖いのが婦人警官の制服姿で襲い掛かるカンフーアクションの女。彼女が一番不気味で見応えがあったかもしれない。
ハイヒールでの猛烈な蹴りやどれだけ攻撃しても戦意喪失しない人間離れした動きなど、圧巻だった。女優の名前をいろいろ調べたけど、分からなかったのが残念。
伍郎と佳子が敵の警察車両を盗んで逃げ回り、パトカーを一般車両が追いかけてくるという不思議な映像が面白かったが、たった二台とはいえこのカーアクションも迫力があった。この手の映像はクルマの台数が勝負ではないのだ。
カーチェイスで迷い込んだ廃工場のような敷地で、狭い通路をクルマが二階に上がっていくと、そこは通路の真ん中が大きく底抜けしている。
うまく逃げ回って、敵車両をその穴に落とし込むわけだが、このカット割りが迫力満点で、舞台装置をうまく生かしたアクションに感心する。
終盤に一矢報いるのだが
仲間たちが次々と殺されていく緊迫感に、愛する佳子を助けようとする伍郎の男の美学なども盛り込み、藤原竜也のハードボイルドは松田優作よりも幾分マイルドな味わい。
水川あさみの扱いがもっと大きかったら良かったのにという気もするが、この手の映画にヒロインがあまり目立ってもバランスが悪いか。
残念だったのは、最後まで気を持たせた木島と伍郎の直接バトルがなかったこと。豊原功補の悪役っぷりが良かっただけに、これでは物足りない。
木島が統括するのは、リスク管理をする政府お抱えの闇組織RCAなのだが、その存在が明るみに出てしまうのが終盤の場面。ここで国会答弁中に伍郎が現れ、証拠写真を議員たちにバラまき大騒ぎになるというものだ。
敵に一矢を報いた場面は溜飲がさがるとはいえ、国会でこんな不審人物(伍郎)が闖入して何かを配布するような事態が起きるのはさすがにあり得ないだろう。国会の警備はどうなっているのだ。
◇
ラストカットでは、佳子が伍郎と並んで繁華街を歩いている。伍郎は敵に撃たれたために片腕を失ったのだろう。国会シーンでは義手になっているし、その前のアクションでは片手を使っていないからだ。
だが、佳子が生きているのは解せない。だって敵に何発も撃たれたし、とどめまで刺されている。
これで生きているのなら、相手にも詐欺仲間がいて結託していたとしか思えない。それなら最後に謎ときしてくれないと、どうもスッキリしないのだが。