『メッセンジャー』考察とネタバレ!あらすじ・評価・感想・解説・レビュー | シネフィリー

『メッセンジャー』ホイチョイ的映画レビューこの一本②

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『メッセンジャー』

ホイチョイが草彅剛と飯島直子の共演で贈る自転車便の青春ラブコメ。世紀末の東京が熱い。

公開:1999 年  時間:118分  
製作国:日本

スタッフ 
監督:       馬場康夫
脚本:      戸田山雅司


キャスト
清水尚実:     飯島直子
鈴木宏法:      草彅剛
横田重一:     矢部浩之
阿部由美子:   京野ことみ
島野真:      加山雄三
服部宣之:     青木伸輔
細川孝之:      京晋佑
岡野博:      別所哲也
太田量久:     小木茂光
前川万美子:    伊藤裕子

勝手に評点:4.0
  (オススメ!)

あらすじ

高級ブランドのアパレルのプレス・尚実(飯島直子)は、会社のカネでゴージャスな生活を送る自信過剰な勘違い女。突然、会社が倒産してすべてを失い、無一文になる。

恋人だった岡野(別所哲也)から見放され、債権者から逃げる尚実は、自転車メッセンジャー・横田(矢部浩之)を骨折させる事故を起こしてしまう。

示談を条件に、尚実は渋々横田の代役で配送をすることになり、熱血メッセンジャー・鈴木(草彅剛)のもとで働くが…。

今更レビュー(ネタバレあり)

馬場康夫監督率いるホイチョイ・プロダクションズの映画第4弾。隔年でヒットを飛ばしたシーズンスポーツ三部作の最後『波の数だけ抱きしめて』(1991)から8年ぶりとなる作品。

公開以来久々に観たが、これはなかなかの良作だと思っている。これまでのありきたりなスキーやマリンスポーツから、自転車便というユニークなテーマに変えた着眼点が素晴らしい。

ホイチョイ映画はライバルがいないと成立しないので、バイク便VS自転車便という対立構造を作ったのも面白いし、何より見慣れた東京の町を舞台に、これほど新鮮味を出せたことも、自転車便ならではの利点だ。

自動車からの移動ビューなら珍しくないが、マウンテンバイクで縦横無尽に走り回る絵というのが、何とも気持ちよい。

主人公は、エンリコ・ダンドロという高級アパレルのプレスを務め、バブリーな仕事を引きずっている高慢な女、清水尚実(飯島直子)

マンションもクルマも、そのブランドを扱う商社勤めの恋人・岡野(別所哲也)が会社の資金で用意したものだったが、ダンドロが破綻し、尚実も放り出される。

愛車も差し押さえられないようにと逃走中に、配送中の横田(矢部浩之)の自転車をはね、骨折させた尚実は、示談の条件に自転車便を手伝う羽目に。

こうして尚実は、シャンパンの泡に浸かった虚飾の世界から炎天下を走り回る自転車便の肉体労働の下界へと足を踏み入れ、単身で自転車便の仕事をこなす熱血サイクリング野郎の鈴木(草彅剛)と出会う。

話の流れは可もなく不可もなくだが、フェラガモっぽいダンドロのブランドに、岡野の勤務先は『私をスキーに連れてって』でも主人公たちの職場だった安宅物産

実在し破綻した大手商社の安宅産業由来となれば、それを救済合併した、アパレルに強い伊藤忠商事がモデルなのだろう。尚実が会社に買い与えられてたアルファロメオ・スパイダーだって、昔は伊藤忠オートが輸入代理店だったし。

なお、それ以外の商品名等は、バドワイザーからシティバンク、小学館の雑誌名に至るまで、実名でタイアップしているのがホイチョイの定番手法。

次作の『バブルへGO‼』では、タイムスリップしたバブル初頭の六本木界隈のエモさにやられたが、本作は1999年公開なので、自転車で移動しながら前世紀末の東京各地の飾らない町並が堪能できるのが結構楽しい。

東海、さくら、富士、三和、興銀。今や見ることのない銀行の看板ばかり目立つ(そもそもシティバンクも撤退したし)。

主な舞台は大手町、品川、芝浦、西新宿、紀尾井町、原宿あたりか。東京タワーは妙に目立ったが、八重洲品川港南口の再開発もコレド日本橋もなく、タワマンの本数も限られる。

個人的には、かつての職場近くだった呉服橋やら大手町やらが懐かしい。

高輪ゲートウェイ駅など当然ないが、大人も屈まないと歩けない天井高の泉岳寺トンネル(山手線高架下)が映画の重要な役で登場するのが嬉しい(ここ、先月も歩いたばかりだけど、もはや歩道のみ残存)。

堅物で素っ気ない鈴木のスパルタ指導で、なんとか自転車便の見習いを始めた尚実だが、当然こんな仕事が性に合う筈もなく、もう辞めるからという話になる。

だが、入院中の横田の恋人・由美子(京野ことみ)が彼と別れて帰省するところを、尚実が長距離バスを自転車で追いかけて彼のメッセージを届けて復縁させる。

更に、バイク便との競争を安宅物産審査部の太田(小木茂光)に提案し、鈴木が勝ったことで大きな仕事を独占する。そんなことで、尚実は自転車便の仕事に面白味を見出し、馴染んでいく。

とはいえ、鈴木と二人の会社では、安宅物産の業務量は受けられない。

そこに、帰省を諦めた由美子、勝負に負けてバイク便をクビになった服部(青木伸輔)、そして警官を定年退職したばかりの島野(加山雄三)が加わり、5人で仕事をこなしていくことに。何と楽しいご都合主義だ。

尚実役の飯島直子はこの時期既に「ジョージア」CMで癒し系女子として人気を博しており、CM女王の常連だった。ドラマの活躍が目立っており、映画の主演は珍しいか。序盤の高慢女キャラでも嫌味が少ないのは彼女ならでは。

対する鈴木役の草彅剛は、SMAPとしてでなければ映画初主演。今でこそ性格俳優の座を確保しているが、まだアイドルっぽさの残る当時の演技も爽やかでよい。

鈴木が口ぐせのように言う「楽勝!」「何も言ってないだろう、俺」は、ホイチョイが流行らせようとしている風なのが鼻につくものの、映画の中では有効に使われている。

草彅剛「若いのにオヤジ顔」飯島直子「若作りのレースクイーン」と揶揄されてるのは笑えた。

驚いたのは加山雄三の登場だ。警官役だけのカメオ出演かと思ったら、何と定年後に仲間になるとは。『私をスキーに連れてって』田中邦衛と来れば、こちらは真打登場ということか。

さて、無線を活用した移送途上での配送物バトンタッチの手法で効率的に業務をこなし、商売も波に乗ってきたところで、新たな問題。岡野(別所哲也)が新たな海外ブランドと交渉し、尚実が再びプレスの仕事に招聘される。

今や尚実は自転車便の仕事が好きになってきていたが、折悪く、空気の読めない横田(やべっち)が退院してきて、居座る理由がなくなってしまう。

そこに彼らに仕事を取られたバイク便が、腹いせに安宅物産の配送物を盗んだことで、安宅物産の受注を賭けたバイク便VS自転車便の再試合が行われる運びとなる

岡野の受領印がある以上、届けた鈴木たちに書類紛失の責任はないのだが、強引なんだけど盛り上がる、分かり易い展開。

しかもバイク便はヘッドの細川(京晋佑)が、相手の配送を妨害する悪徳レーサー隊田中要ほか)まで用意。バイク便セルートが全面協力なんだけど、これだけ卑劣な役では、マイナス効果なのではと心配。

ここから先の勝負の展開はよく練られていたと思う。『バブルへGO!!』では、終盤のお座敷ファイトから一気にコントのような流れになってしまうが、本作はこの勝負がクライマックスとして成立している。

チーム全員に見せ場があり、尚実が栄光の世界を捨てて下界に戻り、タイトスカートを破ってペダルを漕ぐ。これは盛り上がり必至。

主人公の女性が裕福な生活を約束する男を捨てて、貧しいながらもガッツのある男を選ぶ話。

そう言って嘘ではないが、本作で尚実が選んだのは、あくまでプレスではなく自転車便という仕事であって、恋人が変わるのは付随的なものというのが、面白い。

ビール飲んだ後で自転車に乗ってみたり、自転車走行禁止のレインボーブリッジを走ってみたりと、法令違反もあったが、終盤には品川駅構内を抜けるわ、顧客のオフィスフロアまで自転車で上がるわと、更にエスカレートするので気にせずにいこう。

最後に流れるのは久保田利伸「Messengers Rhyme」。これは本人のCD曲よりも、エンディングで出演者が踊ってラップするバージョンの方が(下手だけど)断然盛り上がれる。「楽勝!楽勝!」